第二十二話 待ち人
ナナと一緒に神殿に移動した。
「へぇ中はこうなっているのね?」
「あぁまだ整備中だけどな。何か意見が有れば頼む」
「了解よ。それにしても、本当に・・・。凄いわね」
ナナは、感心しながらも、周りを見て質問を始めた。
表の街道は、両脇に店を構えているが、路地を作ったほうがいいだろうと言われた。
裏にも道があるほうが、住民が、荷物を抱えた状態で、客の前を歩く必要がないから、必要だと言われた。
丁度、タシアナが調整を行っていたので、ナナを紹介する。
タシアナとフェナサリムも一緒になって、質問と改良点を伝えてきた。
全部は無理だけど、すぐに出来そうな事は実行した。
裏路地を整備して、家と家の間を開けた。
地下で繋がる場所を数か所作って、裏路地から反対側の裏路地に抜けられるようにした。地下通路があるのなら、家と家の間の隙間は最小限でいいとの事なので、人が通れないくらいの路地にした。
カーバンクルがギリギリ通れるくらいの幅にした。
神殿の中は、概ね大丈夫だというので、そのままタシアナとフェナサリムも一緒に、森の廃墟に向かう。
廃墟は、まだ何も作っていないので、簡単に見るだけになった。
一度、神殿に戻ってから、メルナの屋敷に向かう。
ここで、タシアナとフェナサリムは神殿に戻ることにしたようだ。
足りない物を書き出して、セトラス商隊に購入をお願いすることにしたようだ。
マヤとミトナルも、神殿に残って、地下や裏路地の調整を行うようだ。
あと、ヴェルデやビアンコが家具くらいなら作ることができるので、ギルドから上がってきたもので、作ることが出来そうな物を依頼することにしたようだ。セトラス商隊も大荷物になると買い付けで問題になるので、内作できるのなら、内作して欲しいようだ。
職人の誘致を考える必要がありそうだ。それとも、自然と増えるまでは、眷属に頑張ってもらおうか?
「リン君?」
「何?」
「なんで、セバスチャンがリン君の執事をやっているの?」
「アスタ様。お久しぶりです。あれは、サビナーニ様が」「あぁぁ。そうね。セバスチャンが居るのなら、屋敷は大丈夫ね」
ナナが慌てて、セバスチャンの言葉を遮る。
何か、過去にあったのだろう。
サビニやニノサは、本当に何をやっていたのだろう?
これだけの人間たちが居て、なんで頼らなかった?
「セブ。屋敷の問題は?資金は足りている?」
「大丈夫です。新たに雇用を考えている者がおります」
「セブに任せる。人柄優先で頼む。あと、神殿内部の人や廃墟側の人も必要になっている。職人も欲しいかな?」
「わかりました。職人には、心当たりがあるので、話を通してみます」
「それは嬉しい。よろしく頼む」
「はい」
ナナが、俺を不思議そうな顔で見ている。
「どうした?」
「なんでもない。屋敷の中の案内は、大丈夫よ」
「そうだな。この屋敷は、ハーコムレイから渡された物で、使い勝手とかよくわからない。あっ!そうだ。セブ」
「はい。なんでしょうか?」
「屋敷で働いてくれている人たちの部屋が足りなくなりそうなら、神殿に確保するから言ってくれ、あと、浴場も神殿に確保してあるから、そっちを使えば水の心配をしなくていい」
「わかりました。皆に伝えておきます。よろしければ、屋敷の者たちを、神殿に移住させていただけませんか?」
「それは、大丈夫だけど、理由を教えて?」
「はい・・・」
セバスチャンの説明は、納得ができる内容だ。
確かに、一部だけを神殿に住まわせるのなら全員が神殿から通ったほうがいいだろう。
今、従業員が生活をしている場所は、今後の為に、貴族の従者や商人の休憩場所に改装したいようだ。
「わかった。屋敷で働く者たちの住居の用意をしよう」
「ありがとうございます」
セバスチャンが深々と頭を下げる。
「ナナ。これで、全部だ。屋敷の中はいいよな?」
「えぇ」
「そうだ。人が住まない場所だけど、アロイの近くに広がる森は、俺の領地になるようだ。好きに開拓していいらしい」
「え?魔境を?」
「そうだ。使い道がないから、今は眷属たちを放っている」
「眷属?」
「そうか、まだ案内をしていない所があった」
「え?」
ナナを連れて、神殿のバックヤードに移動する。
ギルドのメンバーにも見せているから、ナナに見せないのは不公平だろう。
制御室さえ見せなければ問題はないだろう。
ナナを連れて、神殿に戻る。
ブロッホが、神殿の訓練場に居たので、ナナの案内を頼んだ。
訓練場も、ダンジョンに近い状態になってしまっている。実戦形式の訓練には丁度いいのだが、もったいない状況になってしまっている。
「リン君。私やガルドバも、この訓練場を使っていいの?」
「ん?いいけど?」
「実践から離れていたから、勘を取り戻すのに丁度いいのよね」
「そうか・・・。村からも訓練場に行けるようにできるか調整してみる」
「無理なら、無理で神殿に入ればいいだけでしょ?」
「そうだけど、手間だろう?」
「そうね。出来れば、嬉しいわね」
ナナは、このまま
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ナナが、アロイ側の村に”フリークス村”と名付けたと事後報告された。
既に、セバスチャンが書類を作って、ルアリーナとアデレードが承認して、王都に送付してしまったらしい。
俺にだけ聞かされていなかった。
しょうがない。諦めよう。
それに、考えてみると、いい名前だと思う。アゾレムや宰相派閥への当てこすりには最高だ。どうせ、敵対することが決定しているのだから、徹底的にやるのがいいだろう。
ガルドバの呼びかけで、50名近くが引っ越してくることになった。
遠方に居る家族やアゾレムから逃げている者たちも引っ越してくるので、最終的には100名を越える村になるようだ。
そして、
ミトナルが、俺を探して部屋までやってきた。
今日は、朝から何もする気が起きなかったから、部屋で過ごしていた。ミトナルには悪い事をしてしまった。このくらいの時間なら、神殿の執務室に居るか、屋敷に行っていることが多い。向こうを探してから、こっちに来てくれたようだ。
「リン。イリメリが戻ってきた」
フリークス村が整い始めたタイミングで、待ち人が帰ってきた。
廃墟の住民になるか、フリークス村に住んでくれるのか?
それとも、神殿の中で仕事をやってくれるのか?
どれでも歓迎だ。
圧倒的に手が足りない。
「了解。どこ?」
森の周辺に集落があると言っていたから、メルナの屋敷かな?
「メルナの屋敷。近くの森の中で野営している」
「え?」
森の中?
ある程度は、安全になったと言っても、魔物が出るのは変わっていない。
間引きをしているので、数は減っていると思うけど、中心部に居るような魔物が外周部に出る事がある。
「タシアナとフェムが眷属を連れて護衛している」
二人が眷属を連れて護衛?
過剰とは言わないけど、眷属は必要ないよな?
連携の訓練か?
「あの辺りなら・・・。それで、人数は?」
人数の把握が出来れば、受け入れの準備が始められる。
でも、受け入れる前に、希望を聞かないと・・・。
「一緒に来たのは、30人くらい」
30人程度なら、どこでも困らないだろう。
集団で生活してくれるのなら、廃墟かな?
「わかった。ミルも一緒に行くだろう?」
「うん」
マヤの姿が見えない。
普段から、一緒に居る事が多い。
「マヤは?」
「ナナの訓練に付き合っている」
ダンジョンアタックをまたしているのか?
ナナの要望に合わせて、レベル分けをしたけど・・・。まだ、何か要望があるのだろう。
「ロルフやブロッホと一緒か?」
「うん」
ミトナルと一緒にメルナに向かう。
屋敷に到着すれば、状況の把握ができるだろう。セバスチャンもいるし、大丈夫だろう。