第二十七話 決着?
この神殿。詰んでいないか?
いや、まだ大丈夫だ。魔物への対処ができればいい。それに、大物は多くない。対処が可能な魔物だけなら、問題ではない。
どうやら、俺がこのコアを吸収するのはできるようだが、そうなると、エルフたちをどうするのか考えなければならない。神殿に依存している者たちを、俺の神殿に住まわせるだけで終わるのならいいのだけど、問題まで一緒につれていくことになりそうだ。
それでなくても、俺の神殿は”多種族”が住んでいる。
エルフのように他種族を見下す者たちは来て欲しくない。他種族との接触を避けるために、エルフだけ特別な場所を作れば、それは住民との差が出てしまう。どちらがいいのかお互いに知らなければ、相手のほうがよい環境だと考えてしまう。
なんとか、こちらの神殿で問題を解決できる方法を考えなければ・・・。
そもそも、俺が考えることなのか?
「コア。3種類の魔物を呼び出すとして、何体の召喚が可能だ?」
エルフもエルフだ。
よくここまで面倒な状況にできたな。
『計算中・・・。それぞれ10体の召喚が可能です』
10体かぁ思っていた以上だ。
それならまだ可能性があるか?
エルフの中から10名を選別して・・・。だれが?
神殿が召喚した魔物を渡す。選民意識が芽生えるよな?
眷属の主は
一つでも、履行されなくなったら、それこそ、滅んでしまえばいい。
「コア。外の様子がわからないけど、魔物の駆逐は進んでいるか?」
眷属たちが魔物を討伐している。
ある程度の魔物の討伐ができているのなら、次の段階に進みたい。
『アルファ神殿のマスターの尽力で、大物を残して駆逐されています』
大物?
フィールドボスだと思えばいいのか?
「大物の行動範囲は把握できているのか?コアが張った結界で抑え込めるのか?」
『行動範囲は不明です。結界で抑え込めます』
結界で抑え込めるのなら、可能性が広がる。
確かに、結界で抑え込めなければ、現在の状態にはなっていないな。
「眷属たちが、魔物を駆逐した場所の結界を変更できるか?」
『可能です』
「結界で、大物を囲うようにしろ。少しくらいは余裕があるといいだろう」
『了』
「結界の外側に、壁が作られるか?」
『是』
光明だ。
大物が隔離できて、それ以外なら、眷属たちで駆逐できる。
10組もいれば、そこから強者も産まれるだろう。時間稼ぎにもなる。その上、素材から金銭を得ることもできる。はずだ。
「よし、それなら、結界の周りを石壁で覆って、門を設置。門には、強敵注意や閉じ込めた魔物の詳細を記載。召喚した眷属は、中に入られないと明記しろ」
『はい』
あとは、誰が眷属の”主”になるのかだけど、これはエルフに任せよう。
俺が考えることではない。
その前に、討伐した魔物の素材は、エルフに進呈しよう。俺が貰って帰っても、意味が薄い。
エルフたちに後始末を押し付けよう。素材を剥ぎ取れば多少でも交易に役立つだろう。この世界のエルフは、普通に”肉”を食べるから、魔物の肉で食べられる物は食料にもなるだろう。
「それから、コアが言っているアルファ神殿のコアに連絡して、魔物の死体をまとめさせるように指示を出してくれ」
マルスとはつながらない。
スマホを確認してみたが、圏外となっている。不思議な空間だけど、神殿の周りだからしょうがないのだろう。
『了』
心配そうに俺を見ているリーゼの頭を軽くなでてから、コアに話しかける。
「コア。巫女が必要なのか?」
『必要ですが、必要ではありません』
「それはなぜだ?」
『禁則事項』
やっぱり、なにかまだ隠されている。
マルスに聞かなければわからないのか?
「さて、コア。10組の眷属を召喚する場所を作ろう。それなりに、厳かな感じがいいだろう。俺の記憶は読めるか?ついでに、お前の依代を作れば、仮のの管理者として振る舞えるだろう?」
『否』
「マルス。アルファ神殿のコアに連絡をして、俺が考える神殿を教えてもらえ」
『はい・・・。確認中。受領。是。サポートを受けます。是』
「ヤス?」
「ん?あぁ簡単にいうと、エルフ族は、ここに入れたくない。だから、神殿を別に作って、そこで、コアの依代を作って、管理者・・・。または、巫女を演じさせる。マルスがサポートを行えば、問題は少ないだろう。そのうえで、眷属をエルフに与えて、魔物の討伐を行わせる。ただし、眷属でも敵わないような魔物は結界で囲って外に出ないようにする。戦うときには、眷属は一緒にいかない。あとは、エルフの頑張り次第だ」
「うわぁ・・・」
リーゼが引きつった表情をしているのは、エルフ族に全部の責任を取らせる方法を俺が考えたからだろう。
反対の意見も無いことだし、このままコアには頑張ってもらう。
マルスがサポートしていると言うのだから、俺の考えはわかるだろう。
「コア。マルス。アルファ神殿のコアから情報は引き出せたか?」
『是』
「コアの依代も大丈夫か?」
『是』
「実行に問題は?エルフが”愚か”とは別だぞ」
『現状の実力で実現可能です』
「よし、コア。依代を作れ。神殿の中で活動するように、あとエルフ族への呼びかけを行え」
『了』
ここからは早かった。
神殿が里の近くにできたことで、エルフ族の一部は結界が変わったことに気がついた。
しかし、入られない長老やエルフ族はそのままになっている。
神殿にたどり着けたものは最低限の約束事が守られるだろう。
依代を得たコアは、名を”マリア”としていた。マスターが定めた名前だと言っていた。エルフ族には、神殿の巫女だと名乗った。これで、リーゼが”鍵”でも”巫女”でもないことが明確になった。俺としては、この一点だけで十分だ。
その後、ラフネスが筆頭になり、眷属が与えられた。
10組の眷属を得たエルフは、魔物の駆除を行う。もし、役割に耐えられなくなったら、神殿にて代替わりを行うことになる。そして、眷属は結界の中でしか活動ができない。また、エルフ族を襲わせた場合には、罰則で命令した者は里を追放される。魔物の駆逐を一定以上行わなかった場合にも同じ処分がくだされる。これは、マリアと名乗ったコアが、神殿からの神託を受けて実行する(ことに決まった)。
細々としたことは、これからエルフの長老衆とマリアで決めることになる。
これで・・・。
「ヤス様」
「ラフネスか?眷属たちは?」
「影に潜んでいます」
「これで、やっていけるよな?」
「ありがとございます」
「なんのことだ?俺は、何もしていない」
「そうですね。でも、ありがとうございます」
「わかった。わかった」
ラフネスが手を出してくる。
今度は、しっかりとした感じで、ラフネスと握手をする。
「ヤス様。一つ、お願いがあるのですが?」
「なんだ?まだなにかあるのか?」
「いえ、これからのことです」
「これから?」
「はい。私は、里の長に名を連ねることになってしまって、外の里と両方の面倒を見ます」
「それはそれは・・・」
「そこで、ヤス様。エルフの森で狩った魔物の素材を引き取って欲しいのですが?」
「すぐに返答はできない。行商が可能な人材が見つかれば、エルフの里とユーラットを行商させよう」
「わかりました」
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”アルファ神殿様”
”マルスと呼称することを許します”
”わかりました。マルス様。ご指示の通りにいたしました”
”確認しました。巫女は、助かりました”
”いえ、巫女候補だとは知らずに、失礼いたしました”
”かまいません。辻褄があえばいいのです”
”はい”
マルスは、いつでも介入ができたのだが、コアからの要請に従って、サポートにとどめた。
サポートに徹する条件として、リーゼを巫女に認定しないことを提示して、コアは受諾した。
リーゼは、
2つのコアの裏での取引は、リーゼはもちろんヤスにも知らされていない。