第三十八話 はぁ?
俺はルーサ。
本名は、いいだろう。皆からルーサと呼ばれている。俺も、この名前を気に入っている。
我らの大将は、規格外だ。
他の神殿がどうやって運営しているのか知らないが、大将ほどのことはしていないと思う。
まず、アーティファクトの量が尋常ではない。アーティファクトの複製が可能なのか、ドワーフたちに聞いたが、”無理だ”と言っていた。似たような物を作ろうと頑張ってみたが、完全に同じサイズのネジなど作る技術はないと言っている。
しかし、大将は簡単に用意してくる。
それだけではない。子供にまで、アーティファクトを与えている。
認証とか言っている物が付けられていて、認められた者にしか動かす事ができない様にはなっているようだ。
実際に、
数日後に、認証キーは盗まれたと解った。帝国の貴族に繋がりがある豪商が盗んだのだ。豪商は、捕まって裁かれることになったのだが、どうやっても認証キーの複製が出来なかった。それだけではなく、本物の認証キーを使っても、アーティファクトを盗み出す事が出来なかったらしい。
大将に聞いたら、認証キーにも仕掛けがあって、登録した者しか動作しない。そして、認証キーに登録していない者が持ってアーティファクトに動かそうとしたら、場所が特定されるようになっていると教えられた。
それから、動かせるアーティファクトも認証キーで違っているから、俺が持っている認証キーで大将のアーティファクトを動かそうとしても動かないらしい。よくわからないが、そういうことだ。
その大将から、誰でもいいから”ナビ”が示す場所に、マイクロバスで来て欲しいと依頼が入った。
厳正な奪い合いの結果。俺が、大将から指示されたアーティファクトを運転して、向かう事になった。
このナビという奴はすごい。
地図が表示されるだけではなく、近くにいる魔物まで表示される。そして、アーティファクトがぶつかったときに倒せるのか表示される。無理に討伐する必要はないが、道に出てきた魔物は倒していこうと俺たちが決めた。大将は、俺たちに任せると言ってくれているが、魔物は悪だ。倒しておいた方がいい。アーティファクトに乗っていても、当たり方が悪かったりしたら、アーティファクトが壊れてしまう。大将には悪いが、実験させてもらって大凡の当て方が解った。俺たちのノウハウだ。しっかりと、神殿に住んでいて、アーティファクトの認証キーを貰っている奴らと共有している。
大将は、教習場とか言ってアーティファクトの動かし方や曲げ方や止まり方を教えている。それに合格して、大将が用意した箱庭を安全に動かせられたら、月に一回の試験を受ける。それに合格したら、今度は神殿の中でアーティファクトを動かす。神殿の中で問題が無ければ、外に出る。この時点で、専用のアーティファクトが与えられる。
既に、100名近い者が専用のアーティファクトを大将から貸し与えられている。
ドワーフたちがいうには、神殿の特定のエリアにアーティファクトを休ませておけば、魔力が復活するらしい。
別に、王都でも止めていれば、微弱だが復活はするが、神殿の特定エリアだと、傷が修復したり、消耗品が補充されたり、いろいろ修復される。アーティファクトだからと思っているが、問題があるようなら神殿まで戻ればいいというのは楽だ。
そうそう、それで、ナビを使って向かった場所は、驚いた。
エルフが住んでいる里だ。
それも、大将に危害を加えようとして捉えられたエルフの輸送が俺の仕事だ。
大将は何をした?大将に何をした?
思わず、乗せられてきたエルフたちを睨んでしまった。スキルは封じられていると言われた。それから、食事も最小限でいいと言われた。届け先は、大将の執事長だ。全員が奴隷だと教えられた。
「セバス殿」
「ルーサ殿。ありがとうございます。旦那様から聞いていた人数です」
「どこに降ろす?」
「そのまま、神殿の地下にお願いします」
「え?売らないのか?」
「はい。旦那様からは、帝国の兵と同じ扱いで良いと言われています」
大将の怖い所だ。
大将は、味方には甘い。俺のような者にでも、普通に話しかける。アーティファクトを貸し与える。それだけではない。衣食住を与えて、仕事を与える。領主として考えても、最高の領主だ。
裏切られるまで信じていてくれる。
以前に、アーティファクトを売りさばこうとした者が居た。しっかりと、裁きの門を通過して、神殿に住む権利を勝ち取っていた者だ。大将の試験にも合格してアーティファクトを貸し与えられていた。それを、帝国に売ろうとした。すぐに捕まった。男は、言い訳をしていた。大将は、全ての言い訳を聞いたうえで、全部の言い訳が真実か調べさせた。その間、男は神殿内部に閉じ込められていた。
言い訳の半分が本当だったが、半分は嘘に近い誇張だったことがわかった。
大将は、泣き言を言い始めた男の前に立って、一言だけ
「残念だよ。家族が人質にされた時に言ってくれたら助けたのに・・・。本当に、残念だ」
それだけ言って、男の首を切り落とした。
それ以降、似たような事案があっても、この教訓がある為に、俺たちも他の村や砦の者たちも、上に相談して、それを聞いた者たちも自分たちで対処が無理なら大将に相談するようになった。
多分、エルフの奴隷たちは、神殿の中で働かされるのだろう。
大将から感じたのは、かなりの怒りだ。あの殺した男に向けている視線よりも厳しかった。哀れの感情もなかった。魔物に向けるような。路傍の石に向けているような視線だけだ。
エルフをセバス殿に預けて、アシュリに戻った。
アシュリは、アシュリで忙しい。
日々、王国から商人が訪れる。商人を装った間者ならまだ可愛い。時には、破壊工作を行う目的で入り込もうとする者たちも居る。事前に解ればいいのだが、全部を排除するのは不可能だ。大将からは、アシュリは第一の門の役目で、間引きが出来れば十分だと言われている。
エルフの護送は面倒では無かったが、奴らがいちいちうるさかった。何度、殺してやろうかと思ったことか・・・。
それも終わって、やっと日常が戻ってきた。
神殿からの荷物や伝令で、降りて来る。カイルやイチカと勝負をしたり、ゲームを楽しんだり、生活が戻ってきたと思えていた。
「ルーサ様」
「お!何か合ったのか?」
身体が動かせるかと思ったが、手元を見れば書類を抱えている。今日も、部屋での仕事の様だ。
こればっかりは、大将に文句を言いたくなってしまう。
「わかった。机の上に置いておいてくれ」
「かしこまりました」
俺が、従者を付けられるとは思っていなかった。
それも、これも、全て大将が悪い。だから、大将には、しっかりと責任を取ってもらわなければならない。
「ルーサ様。神殿から、セバス様の使いが来ております」
「わかった。すぐに向かう」
珍しい。
名指しでの指示か?
使者は、モミジ殿だ。
大将に直接仕えている数少ないメイドの一人だ。
「ルーサ様。旦那様からのご依頼をお持ちいたしました」
「大将から?直接?俺に?」
「はい」
モミジ殿が差し出した書簡を受け取る。正直、嫌な予感がしている。背中に嫌な汗が流れる。しかし、”受け取らない”という選択肢はない。
ふぅ・・・。
覚悟を決めて、封を切り、内容を確認する。
「はぁぁぁぁ???」
「そのお気持ち・・・。解ります」
大将。
帝国の皇女?それだけならまだいい。俺だけなら、思う事はあるけど、飲み込もう。大将が考えた事だ。従おう。
でも、カイルとイチカ?
モンキーを持ってこいは、なんとなくリーゼ嬢の為だろう。それにしても、アーティファクトの種類まで指定されている。荷物を運ぶ奴は、アシュリに居る奴でも大丈夫だろう。帝国の馬車を持っていくとなると、ドワーフの誰かを連れて行った方がいいかもしれない。
カイルとイチカ・・・。
いきなり皇女に殴りかかるような事はしないだろうが・・・。
俺は、ストッパーの役目を大将から期待されているのか?