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第三百六話


 ゴブリンの新種?が落したスキルカードを見ているのだが、チアル大陸で出現していたゴブリンたちが、落すスキルカードとの違いは見られない。

「カイ!ウミ!」

 スキルカードの回収が終わっているが、また奥からゴブリンの新種と思われる気配が近づいてくる。

 カイとウミも解っているのだろう、臨戦態勢に戻る。
 ライが分体で周りの探索を始める。

 スキルに頼ることも出来るのだが、新種のゴブリンは急に湧いた感じがした。
 もし、これがダンジョンと同じように、新種として産まれてくるのなら、対策が難しい。チアル大陸でも、街中でいきなり、新種が生まれて来る可能性がある。今のところ、新種を含めて、魔物が産まれたという報告はない。
 後で、ルートガーに確認をしてみるが、魔物が生活圏内に産まれたのなら、俺に報告が上がってくるはずだ。

 対処が終わったとしても、俺に報告が上がってくる。
 それに、噂話としても聞いていないことを考えれば、チアル大陸では、生活圏内に魔物が突然現れる事案は発生していない。

 チアル大陸の生活圏内は、コアたちの勢力になっているから、魔物が産まれない可能性が高い。しかし、生活圏内以外では新種が生まれてしまう可能性がある。実際に、俺が大陸を把握する前には、森の中で魔物が産まれていた。

『カズ兄。倒していい?』

 ウミが痺れを切らしている。

「カイ。ウミ。1体は生け捕りにしてくれ、あとは倒していいぞ」

 許可を出すと、ウミが走り出して、新種のゴブリンに攻撃を仕掛ける。
 カイは、ウミに支援のスキルをかけてから、後ろに回り込むように動きを見せる。

 ライは俺の周りに待機している。
 分体からの情報を、俺に伝えてくれる。

 どうやら、森の奥に洞窟があり、そこから新種のゴブリンが出てくるようだ。

「ライ。ダンジョンか?」

『違います。普通の洞窟にゴブリンが集落を作った様です』

「わかった」

 どうする?
 巣は潰しておいた方がいい。

 中央大陸だけど、ゼーウ街が潰れるのは・・・。

「新種がいるのか?」

『わかりません』

「そうか・・・。ゴブリンが出て来るように見えるのか?」

『はい』

 やはり潰した方がいいのか?

 もしかしたら・・・。
 実験は出来ないな。

 どこかで、実験をした方がいいのは・・・。

 できる場所があるとは思えない。

”蟲毒”

 新種が産まれる条件が、蟲毒だとしたら・・・。
 巣が産まれてから、新種が産まれるのだとしたら、巣を潰していけば、蟲毒の状態にはならない。本来の蟲毒では、複数の毒虫を集めるのだが、同種で戦う・・・。

 人間も同じだな。

 俺は、蟲毒を・・・。
 飛躍した考えだな。

 今は、新種の発生原因が”巣”にあると仮定して動いたほうがよさそうだ。

『カズト様。終わりました』

「カイ。ウミ。ゴブリンの巣が見つかった」

『カズ兄。生け捕りにしたゴブリンはどうする?』

「ホームに入れておいてくれ、コアに解析を頼む。ライ。頼めるか?」

『はい』

 ウミが引っ張ってきていた新種のゴブリンをライが飲み込む。
 これで、解析が出来れば・・・。新種に関しての情報は、今はどんな事を・・・。得られる可能性を少しでも増やしたい。

 ”巣”も殲滅しよう。
 スキルカードは低位のレベルしか出ないけど、在庫が怪しいカードもある。
 使わないカードは置いてきているが、増える分には問題にはならない。在庫が増えると思えばいいのだ。それに、ゼーウに”貸し”として渡してもいいだろう。どうせ、低位のレベルだけだ。

 新種が産まれてこなければ、放置が決定するような案件だな。

「カイ。ウミ。ゴブリンの巣を殲滅するぞ。ライ。案内を頼む」

 ライの案内で森の中に足を踏み入れる。
 チアル大陸では、一部を除いて森は、以前と比べると安全になっている。

 久しぶりの感覚で嬉しく思えて来る。

 時間的な余裕もないから、さっさと”巣”を駆逐しよう。

 ”巣”があると思われる洞窟の入口は考えていた以上に狭そうだ。

「ライ。洞窟に他の出口はありそうか?」

『”ない”と思われます』

「わかった。ライは、”巣”が他に繋がっていないか確認してくれ、カイとウミはスキルを使って殲滅だ。スキルカードは、ライが回収してくれ、俺はカイとウミのサポートをする」

 俺の合図で、三方向から攻め込む。
 入口が狭いから、俺が最初に入るのは無理だ。

 ライから報告が入った。

『繋がっているか不明ですが、ゴブリンの”巣”があります』

「ウミ。ライのサポートに行けるか?」

『うん!』

 洞窟からウミが飛び出して、ライが誘導する別の洞窟に向かう。

 繋がっているといいのだけど・・・。

 結局、”巣”は繋がっていた。

 最初に見つけた”巣”には、新種がいなかった。
 俺が突入するまでもなく、ゴブリンの上位種なら、カイだけで十分に対応ができる。

 俺にも残しておいてほしいとは思ったが、散らばっているスキルカードを拾い集めるのに集中していたら、終わっていた。

 最悪な想像が当たってしまっているようだ。

 カイとウミとライが入っていない部屋に戦闘の痕跡があり、そこにスキルカードが散らばっていた。
 ダンジョンならコアが吸収していたのだろうけど、洞窟はダンジョンではない。
 その為に、スキルカードが残されていた。

 戦闘の跡からは、ゴブリン程度の者たちが戦ったのは解るが、新種が産まれたのかは判断が出来ない。

 ”蟲毒”と似たような現象が発生して、偶然の産物なのか、それとも狙った結果なのか・・・。判断は難しい。

 俺が考えた、『”蟲毒”から新種が産まれる』は、正しいようだ。
 それでは、最初に新種だと考えていた”できそこない”も説明ができる。

 新種に至るまでの戦闘が行われなかった。その為に、新種になり切れない状況で”蟲毒”が終わってしまった。

 新種は、別種なのだろう。
 ”巣”から出て、新しい場所に向ったのか、戦いを求めたのか解らない。

 今まで、俺たちが遭遇した”できそこない”がゴブリンなのか解らない。大きさから、ゴブリンよりも小さい魔物の”できそこない”の可能性が高い。

 ”蟲毒”が発生した場所を調べると、自然に出来た部屋だと解る。扉のような物は存在しないが、つづら折りになった通路が扉のようになっている。簡単に逃げ出せないような状況になっていたのだろう。逃げ出そうと、岩壁を叩いた跡も見られる。

『カズト様』

 カイが何かを持ってきた。

 レベル5 猛毒?

 ゴブリンがレベル5のスキルカードを落とすのか?

 最高でも、レベル3までだったはずだ。
 2ランクも上のカードを?
 レアドロップ?

 ”贄”か?

 そもそも、”猛毒”のスキルカードを知らない。
 ”毒”なら、レベル4で存在している。

 他には、目新しいスキルカードはなさそうだ。

 解らなくなってしまった。
 ゴブリンの上位種が居たのか?

 でも、ゴブリンの上位種でも、レベル5のカードは落ちない。

「ライ。この場所に、抜け道が無いか確認してくれ」

『はい』

「ウミとカイは、洞窟の中を探索して、何もなかったら、他に”巣”がないか調べてくれ。ライ。カイとウミのサポートも頼む」

 皆から了承の言葉が聞かれた。

 ゴブリンが落したスキルカードはいいのだが、死体が残ったゴブリンもいる。

 ダンジョンから出てきたゴブリンが集落を作ったのか?
 それなら、いろいろな説明ができる。

 それでも、新種が産まれるプロセスはなんとなく解ってきたのだが、きっかけが解らない。
 ”できそこない”から”新種”になるのか?

 それとも、”できそこない”と”新種”はプロセスが異なるのか?

 ”蟲毒”のような事が、いろいろな所で、発生しているとは思えない。

 偶然の産物なら・・・。良くはないが、問題は簡単だ。間引きを徹底的に行えばいい。しかし、これが、”人為的”に引き起こされているのだとしたら・・・。

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