さて、目の前で泣き出しそうな顔をしている女性を俺はどうしたらいいのだろうか?
「わかった、俺からリヒャルトには言ってやる」
「本当・・・ですか?」
「あぁ約束する。だから、余計な詮索をするなよ」
「うん!」
「辞めるつもりはないようだな?」
「えぇロックハンドで何をしているのかだけでも教えてくださいよ。夜も寝られない状態です」
「よかったな。寝る必要がないのなら、その分仕事ができるぞ?」
「なんですか?その拷問みたいなセリフは?」
そうか、拷問か・・・。
よく客先に言われたセリフだったな。拷問だったのか・・・。
「それで、カトリナ。本当の目的は?」
「へ?」
「目的だよ?お前が、単なる点数稼ぎをするほど愚か者だとは思っていないぞ?」
「えぇーと。誰かから話を」
「聞いていない」
「それならなぜ?」
「十分に、実績を上げているだろう?ショッピングモールや遊技場だけでも、十分だろう?」
「そうですが・・・。それでも、なんでですか?」
「そうだな。お前の態度があまりにも不自然すぎるからだな」
「不自然ですか?」
「あぁ素直に実績が欲しいのなら、俺に張り付けばいい。俺が見当たらなくても、なんとかできるだろう?」
「・・・」
「確かに、ナーシャから聞き出すは簡単な事だけど、ナーシャから聞き出せる事は、すぐに既知の物となることが多いぞ?」
「既知?」
「公開される情報だな」
「あっ」
「甘味もすぐにレシピが出回っただろう?」
「そうだけど・・・」
「だから、何を焦っている?それが解れば協力する事も考慮するぞ?どうせ、いまやることがないからな」
「え?やることがない?」
「あぁ俺は暇人だぞ?」
「うそ?」
「なんで、カトリナに嘘を言わなければならない」
「だって、いろいろ大変だって言っていたよ?」
「そうだな。俺以外は大変だと思うぞ?」
「へ?」
カトリナの間が抜けた顔が見られたから良かったと思うか?
さて、どうするかな?
実績か・・・
「それで、どうする?」
「お願いします」
素直に頭が下げられるのはいいことだな。
「理由を先に教えろよ」
「それは・・・」
すごく簡単な事だった。
簡単すぎて涙が出てきた。
ファビアンの奴!!
確かに、世間的に見て、ファビアンの功績は、ゼーウ街では飛び抜けた事になる。
俺も、ファビアンの名前をそのまま使った経緯があるから文句は言えない。
「それで、カトリナは、ファビアンと結婚したいけど、ファビアンの功績が大きすぎて、釣り合わないから、功績が欲しかったと?」
うなずくカトリナ。
「カトリナは、ゼーウ街の事はどうやって知った?」
「父から連絡を受けています。その報告書にファビアンとヨーゼフの事が書かれていました」
ちょっとしたボタンの掛け違いがこの事態を招いていると言ってもいいのかも知れない。
「カトリナ」
「はい・・・」
「ファビアンは、カトリナの事を知っているのか?」
「え?」
「名前と顔は一致しているのか?」
「はい。それは大丈夫です。何度も有っていますし・・・。あの・・・。その・・・」
真っ赤にならなくてもいい。
「わかった。それじゃ結婚の障害は無いのだな?」
「へ?」
「ファビアンから、結婚の申し出が有ったと思っていいのだな?」
「はい・・・。ありました。でも、私が・・・」
ほぼ、カトリナの心の問題だな。
今までの実績も、俺からのアイディアを持っていって仕上げを行っただけだから、自分の実績とは思えていないのだろう。
気にしなくてもいいとは思うけど、カトリナの気持ちの問題だからな。
俺がなにか言って変わるような事でもないだろう。
どうした物かな・・・。
命令という形で強行する事はできるだろうけど、それは面白くない。
「カトリナ。秘密を絶対に守れるか?」
「秘密ですか?」
「あぁ秘密だ。リヒャルトにも、将来夫になるファビアンにも秘密にすると誓うのなら、一つ任せたい仕事がある」
カトリナは少しだけ考えてから・・・。答えが固まったのだろう、しっかりと座り直して、姿勢を正した。
「わかりました。誰にも口外いたしません」
「わかった。ついてきてくれ」
カトリナを連れて
元老院に行く。
ルートガーが執務しているのは連絡を受けている。
まずは、ミュルダ老だな。
「ミュルダ老はいるか?」
「はい。いらっしゃいます。お呼びしましょうか?」
「頼む」
「そちらの女性は?」
「老に、担当者候補を連れてきたと伝えてくれれば解る」
「かしこまりました」
「ツクモ様」
「説明が面倒だから、ルートガーとクリスにやらせようと考えているだけだぞ?」
「私が断るとは思っていないのですか?」
「カトリナは絶対に断らない」
「・・・。そうですか?」
「大丈夫だ。悪いようにはしない」
「はい。それは信頼しているのですが、今までの事から、無茶振りされるのではないかと・・・」
「え?そんな感じなの?俺の評価って?」
「え?ご存じないのですか?」
「あぁまったく!無茶振りしているとは思っていなかったからな。これからは、無茶振りしていくことにするよ。ありがとう。カトリナ!」
「え?え?え?私の責任なのですか?」
「ツクモ様。そんなにいじめないでください」
「悪い。それで、老。どうだ?彼女なら合格だと思うけど?」
「そうですな。問題は無いでしょう。実力は・・・誰もが初めてだから、気にしなくて良さそうですな」
「あぁ」
「え?え?」
カトリナ1人置いてけぼり状態になっているが気にしないで話を続ける。
「これが資料か?」
「はい。状況がまとめられています。推測が含まれる部分も加味してあります」
「ありがとう」
ミュルダ老から渡された資料をカトリナに渡す。
かなりの量になってしまったがしょうがない。
「ツクモ様。これは?」
「ん?資料だよ」
「資料はわかりますが、なんの資料なのでしょうか?」
「それを説明するのは、ルートガーの役目だからな」
「え?ルートガー殿?」
「あぁ行くぞ」
「え?あの・・・。アポイントメントを取らなくてもいいのですか?」
「え?アポ?あぁそうだな」
側にいた
「貴方はいつも急ですね。いいですよ。貴方が、迎賓館にカトリナ嬢を連れてきて、元老院に向かったと聞いたから、予定を開けましたよ」
「悪いな」
「本当に、悪いと思っているのなら、先触れくらい出してくださいよ」
「え?必要?」
「はい。はい。わかりました。それで、例の件ですか?」
「あぁ人材も見つかったし、お前の負担を軽くしようという親心だぞ?」
「それは嬉しいのですが・・・。カトリナ嬢に説明しましたか?」
「ん?してない。お前からしてくれるだろう?彼女、実績が欲しいみたいだから丁度いいだろう?」
「実績・・・。あれを、実績と言っていいのか・・・。俺には判断できませんが、間違いなく今までの概念を覆す物ですよ」
「だろう?だから、販路を含めて、彼女に任せるのがいいと思ったのだけどな?ダメか?」
「ダメじゃないですけど、だから、彼女の表情が不安そうな表情から、泣きそうな顔に変わって、今では諦めに似た顔になっていますよ」
そんな些細な事にかまっていられないくらい切羽詰まっている問題がある。
住宅問題だ。
エルフの一部は、ダンジョンの森林フォールドが過ごしやすいようで、一部を開拓して住みやすいように整え始めている。道具さえ渡せば自分たちでなんとかできるようだ。
ドワーフの一部も似たような感じで、自分たちで住む場所を作り始めている。
問題は、そうじゃない者たちの住居が足りていない事だ。
各区には、余剰の住居は用意していたのだが、流入が激しくて足りていない状況になっていた。そこで考えたのが、単身者用のワンルームと家族用の2LDKと3LDKと4LDKの部屋を作ってスキル縮小を付けたライトで小さくして持ち運んで、設置場所で大きくしてから微調整を行う事だ。
この各部屋の間取りや内装や設備と輸送と展開をすべて行うのには無理がある。
現状システムキッチを作っているメンバーを作業に割り当てる事で、作成には問題はなさそうだが、問題になるのが、管理者だ。
俺のスキルの事を多少説明しなきゃならない事も有るのだが、裏切りの可能性が低い者で考えて置かなければならない。
「カトリナ。説明は、したほうがいいようだな」
ブンブンと首を振るカトリナを連れて、ルートガーの執務室に入る。
どうやら、クリスも来ていたようで、知った顔が有ったことで、少しは落ち着いてくれたようだ。
「どこから話したほうがいい?」
「全部といいたい所ですが、概略だけは教えてください。あとは、資料を読んでわからない事を、ルートガー殿に確認します」
「わかった。まず、はじめに、新種の魔物は聞いているか?」
「もちろん」
「それはよかった。って、カトリナも被害者の1人だったな」
「えぇそれと何か繋がるのですか?」
「あぁロックハンド以外の港区に難民が到着しだしているのは?」
「聞いています」
「聞いているか?実際には見ていないのだな」
「はい」
「種族に関しては、どう聞いている?」
「種族ですか?エルフとドワーフだと聞いています」
「そうか、問題が少ないのが、その2つの種族だな」
「問題がすくない?」
「あぁ自分たちで勝手に、住む場所を見つけて、勝手に住んでくれる」
「それは・・・どういうことでしょうか?」
エルフとドワーフの説明は面倒だから省略した。
主に、勝手に住処を作って、勝手に住まない者たちへの対応を、してもらう事を告げる。
「わかりましたが、どうしたらいいのか皆目検討がつきません。大工を手配して、家を立てればいいのですか?」
「それも一つの方法だけど、今回は使わない。いや、使えない」
「どうされるのですか?」
「それを、説明する前に、もう一度聞くけど、秘密は守ってくれるか?」
「はい。もちろんです」
「ツクモ様」
「あぁそうだな。もう一つは、まだ確定ではないが、カトリナには商隊から抜けてもらう事になるかも知れない」
「え?」
「無理か?」
「・・・。いえ、大丈夫です。それだけの事をするのですね」
「そういう事だ」
判断が早いな。
やはいr,カトリナに任せるのがいいだろうな。
「どうだ?ルートガー?」
「問題ないでしょう。人間的には、今までの商取引を見ていればわかりますし、覚悟も大丈夫でしょう」
当事者だけがまだわからない顔をしている。
当然だよな。これで解ったら天才だよな。クリスは、ニコニコしているが、クリスの目で見ても問題がなければ、大丈夫だろう。
「さて、それじゃ場所を移動するか?」
「そうですね。でも・・・」
「わかっている。今日は馬車で行こう」
「わかりました手配させます」
さすがに、ホームの中までは公開するつもりはない。
したがって、移動は迎賓館からペネムダンジョンに向かって、そこから一度ミュルダダンジョンに転移してから、ロックバンドダンジョンに向かう事になる。
なぜこんな面倒な事をしているのかというと、パーミッションの関係でそうしている。何箇所からも行けるような場所にするよりも、ミュルダダンジョン内の転移門から移動できるようにしておけば、ロックハンドダンジョンに有ったとしても、ミュルダダンジョン内にあると錯覚してくれるからだ。これは、新しくミュルダの代官になった者からの
ミュルダが新しいパーツ部屋と呼ぶことにしたのだが、これらのパーツの出荷場所を勝ち取った。
そのかわり、ミュルダは難民の受け入れを一切行わない。アンクラムとサラトガとユーバシャールに難民の受け入れを譲る形となる。住民が増えるというメリットを放棄して、集荷場所としてのメリットだけを享受する事になる。
まだ、各場所とも人手不足だ。
難民でも欲しいという場所が多い。そのために、アンクラムとサラトガとユーバシャールはミュルダからの提案を受け入れた。
場所は、ロックハンドのダンジョンだけど、ロックハンドのダンジョンからは俺しか移動できない。
内部では、すでに神殿区を卒業した者や、エルフ族の初期難民やドワーフやもともとの職人街で働いていた者が、パーツ部屋の作成を行っている。
「ここは?」
「住居の作成をしている」
「え?でも?必要なのは、港や周辺ですよね?」
「あぁそうだな。まぁルートガーとクリスに案内してもらえ。俺は、最終工程の場所に行っている」
「あっはい」
「カトリナさん。行きますよ」
クリスとルートガーに連れられて、工場見学にでかけた。
俺は最終工場に向かった。
ここれは、出来上がったパーツ部屋を縮小している場所で、
新しく、カトリナを追加する事になるのだけど、カトリナが来てから追加すればいい。
一度弾かれる事を経験しておけば、重要性も解るだろう。
2時間くらいしてから、興奮したカトリナ
どうやら、かなり気に入ったようだ。
それから、縮小のライトと拡大のライトの説明をする。
縮小は工場で行うが、拡大はカトリナと一部の者しか使えないようにした状態になる事を伝える。
「ツクモ様」
「なに?」
「これは、なんのために?」
「うーん。難民の対策だけど・・・。本当ならそんなに必要ない方がいいのだよな」
「え?」
「うん。あっ忘れてくれ。必要な数は、ミュルダ老からの資料にまとまっている。区に下ろすときのスキルカードも決めてあるからな」
「え?売るのですか?」
「当然だろう?」
「あっ無償提供かと思っていました」
「無償にしたら際限なくよこせと言ってくるだろう?だから、有償にした。払えない奴らには貸出だな」
「わかりました。あと・・・」
「なんだ?」
「ルートガー殿やクリス様に聞きましたが、設備や間取りを自由にしていいと聞きましたが?本当ですか?」
「あぁ高級路線を作ってもいいし、好きにしてくれ。でも、出荷の時のスキルカードは変えられないからな。多少の上下はいいけど、大幅に変えるなよ?あっそうだ。馬鹿にはふっかけていいからな」
「馬鹿とは?」
「解るだろう?」
「・・・。はい。かしこまりました」
カトリナがニヤリと笑ったので多分大丈夫だろう。
報告は、ルートガーにしてくれれば大丈夫という事になっている。
ルートガーも面倒な作業が一つ減って喜んでいる。
俺も適任者が居てよかったし、カトリナも胸を張って言える・・・か?うん?まぁいいか!