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月の猫

とある(セカイ)に、とても寂しがり屋の月が居ました。
朝、地上は暖かな太陽に照らされて、動物たちは大地を走り、大空を舞い、海を泳ぎ──そして太陽は、動物たちによく物語を語っていました。
語る物語は、今まで太陽が見て来たこの(セカイ)の歴史。
でも太陽は夜になると沈んでしまいます。
そして太陽と入れ替わるように、寂しがり屋の月が姿を見せますが……。
そこには物語を語ってくれる暖かな太陽は居ません。
動物たちも寝てしまっています。
月はいつも一人ぼっちでした。

***

そしてある日の朝、いつものように太陽が動物たちに物語を語っていたとき──

「ぼくも太陽さんのお話しが聞きたいんだ!」

──突然、月が登って来て太陽を隠してしまいました。
すると辺りは、朝でも夜でもずっと薄暗くなってしまったのです。
それが何日も続き、動物たちは困り果ててしまいました。
そんな動物たちの所にやって来たのは──

「やあ、みんな。これは一体……何があったの?」

──金と水色の“色違いの瞳(オッドアイ)”の黒猫でした。

黒猫はこの(セカイ)では数少ない、“朝に寝て、辺りが暗くなる頃に起きだす”動物でした。
彼女は、ずっと辺りが薄暗いままなのを不思議に思って出てきたのです。
月が太陽を隠してしまったのは朝でしたからね。
動物たちは黒猫に、寂しがり屋の月のことを話しました。
「なるほど……じゃあ、私が月の所に行って説得してみるよ」
そう言うと黒猫は、空高くまで駆けて行きました。

黒猫が太陽と月の居る所に着いたとき、ちょうど太陽も寂しがり屋の月に沈んでくれるように説得していました。
でも月は、もっとお話しを聞きたいと言って沈もうとしません。
そんな月に黒猫は唄うように語りました。

《寂しがり屋のお月様
貴方が沈んでくれないと
動物たちも太陽さんも困っています

貴方は気づいていませんか?
貴方が寝ているそのときも
貴方はこの空に居ることに

貴方が一人と言う夜も
貴方の後ろには
数多の星たちが輝いていることに

私も時々は貴方の所に行きましょう
だから今は沈んではくれませんか?》

これを聞いて反省した月は、太陽に、動物たちに、そして──黒猫に。
たくさん謝りながら沈んで行きました。
そして再び、この(セカイ)に暖かい太陽の光が刺し込みました。
もちろん夜には月が顔を見せますが、物陰に隠れるようにこっそりと地上を見るようになりました。
こうして月は満ち欠けするようになったのです。
そして時々、太陽の物語を聞きに朝に登って来ては、日食を起こすようになりました。

***

ところで。
地上に戻って来た黒猫がどうなったのかと言いますと、太陽や動物たちから称えられ、敬意を込めて“月の猫”と呼ばれるようになりました。
そして月の猫は今でも時々、月に会いに行くと言います。

貴方が月を見上げたとき、そこに黒い猫が居るのを見られるかもしれませんね。

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