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ユールの祭りに六花の詩を

ユールは1年で最も夜が長い日から始まり、12日間続くお祭りだ。
何処かの(セカイ)では冬至とか、クリスマスと言うらしい。


「……ス、ニクス!ほら、起きて!!」
うーむ。寒い。うるさい。でも、そのモフモフした手だけは許す。
俺はゴロリと寝返りを打った。

「ほら、二度寝しないで!」
「ふぁぁ……ネージュ、まだ夜も明けてないじゃないか。森の朝にしても早すぎるぞ」
「だって今日から“ユールの祭り”なのよ!やる事もたくさんあるじゃない!」
こいつ、ネージュは俺の幼馴染だ。…………多分。

ユールの祭りは今日から12日の間続く。
この辺りの町では祭りの時期に、ヒイラギを身に付けた少年と、ツタをまとった少女が手を繋いで町を練り歩く。
そして彼らが森の中にある祠に様々なものを供えに行き、新しい1年を迎えるという風習がある。

「俺たちは去年、ユールのお役目をやったじゃないか。もう、お役目は回って来ないんだぞ?」
「それでも、用意するものは色々あるでしょ?」
まったく、取り付く島もない。

俺は仕方なく体を起こすのだった。

***

鬱蒼と茂るヒイラギやキヅタ、イチイなどの木々の間をすり抜けて俺たちは進む。

途中、祭りに必要なものをネージュが手で雪を掘り起こしたりして集めつつ、森の中心へと向かっていた。

「ネージュ、必要な物は集まったか?」
「うん。あとは……」
彼女は立ち止まって上を見上げ、指さす。
その先には立派なオークの木があった。
「アレで全部揃うかな」

正確にはオークの木にある、一抱えもありそうな大きさの球状のモノ──ヤドリギ。
「流石におまえじゃ取れないか……仕方ない。俺が落とすから、お前が受け止めてくれ」

そう言うと俺は空を飛ぶように木を登り、すぐにヤドリギのある辺りにたどり着いた。
「うわ、高い」
「ニクスー大丈夫ー?」
ネージュの声が少し遠い。

「おう、落とすぞー!」
はーいという声を聞いてから一つ目を落とす。

それから間を開けて、あと2つ落とした。

「もう、十分かな」
その呟きを聴くと、木から飛び降りる。


バサリ。


鳥の羽音のような音をたてて雪の積もった地面に着地した。

「もう!ニクス、そうやって飛び降りるのやめて!雪が飛び散ったじゃない!!」

……そう言いつつもネージュは笑顔であった。
それに釣られて俺も、すまん。と微笑みつつ返したのだった。

***

森の中心には祠がある。
なぜかその周辺には背の高い木が無く、ちょっとした広場のようになっていた。

空高く登った太陽が俺たちを照らす中、途中で一緒に集めて来た木の実で食事を済ませた。

「さて、飾りを仕上げなくちゃね」
「おう。日暮れには間に合わせないとな」
そう言って飾り作りは始まった。


《歌えよ 歌え 冬の終わりを告げる日に
作れよ 作れ 夜の帳が落ちるその前に

ヒイラギは命の証
キヅタは蛇と女神の象徴
イチイは死者を守る樹

冬の神で死の神の
黒い女神と冥府の鹿が来る前に
イチイの下でユールログを燃やせ
終わりと始まりのこの祭りで》


歌を聴きつけて、森のあちこちから動物たちが集まって来た。


《歌えよ 歌え 夜の()り歌
六花(りっか)の舞い散るその夜に

太陽は早くに沈み
夜の長きこの日に
冬の終わりがやって来る

長き死の世界に 命が芽吹く季節(とき)が来る

黒い女神と冥府の鹿は
子供を2人 連れて行く
哀れな子らに祝福を
悲しき同胞に祝福を
新しい年に再び生まれ
森と 我らと 共に過せるように》


雪が舞い、凍える寒さの祠の中には──数多の子供の亡骸があると言う。

***

「あ、あれじゃない?」
「きっとそうだよ!僕、先に行くね!!」
「待ってよう!」

今年もまた子供がやって来る。


それを見る者は、雪を意味する名前の梟と狐と──森に住まう動物たちだけである。

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