第三十二話 認定?
アデレード殿下を匿う約束をして、他にも細かい話をした。特に、アデレード殿下を匿うことで発生する費用負担だ。全面的に、王家が用意すると言っているが、実際にどうやって負担するのか考える必要がある。
ハーコムレイもローザスも、アデレード殿下がわがままを言わないと言っている。
ローザス一人の意見なら信じなかったが、ハーコムレイも”自分の妹と同じ”だと言い出したので、問題は無いだろう。
ルナと殿下を比べられても、俺には判断ができない。
そもそも、二人を比べる必要性があるとは思えない。
「アデレード殿下とルアリーナ嬢は、顔見知りなのか?」
「あぁ。殿下は君たちの2つ下になる。残念なことに、そこの男が、ルナの婚約者候補で、年齢も近いこともあり、殿下とルナはお茶会で顔を合わせている」
年齢が近い?
俺が気にしてもしょうがない。
「へぇ」
「リン=フリークス。お前は、ルナの婚約者候補がこの男で驚かないのだな」
ルナが貴族だと聞かされているから、婚約者は産まれた時に決まっていても驚かない。
「ん?貴族の話が俺に解るはずがないだろう?村出身だぞ?」
「あぁそうだった。ニノサやサビナーニ様から教わらなかったのか?」
「ニノサだぞ?」
「・・・。すまん」
ハーコムレイが素直に謝ってきたが、それはそれで気分が悪い。
これからは、貴族の知識も必要になるのか?
ギルドが神殿に移動してくるのだし、貴族への対応はギルドに任せてしまおう。メロナの屋敷は、管理を任せるセブがある程度は対応をしてくれる。はずだ。最悪は、アデレード殿下に聞くことも考えられる。ルナに教えてもらうという手段も取れるが、”貸し”を作るのは避けたい。
ハーコムレイが諸条件やら、事務的な説明をしてくれていると、馬車が止まった。
ギルド本部の前だ。
「リン君。僕は、アデレードに状況を説明する為に、戻るね。ギルドへの相談は、ハーレイがする。話は、ギルド長のナッセに通すよ」
殿下も一緒に連れて行くつもりなのだろう。
この国の王族は、フットワークが軽いけど大丈夫なのか?
「わかった」
ハーコムレイを見ると頷いているので、大丈夫なのだろう。
俺とハーコムレイを降ろした馬車は、ローザスだけを乗せた状態で走り去った。速度を、落しているのだろう。かなり、遅い速度だ。
「あいつ・・・。あれほど・・・」
ハーコムレイが、走り去る馬車を睨んで周りを見回す。
何か、意味がある行動なのだろうか?ハーコムレイには意味がなさそうだ。何かを警戒している。意味があるのだとしたら、ローザスが乗った馬車か?
「ん?どうかしたのか?」
「すまん。何でもない」
ハーコムレイは、馬車を睨んでいた視線をもとに戻して、何も言わずにギルドに入っていく。
慌てて、後を追いかける。
ギルドの前に居るのは、ハーコムレイが手配した者のようだ。
ハーコムレイに深々と挨拶をしている。二言三言と言葉を交わして、奥に足を踏み入れる。
「リン君!兄様!」
先ぶれから話が通っているのだろう、ルナが最初に顔を出した。ハーコムレイが渋い顔をする。もしかして、俺が先に呼ばれたのが気に食わないのか?
「ルナ。ギルドはまとまったのか?」
ハーコムレイの問いかけに、ルナの表情が曇る。
説明を聞いた限りでは、
コンラート家への配慮があるので、ルナとしてミヤナック家もサポートに回って欲しいというお願いだ。
「ルナの気持ちは解るけど、それは難しい」
「え?」
「確かに、教会の中では、コンラート家は友好的な関係を築けているが、あくまで、父たちの繋がりだ」
「・・・」
「フレット嬢は、リンザー殿よりだから、ギルドに加わる事を容認したが、兄君が加わる可能性があるのならダメだ。彼は、宰相派閥に近づこうとしている。ルナも解っているのだろう?彼は、アデレード殿下を手に入れるために、コンラート家を高く売りつけようとしている」
そんな繋がりが出て来るのか?
そうなると、教会も神殿の敵になる可能性を考えた方がよさそうだな。
「・・・。兄様?」
「ルナ。君たちが、何をしようとしているのか、誰と戦っているのか解らないけど、僕たちには、僕たちの戦いがある」
「はい。解りました」
ルナが折れた感じに思うが、ルナの望みは、王都ギルドの安全だけど、必要な拠点を作れば対応ができるのだろう?
「なぁルアリーナ嬢」
「何?」
「王都ギルドと、君たちのギルドは別になるのか?」
「うん。大きな方針は変わらないけど、王都は王都で独自で動くことになる」
「そうなると、王都ギルドと神殿ギルドと別れるのか?」
「まだ、そこまでは考えては居ないけど、フレットは教会を使って、影響を強める考えみたい」
「うーん。少しだけ困るな」
「どうして?」
「マガラ渓谷を越えるのに、神殿を使うルートに誘導する方法を、考える必要があるな」
「え?なんで?王都に残る王都ギルドに誘導してもらえば?」
「うーん。ルアリーナ嬢。怒らないで聞いてくれる?」
「うん」
ルナが、立ち止まって俺を見ている。
後ろから、ハーコムレイが俺とルナの間に割り込んできた。
「リン=フリークス」
「なんでしょうか?」
「その話は、ルナにだけ聞かせる話か?」
「そうですね。俺としては、ギルド内で協議して欲しい内容ですが、”誰”というのはないです」
間違っていない。
ルナが考えてくれるのが楽ではあるが、
なんで、ルナが俺に睨むような視線を向けているのか解らない。
「わかった。ルナ。君は、リン=フリークスから話を聞くといい。私は、ギルドをまとめるナッセ殿に相談がある」
ハーコムレイが、少しだけ苦笑してから、ルナにナッセとの話があると告げる。
「はい。解りました」
ハーコムレイが、俺の肩を叩いて、歩き去っていく、なんの意味があるのか解らないが、ルナがびっくりしていることだけは理解ができた。
「それで、リン君?」
「ん?あぁそうだ。王都に残るメンバーは、教会の力を使って、影響を高めると言ったのだな?」
「うん。そうだよ」
貴族令嬢が使うような言葉ではないが、ハーコムレイが居る時でも、変わらないから大きな問題ではないのだろう。でも、いいのか?
「それは、”白い部屋”に関係している勝負を指しているのだな?」
「・・・」
「やっぱり。それなら、彼女たちに、神殿の誘導を任せるわけにはいかないな」
「??」
「考えてみろよ。王都からマガラ渓谷を越えなければならない連中は誰だ?」
「ん?あっ!教会関係者!」
「そうだ。それに、移動するための商隊だよな?」
「・・・。そうだね」
「それらを、王都ギルドが把握して、神殿への誘導をしたら、高まるのは、誰の名声だ?俺たちが神殿の維持をしていると、言っても、力を持っているのは、王都のギルドだとミスリードをされてしまう」
「え?でも・・・」
「袂を別れた奴が、勝利者になった場合に、俺との約束は守られるとは思えない」
ルナも、ここまで強い言葉を使えば理解ができたようだ。
王都ギルドのメンツの誰かが、そうだな・・・。多分、フレット・コンラートだろうが、教会の力と神殿というのを結びつけて、勘違いが発生しやすい状況を作るのだろう。敵ではないかも可能性はあるが、味方にもならない。
ルナたちなら、影響の範囲を神殿でコントロールができる。
タシアナやルナやサリーカやフェム・・・。イリメリを全面的に信じているわけではないが、神殿の中に移ってくれたら、裏切ったら殺すこともできる。神殿の力を使って、排除が可能だ。