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第三十三話 亡命?


 目の前に居るピンク頭は、”亡命”と言ったか?
 ”神殿への亡命”と言ったよな?

 リーゼを見ると、完全に聞かなかったことにしたようで、フェンリルを撫でている。話に加わろうとしない。実際に、リーゼに”何か”できるとは・・・。思わないが、話を聞くくらいはしてもいいだろう。
 フェンリルを撫でながら、少しずつ距離を取っている。うまいやり方だ。
 どこで、そんな姑息なテクニックを覚えたのか、じっくりと聞き出したい所だが、今は、目の前で発生している事柄を・・・。

「はぁ・・・。亡命ですか?理由を伺っても?」

「え?」

 あっこの姫様は、思いつきだけで行動しているな。
 姫様以外は、俺を睨んでいる。俺を睨んでも何も変わらない。困ったことを言い出したのは、お前たちが守っている”姫様”であって、俺ではない。

「しばらくは、この辺りで休みます。侍女や護衛の方とお話をされては?」

 姫様ではなく、騎士やメイドに向けての言葉だ。
 ”姫様”の真意を聞き出せと言いたいのだが、言い回しが解らない。俺が言った言葉で、意味が通じているのか不安になる。

「え?あっ。そうですね。神殿の主様。ご配慮、ありがとうございます」

 配慮ではない。
 面倒ごとになりそうだから回避したい。

「大丈夫です。護衛の方で、どなたか、襲われた時の事情を説明できる方とお話をさせていただきたいのですが?」

「ヒルダ」「っは」

 やはり、ヒルダと呼ばれていた者が、襲われた状況が解っているようだ。
 姫様を守るために、戦ったのだろう。

「ヒルダ。神殿の主様に、状況を説明して、貴女が最初にゴブリンたちに気が付いたのでしょう?」

 微妙な表情をする。
 もしかしたら、姫様が感じているとの違うことを考えているのか?

 姫様の命令なので、従ってくれるような。
 目線で何かを伝えている。”俺とリーゼを監視する”感じかな?別に、監視されても、困らない。逃げようと思えば、方法は簡単だ。眷属たちをけしかけて、FITに乗り込んでしまえば、あとは簡単だ。エンジンをスタートさせて、アクセルを踏み込むだけで、追いつけないだろう。

「それで何が知りたい」

 姫騎士・・・。ヒルダ嬢は、疎ましそうに俺を見てから口を開いた。
 決めたのは、姫様なのだから、俺じゃなくて、姫様に・・・。言えないから、俺を睨んでいるのだろう。今は、安全だと思えても、どんな危険があるのか解らない状況では当然の対応だ。

「襲われた時に、ゴブリン以外に”誰か”居なかったか?」

「おかしな事を・・・。ん?そういえば?」

「そういえば?」

「姫様が乗る馬車を追い越していった者が居た」

「その馬車は?」

「すまん。私は、姫様の護衛で、ゴブリンが襲ってきた場面しか見ていない」

「誰か、馬車を見ている人は居ませんか?」

「やけに、馬車を気にされていますが、何か理由があるのですか?」

 気が付いていないのか?
 それとも、ごまかしているのか・・・。

 判断ができない。

「そうですね。2点だけ、不思議なことがあります」

「2点?」

「はい。1点目は、このあたりは街道として整備されています。帝国には、行ったことがないので、違うかもしれませんが、王国では、整備された街道では、魔物は殆ど出現しません。まして、この辺りには、近く森だけではなく魔物が生息している地形ではありません。魔物が普段生活している場所ではありません」

「それは、私たちには、なんとも・・・」

 帝国と違うと言ったが、帝国でも人が多い場所には、魔物が自然と出没することはないだろう。
 この街道は、確かに整備されているけど、使う頻度は多くはない。でも、いきなり、ピンポイントで、馬車の周りに上位種を含む魔物が出現するとは思えない。

「解っている。だから、何か情報が得られたらと考えた」

「それで?」

「2点目ですが、1点目にも関わるのだけど、魔物の足跡が・・・。正確には、ゴブリンの足跡がない。突然、湧いているように思える」

「・・・」

 やはり、いきなり襲われて、対処が出来なかったのだろう。
 そうなると、召喚されたのか?

 方法が解らないが、通り過ぎた馬車が関係している。

「貴殿の”心証”で構わない。狙われたのは、偶然か?」

 答えが返ってくることは無かったが、表情が物語っている。
 厄介ごとだな。亡命を受け入れるのは簡単だ。西側の別荘地に引っ込んで貰えれば、厄介ごとの発生は抑えられる。可能性がある。

 でも、間違いなく、厄介ごとを抱え込んでいる。
 身分だけではなく、襲われた状況が、不明瞭なのも厄介だ。対処が考えられない。誰を、何を、警戒したらいいのか解らない。

「そういえば・・・」

「どんな些細な事でもいい」

「追い越していった馬車は、連結馬車だと・・・。思う」

「連結馬車?」

「知らないのか?」

「知識としてはあるが、実際に現物を見たことはない」

「そうか、神殿では・・・。そうだな。アーティファクトを使っているから、馬車は使わないのだな」

「使わない・・・。ことは、無いのだが、貴族が来る時に使っていたのを見るくらいだ」

「説明は・・・」「必要ない」

 必要ない。
 そうか、連結馬車を使ったのなら、捕えたゴブリンを解き放ったのか?

「馬車が過ぎ去ってから、ゴブリンに襲われるまでの時間は?」

「ん?」

「だから、連結馬車が、貴殿たちが乗った馬車を追い越していった。その後でゴブリンが出現したのだろう?」

「そういうことか?解らない。すぐに襲われたという感覚だ。数分くらいは間が開いているような感じもする」

 難しい状況だな。
 判断ができない。

 間違いなく狙われたのだろう。

「不躾な事を聞くが、姫様が狙われる理由はあるのか?」

 狙われているのは確定だけど、理由は、本人たちが把握していなければ、亡命してきても、厄介ごとへの対処が難しい。
 亡命を認めてもいいとは思うが、厄介ごとを含めて、話せないことがあるようなら、亡命は拒否する。

「狙われる?」

「あぁ貴殿からの情報と、俺が感じたことを、合わせると、姫様が狙われているとしか思えない」

「・・・」

「心当たりがあるのだな」

 ヒルダ嬢は、悔しそうに頷いた。

「わかった。内容までは、話せないのだろう。姫様が、俺に説明してよいのか判断すると思うが、俺として、神殿に受け入れる条件を提示したい」

「条件?」

「当然だろう?散々、神殿の領域だと言っている場所に兵を差し向けるような国の王族だぞ?無条件で受け入れられると思うか?」

「・・・」

「その顔は、何か言いたいのだろうけど、今の時点で、俺だけではなく、神殿は、姫様と帝国は同一だと判断するしかない」

「くっ」

「そうだろう?姫様の事も何も知らない。帝国の内部情報も何も手元にない。説明してくれるはずの、騎士は大事なことは話せないのか、言葉を濁す。それで、何を信頼しろというのだ?不信感しか出てこない」

「ならば、どうしろと!」

「ほら、それだよ。何か、都合が悪くなれば、剣に手を添えて、大声で詰め寄る。そんな人間が何を言っても何を信じろと?貴殿は、脅すような者を信頼できるのか?俺は、無理だ。もし、脅すような奴の手を取りたいのなら、そうしてくれ、俺や神殿には近づかないでくれ、頼む。迷惑だ」

 馬車から姫様が降りて来る。
 俺とヒルダ嬢の話が聞こえたのだろう。それと、メイドも降りてきた。話がまとまったのか?

「ヒルダ」

「姫様!」

「ヒルダ。下がりなさい。私が、神殿の主様と話をします」

「しかし・・・。ひめ」「ヒルダ!」

「はい」

 ヒルダ嬢が、メイドが居る場所まで下がる。
 姫様は、俺の前まで歩いてきて、頭を下げる。

 それで、後ろを向いて、ヒルダ嬢とメイドに下がるように指示を出す。
 メイドは、渋々だが従った。ヒルダ嬢は、抵抗したが、姫様が強く命令をだしたら、馬車の位置まで下がった。

 あの距離に意味があるとは思えない。
 騎士としてギリギリの妥協なのだろう。

 姫様は、持ってきた袋から、道具を取り出す。

「神殿の主様。この魔道具を発動してよろしいでしょうか?」

「これは?」

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