第2章8話 悠ピンチ！ 乾最後の手段
悠の一撃を受けた乾は今まで感じたことのない痛みを感じていた。
乾：
「どういうことだ、まさかその武器のせいか。」
悠：
「へー、意外と賢いね。『鉄塊 彼岸』。まず、この武器で相手は死ぬことができない。頭を潰されようが全身の骨が粉々になろうがね。その代わり、対象者は痛覚、つまり痛みが何倍にも膨れ上がる。地獄の花の名にふさわしい能力だよね。」
乾：
「何倍にもだと、だが痛みを感じないはずだから何倍になっても感じないはず。」
悠：
「いや、お前は感じているよ。感じないと錯覚するほど０に近いけど０じゃない。だから殴られたら感じた。」
乾：
「だが、そんな重いものを持っていては我のスピードにはついてこれまい。」
乾は立ち上がるが否や目にもとまらぬスピードで訓練場を駆け回った。
乾：
「どんな能力も当たらなければ意味をなさず、最後は圧倒的なパワーが勝つのだ！」
乾は悠の背後に回り、悠に向かって一直線に突進していった。
悠：『彼岸 黒 黒縄荊≪縛≫』
乾は悠に当たる直前で足を誰かに掴まれたように止まってしまった。
乾：
「なんだ？」
乾が足元を見ると乾の影から黒い荊が生えて乾の足に絡まっていた。
悠：
「『黒縄荊』は影のあるところならどこでも生やすことができる。かなり丈夫でなよく伸びてよくしなるから自力でほどくことは不可能だ。」
乾：
「何のこれしき、この程度の荊我の力で簡単に引きちぎってくれる。」
乾が荊を引きちぎろうと試したが荊はびくともしなかった。
悠：
「無駄だよ。吹き飛びな。」
悠がそういうと乾は訓練場の壁に叩きつけられた。
乾：
「この程度で我が倒れると思うなよ。」
悠：
「流石に丈夫だな。耐久力と攻撃力は今まで相手した中で1番だな。」
乾：
「汝に小細工が効かないことはわかった。ならば真正面から叩き潰す。」
乾はすぐさま悠の懐に入り込み拳による連撃を繰り出した。
悠：『彼岸 紫 蓮華躑躅・狂い咲き（れんげつつじ・くるいざき）』
悠は乾の攻撃に合わせて片方５０キロはあろう鉄塊をヌンチャクのように振り回し乾の攻撃と打ち合った。その時、黒かった『彼岸』は紫色に染まっていた。
攻撃は相打ちに終わったが、乾が自身の体に違和感を覚えた。
乾：
「どういうことだ、最後のほう思ったより威力が出なかった。何をした。」
悠：
「『紫』は攻撃対象者に応じた毒を打ち込む技だ。お前に打ち込んだのは強力な麻痺毒のはずだったんだが、耐性でそこまで弱められたか。」
乾：
「小癪な真似を。」
悠：
「そろそろ終わらせよう。」
そういうや否や両者は再び激しく打ち合った。
打ち合いの最中、突然乾が膝から崩れ落ちた。悠はこのチャンスを逃すまいと崩れ落ちた乾に向かって力いっぱい彼岸を振り下ろした。
まともに攻撃を受けた乾は動けなくなった。
乾：
「どういうことだ？毒は効かないはず。」
悠：
「お前にばれないように毒をもう一つ仕込んでたんだよ。お前の細胞が分解しきったと思わせるようにな。」
悠：
「俺の部下を傷つけたことは許さないが殺すわけにはいかないからな。拘束させてもらう。」
乾：
「このまま負けるくらいなら。坤殿使わせてもらうぞ。」
乾はそう言って注射器を取り出し、首に刺した。すると、乾の体が暴走を始め、蛹のようなものにこもった。少しすると、蛹のようなものから先ほどの乾から一回り小さい魔物だ出てきた。
悠：
「乾か？でも、何かおかしい。」
魔物：
「あぁ、我は乾だ。だが、先ほどまでの乾とはわけが違う。今の我は『魔獣ベヒモス』の力を得た。」
ベヒモスは魔界に存在する『破壊の象徴』、『存在する災害』と呼ばれている魔獣だ。ベヒモスが通った場所は荒れ地と化し何も残らないとされている。
乾：
「坤殿のくれた薬はそのベヒモスの遺伝子を打ち込み、破壊力を得るための薬。使用者の器が弱いと力に負け、自身が破壊されてしまう。だが、我は手に入れた。その破壊力は先ほどまでの５倍だ。」
乾は一瞬で悠の懐に入り込み、悠のみぞおちに手痛い一撃を与えた。乾の攻撃をまともに受けた悠は後ろに吹き飛ばされた。さらに乾は吹き飛ばされた悠に追いつき、悠を蹴り上げ、床に殴りつけ最後に壁に叩きつけた。
乾：
「ふん、なかなか骨はあったが所詮この程度。人間というのは簡単に壊れる。」
乾：
「さて、次はだれを壊そうか。」
そう言って乾が背を向けた瞬間、瓦礫の中から血まみれの悠が出てきた。
乾：
「ほう生きてたか。大したものだ。」
悠：
「まぁな、骨が何本かいったけどな。確かに破壊力もスピードもさっきより格段に上がっているな。」
悠はふらふらな状態で立っているのがやっとだった。
悠：
「ちょっとやばいかな。」
