第四十七話 男たち
観察を続けたが、エイダからの報告でも、それらしい反応を見つけることが出来なかった。ダンジョンの内部に、黒い石や関連する物も発見が出来ていない。
アルバンとカルラには、ダンジョンに入ってもらって、低階層を周ってきてもらった。
列は途切れないが、ダンジョンから出たばかりの者には救済処置が存在している。
話を聞くと、補給を行うために出てきて、並びなおしている間に、ダンジョンの中で待っている者たちが死んでしまった事例が重なって、ダンジョンから出た当日と翌日は簡単な検査だけでダンジョンに入ることができる。らしい。抜け道として利用ができそうが、一度、不正な利用だと判断されてしまうと、次から検査が厳しくなるだけではなく、最悪はダンジョンへの入場が出来なくなってしまう。
「兄ちゃん?どうする?」
アルバンが、ダンジョンから戻ってきた。
俺とエイダが出口を監視していたので、近づいてきて話しかけてきた。
「そうだな。仕込みが終わったから、帰るか?」
ダンジョンを監視するモジュールの設定だが、全階層を監視対象にしたので、展開を行う時間が必要だった。
「そうですね。余裕を考えれば、タイミングはよろしいと思います」
カルラが言っている”タイミング”は、王都に向かうタイミングだ。
力をつけるために、時間を貰った。約束の時間が近づいている。大凡のタイミングは確認していたが、カルラがいうのなら、タイミングはいいのだろう。
「うん!」
アルバンは嬉しそうにしている。王国に戻るだけだが、面白くない調査を行っているよりも、王国に移動した方が”楽しい”と思っているのだろう。
俺は、エヴァンジェリーナ・スカットーラに会って・・・。
そのあとは、ユリウス・ホルトハウス・フォン・アーベントロートやクリスティーネ・フォン・フォイルゲンと話をするために、ライムバッハ領に移動か?
アルバンとカルラは、どうするのだろう?一緒に行動してくれたら嬉しい。クリスティーネに聞いてみるのがいいかな?
カルラの表情を見ると、何かいいたいのだろう。
それとも、俺が何か忘れているのか?
「カルラ。何かあるのか?」
「アルトワ・ダンジョンは、どうなさいますか?」
アルトワは、ウーレンフートの支店?のような役割になっている。
バックアップだと考えれば、維持しか選択肢はない。
「維持だ」
「一度、アルトワ・ダンジョンに向かいますか?」
カルラが提案してきたということは、その位の余裕はあるのだろう。
例え、数日でも・・・。俺が反対の立場なら、”約束の日”までは我慢するが、”約束の日”を過ぎれば、探しに出るだろう。
「そうだな。アルトワ町に寄って補給をしてから、アルトワ・ダンジョンの確認をして・・・。俺たちが居るべき場所に帰るか?」
「うん!」「はい」
カルラもアルバンも、俺の決定で問題はないようだ。
『マスター』
エイダ?
俺が抱きかかえて、辺りを見回していたエイダから警戒のサインが出された。
『結界を破壊した者が居ます』
『どこの結界だ?ダンジョン内か?』
『いえ、今、マスターたちを囲っている結界の外側です』
今、俺たちを囲っているのは、身体の近くに物理・スキル結界が張られている。その外側に、通常結界を展開して、その外側に、解りやすいように遮音・認識阻害の結界を展開している。
エイダの説明では、遮音・認識阻害の結界が破壊されたようだ。
この結界は、ある程度の力がある者か、同種のスキルを展開している者か、結界を無効にするアイテムを身に着けている者なら、難しくない。
あえて、解りやすく展開しているのは、力量を示す意味もある。
認識阻害の結界を展開しているので、結界を突破できない者には、結界さえ認識できない。はずだ。
『エイダ。方向は?』
『6時の方向。後ろです』
近づいてくる様子はない。
後ろの気配を探るが、ダンジョンから帰ってきたと思える者が居る。近い場所に居るのは、6人?パーティか?その近くにも、数組のパーティが居る。その中の誰が、結界を破ったのか解らない。
そもそも・・・。
偶然なのか?俺たちを狙ったのか?地上で結界が展開されていたから、近づいたのか?
アルバンとカルラを、俺の正面に移動させる。
「あっ!」
アルバンが、俺の後ろに居る奴を見て声を上げる。
「アル?」
「おや?貴方たちは?」
男の声だ。
聞き覚えがある声だけど、どこで聞いたのか・・・。記憶を手繰るが、思い出せない。
しょうがない。話しかけられたので、アルバンにエイダを渡して、後ろを振り向く。
「・・・。あっ!ダンジョンに入る前に話しかけてきた・・・」
後ろから話しかけてきた男だ。
エイダからの報告では、結界を破ったのは、”この男”ではない。後ろに居る奴だ。アイテムを身に着けていると判断している。
ダンジョンに入る前よりも人数が増えている?
「おっ覚えていた?」
少しだけテンションが高いか?
名前は聞いていない。
聞いていたら、エイダが教えてくれる。
「はい。お名前を伺っていなかった・・・。ですよね?」
「あぁ君たちは、特徴的だったから覚えていたよ。それで、ダンジョンでは何か得られたのか?」
マナーとしては、ギリギリだろう。
「えぇまぁ旅費の一部が戻ってくる程度には・・・」
「それは羨ましい。俺たちは、ダメだ。まぁ商人の護衛料が貰えたから、赤字はまぬかれたけどな」
「え?入る前は?」
「ははは。よくある話だ。商人は、ダンジョンの低階層なら安全だと思って、入って・・・」
「あぁそうなのですね。それで、その商人さんを護衛して戻ってきたのですか?」
「違う。違う。商人に話を聞いて、商人が欲しいと言った素材の採取を手伝って、襲ってきた魔物たちを倒して、ダンジョンの外まで護衛してきた」
「ほぉ。そんな依頼があるのですね」
「まぁな。兄ちゃんたちは?」
いきなり、フレンドリーになったな。
気にしてもしょうがない。俺の身分やエイダが知られなければ、大きな問題にはならない。
ウーレンフートから来ていることは、ダンジョンに入る前に話をしている。
「ダンジョン産の魔物素材が欲しいと言われたので、それを狙っていました」
「ほぉ?」
「このダンジョンの15階層に出る徘徊ボス素材が欲しいと言われて・・・」
「そりゃぁ難儀な依頼だな。15階層だと、ウルフ系の素材か?」
「そうです。牙が欲しいと言われて、探して、5回もアタックしましたよ」
ダンジョンに入って、15階層まで潜って、15階層を探しまくった設定なら、時間軸に狂いはないだろう。これは、エイダとカルラと、ダンジョンから出る時に決めた設定だ。準備しておいてよかった。
もちろん、ダミーで素材も持っている。アルバンが持っている、袋の中に入れてある。牙と爪と角だ。売値を、調べたら俺たちの報酬を考えると、少しだけ安いが実力を見せつつ、依頼を受けていることを印象付けるのには丁度いいと判断した。
それから、男とダンジョンの中に関しての情報交換を行った。
俺たちは、15階層を徘徊したことになっているので、男が情報量を支払うから、教えて欲しいと言い出したからだ。
男たちは、補給をおこなったら、明日の朝にもう一度、ダンジョンに潜るようだ。商人が欲しい素材の全部が揃っていないらしい。俺たちに真偽の判断はできないが、気にしないことにした。
「そうですか?」
「兄ちゃんたちは・・・」
俺は、知らないと答える。
「そりゃぁそうだな。兄ちゃんたちは、ホームは違うのだったな」
「はい。でも、それほど、変わったのですか?」
「商人や上の連中は気にしていないようだが、現場に出ている俺たちは、経験から、ダンジョンの変性期に入ったと見ている」
「そうですか?何か、前兆があるのですか?ウーレンフートでは、急に魔物が強くなった時に、変性期だと言われていたくらいなので・・・」
どうやら、ダンジョンから採取できる物が減っているというのは、ダンジョンに潜っている者たちの中では共通認識になっているようだ。
このダンジョンは、まだ減ったという報告がないから、来てみたら、減っているように感じている。らしい。
毒が回るまでは、まだ少しだけ時間が必要になりそうだが、確実に毒は回っている。