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第三十九話

/*** リア(リーリアの偽名) Side ***/

「リア様」

 人族に、ご主人様が私のために考えてくださった、名前を呼ばせるのは、業腹なので、”リア”と呼ばせる事にしています。
 獣人族を襲っていた冒険者のリーダーの男です。名前は忘れてしまいました、人族1とでも呼んでおきましょう。人族1の中の私が、話しかけてきます。

「どうしました?」
「近くに、人族の集団が居ます。どうしますか?」
「敵ですか?」
「この者が言うには、アンクラムの兵の様です」
「わかりました。使える人族は何人ですか?」
「この者を入れて、6名です」
「わかりました。その者たちを使って、辺りを警戒しなさい」
「はい。リア様」

 中身は、自分だと解っていても人族と話すのはストレスを感じます。
 早く慣れないとダメですね。

 さて・・・。イサークさんとナーシャさんが、どこで何をやっているのか解っています。緊急事態なので、ピムさんかガーラントさんには、貧乏くじをひいてもらいましょう。

「ピムさん。ガーラントさん。すみません」
「どうした?」
「近くに居た者から、アンクラムの兵が近づいてきているようです」
「何?本当・・・なのだろうな。解った、ピム!」
「えぇぇでも、しょうがないよね」

 どうやら、ピムさんが呼びに行くようだ。”こと”が終わっている事をお祈りしています。
 ガーラントさんに今解っている事を伝えます。実際には、”私”を通して情報が集まってきています。こちらを目指している雰囲気ではなく、何かを探しているようだという事です。近くのエント兄さまからも同じような念話が入ってきます。

 10分後、慌てた雰囲気を出しながら、イサークさんとナーシャさんが近づいてきます。
 私が話した事を、ガーラントさんが説明してくれています。

「それでどうする?リーダー?」
「っ!」

 あっ私の事を気にされているようです。もともと、明日の朝には別れるはずだったのが、少し早まるだけの事です。実際、私よりも、暗くなってしまった状態で、移動しなければならない、イサークさんたちの方が心配です。エント兄さまにご相談したら、近くにいるアントやスパイダーが護衛に回ってくれるようです。

 私が心配そうな顔をしていたのでしょうか?

「リーリアさん。大丈夫ですよ。アンクラムの兵なら、5人や10人なら逃げるだけなら、俺たちでも大丈夫だ。それに、ツクモ殿から借りている、収納袋があるから、荷物が少ないから、逃げるだけなら本当に大丈夫だ。俺たちよりも、リーリアさんの方が心配だぞ」
「うんうん。私だけでも残ろうか?」

「ナーシャさん。お言葉ありがとうございます。でも、私は、好都合だと思っております」
「好都合?」
「はい。このまま、兵に発見してもらって、アンクラム街まで連れて行ってもらおうかと思っています。司祭とかいう奴も、着替えさせて、馬車の中に居ますし、怪しまれたら、獣人族との戦闘で心が壊れているとでも言ってみます」
「そっそうだね」

 それから、少しだけ会話をして、イサークさんたちには、この場を立ち去ってもらいました。
 これで、全開で操作できます。

 人族3が、兵と接触したようです。

 オートモード対応です。人族3は、一番意識がしっかりしているので、対応は大丈夫でしょう。自分たちが、操作されていることは知りません。

「誰だ!」
「ブルーフォレストの獣人族の確保に向かった者です。アトフィア教の司祭の護衛です」
「何?司祭様がご無事なのか?」
「はい。貴殿は?」
「失礼致しました。私は、アンクラム領事兵。ルバルカといいます。それで司祭様は?」
「こちらです」

 疑いもしないで案内させます。
 刺客だったとしても、人族が殺されるだけです。私は、そのときに、ここで捕らえられていた子供を演じる予定です。触ってきたときに、この兵も操ればいいだけの簡単な作業なのです。操作が弾かれたら、エント兄さまやドリュアス姉さまにお願いして心を折るまで痛めつければいいだけなのです。
 人族3を操作して、ルバルカと名乗った人族を、馬車まで案内させます。
 馬車は、しっかり動くまで兎族に修理してもらっていますが、傷の状態から、かなり激しい戦闘が行われたと見えるでしょう。人族13~15までは心が壊れてしまっていて、操作してもまともに動きません。ですので、今は、オートモードでなく、疲れ切った顔で座らせています。

「これほど・・・」
「はい。私たちも、司祭様を守って、戦場を離脱するのがやっとでございました。ルバルカ殿?」
「あっ申し訳ない。それでなんですか?」
「私たち以外には?」

 沈黙がその答えだ。

「そうですか?」
「いえ、全滅では無いのです、私たち以外で成果を出している者たちも居ます」
「そうなのですね!」

 少し喜んで見る。
 その表情を、ルバルカは察したのだろう

「あっいえ、無傷の者は皆無で、どうやったのかわからないのですが、隷属化されている者も居ます。そして、ほとんどの者が、全裸状態で、武器や防具だけではなく、スキルカードも奪われていたのです」
「え?そうなのですか?」

「・・・はい。それで、男は、殺されるか、腕を切り落とされたり・・・女は、ナイフや短剣だけを持っていましたが、正常な状態では無いものが多いのです。話ができた者も、大量のスパイダーに襲われたや、殺されて当然だ・・・とか、言っておりまして、アトフィア教にすがったのですが、復調の兆しが見えません」
「それは・・でも、わかります。私たちは、司祭様のご英断で、救済すべき、獣人族を逃して、獣人族が逃げていった方角と反対方向に転進したのです」
「そうだったのですか?相手は?」
「わかりません。獣人族だとはおもうのですが、アイツラは卑怯にも、夜中に襲ってきたのです」

 獣人族の方々から聞いた話では、逆ですが、獣人族がやられた話をしてあげれば、ボロボロなのも納得してくれるでしょう。

 馬車まで誘導が終わった。
 次は、司祭とかいう奴の出番です。私の事を、違和感なく紹介させる事ができればいいし、できなければ、このルバルカを殺してしまうのがいいでしょう。

 馬車には、人族1が護衛として立っている。
 リーダーだったやつだ。母様から聞いている、人族そのもので、すぐにでも殺してしまいたが、ご主人様の所有物を無闇に傷つける事は良くない。

「司祭様」

 ルバルカが、跪いて呼びかける。
 私は、司祭と呼ばれている、ボアの前に身体を割り込ませて、手を広げる。これは、ご主人様に教わった”三文芝居”と呼ばれる手法で、お約束という物らしい。よくわからないが、ご主人様がおっしゃってくれた事なので、間違いは無いのです

 ルバルカは、ぎょっとした顔で私を見上げる。

「よい。リアよ。この者は味方じゃ」
「でも、司祭様。この者から、獣人共の匂いがします。血の匂いも・・・それに」
「よいのだ。リア」
「でも・・・」
「リア。控えよ」

 3度目で言うことを聞く。これも、お約束だと教えられたことです。
 ボアの横に戻って、武器を取り出す。威嚇するように、武器を構えて、スキルカードを数枚取り出す。

「すまんな。リアは、儂が助けた少女でな。獣人どもに慰み者いにされそうな所を、儂が助け出した。獣人共は、このリアを取り返すために、夜襲をかけてきたのじゃ」

 矛盾しているが、偉い人が言っている矛盾を追求できる人は居ないと教えられました。

「いえ、私こそ、申し訳ありません。アンクラムの街から連れ出した、奴隷が暴れまして・・・」
「そうだったのだな。しっかりと救済したのだな?」
「もちろんでございます」

 やはり、人族は害悪でしかない。
 ご主人様以外の人族は、殲滅した方がいいのかも知れない。
 ルバルカは、それから、司祭に状況説明を始めた、私を通して、私の中に話が入ってくる。それを、近くのエント兄さまにお伝えする。難しい話や判断は、ご主人様はスーン様がしてくださる。

 あらかた喋らせられたとおもう。
 さて、仕上げに入りましょう。

「ルバルカ殿。リアは、儂を必要としている。儂が責任持って、アトフィア教の教会まで導きたいのじゃが問題はあるか?」
「・・・アンクラムの・・・いえ、大丈夫です。私が責任持って、リア殿を、アトフィア教会までお連れいたします」
「そうか、そうか、しかし、儂も、今こんな状態でな。馬車から出る事が困難じゃ。それに、最近では、リアに治療をしてもらわないと辛くてな」
「え?リア殿は、治療のスキルが?」

 うなずく

「それならば、聖女様なのでしょうか?」

 聖女。それは面倒な響きがします。回避しておきたい所ですね

「リアは、儂のために行きたいと言っておる。そのように手配しなければならない。儂のそばから離れたくないと言うのでな」
「そうなのですか?アンクラムには、司祭様の従者として入っていただくのが良いかと思います」
「そうだな。それがいいだろうな。おぉそうだった。他にも、儂を守って、心を壊してしまった者たちもいる。移動の手配を頼まれてくれるか?」
「もちろんです。本体が少し離れた所に来ております。早速、司祭様がご無事だったことを含めて、報告してまいります。その後、移動でよろしいでしょうか?」
「ルバルカ殿に委細任せる。儂は、無事アトフィア教会に、リアと共にたどり着ければよい」
「はっ!」

 ルバルカが馬車から出ていった。
 人族1となにか言葉を交わしている。どうやら、私の事を聞いているようだ。人族1は、事情があり、事情は、司祭しか知らないと答えている。偉い人には、偉い人しか意見できないという言葉通りに、私の事を怪しいいと思っても、偉い人に守られている状況では、手出しはできないのでしょう。
 これで、街には潜入できそうですね。
 第一段階は、成功と言ってもいいでしょう。

 人族3を伴って、自分たちの本陣に向かうようです。
 操作の距離が気になったのですが、大丈夫でした。少し、ノイズが入りますが、操作はできていますし、念話も通じます。

 私の事を疑っているようですが、司祭のお手つきを無下にするわけには行かないという事になった。
 その上で、”治療のスキル持ち”は貴重な存在だという事です。そのために、アンクラムの街で囲う事はできないかと相談しているようです。無様ですね。人族3は、私は司祭の側を離れないと話しています。

 話がまとまったようです。私は、司祭の従者として、特別に許可して、確認なしで街に入れる事になりました。そのかわりに、馬車は徹底的にチェックするようです。問題になりそうな物は、私の収納に確保しているので、問題はありません。

 移動を開始するようですね。
 人族1が、司祭に報告をしてきました。馬車が動き始めます。面倒なので、司祭から、誰も近づけるなと命令させてから、司祭を黙らせます。さっきの、ルバルカという人族に、人族1から交渉して、食事の世話をしてもらう事になりました。暫くは、私の料理は封印です。

 さっそくいろいろな情報が入ってきます。
 操作している人族を見て、”まし”だと言っています。ゴブリンに犯されて、精神を壊してしまった、女性が多数見つかったそうです。ゴブリンどもも役に立つ事も有るのですね。

 それにしても、ゴブリンは本当に、不思議な生き物です。通常では、産まれてくるのは、女の種族なんですが、ゴブリンだけは、必ずゴブリンが産まれます。それも、ほとんどが男です。女のゴブリン・・・ゴブリナと言うそうですが、あまり個体数は確認されていません。ですので、ゴブリンは、繁殖に必ず”女”を必要とします。

 そのために、全裸の人族が居れば、襲ったり、攫ったりするのは当然行われたことなのでしょう。

 ナイフや短剣一本でなんとかなるような相手ではなかったのでしょう。それに、ブルーフォレストの浅い所と言っても、出てくる魔物は、ゴブリンだけではありません。

 スライムも手強い相手です。これは、イサークさんたちから聞いた話なのですが、スライムに遭遇したら、1回は攻撃を試みるが、それで倒せなかったら撤退を決め込むと言っていました。特に、ダンジョン以外のスライムは、倒すのに、スキルを使用しないとならないのに、得られる物は、よくてレベル2魔核か、さらに運が良ければ、レベル3のスキルカードだと言う話です。そのために、スライムは、必要がなければ狩らないが、冒険者の鉄則だと言っていました。こんな話をしていたイサークさんたちも、ライ兄をみた時には、震えたと言っていました。

 私もそうなのですが、種族名に、”イリーガル”を持っている魔物は、見つかれば、”死”を覚悟しなければならないと教えてもらいました。
 私もですし、カイ兄、ウミ姉、ライ兄、スーン様や、ヌラさんや、ゼーロさんや、ヌルさんも、種族名に”イリーガル”が付いています。ご主人様が、”理外の理”になっているのだろうなとおっしゃっていましたが、私には難しくてわかりませんでした。
 なによりも、この力を使って、ご主人様のお手伝いができる事が嬉しいのです。

 もうすぐ、アンクラムの街に到着するようです。
 人族1が、ルバルカからそう言われています。

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