第13話 真鈴さんは可愛いお姉さん
「それで娘さんの父親は認めてくれたと?」
「いいえ、意地っ張りな父親は、なおも反対してましたよ」
「……だったらやっぱり失敗したんですか? それとも駆け落ち?」
「……数日後、二人は立派な結婚式を上げましたよ。そしてその傍には笑顔の領主もいました」
「!? ど、どういうことですか?」
まあ驚くよな。けど俺だってあれは予想外だったのだ。
何の権力もない農民に負けた事実に納得いかず、騎士の男は怒りに任せて暴走したのだ。
その凶刃が、娘へと向いた瞬間、恋人は彼女を庇って大怪我を負った。しかしそんな身体になってもなお奮い立ち、騎士の男を返り討ちにしたのである。
そんな恋人の勇敢な姿を見て、領主は自分の考えが間違っていたことを知った。
「それで晴れて、二人は夫婦になりましたとさ」
「はぁ……まるで映画のような流れですね。でも大怪我を負って大丈夫だったんですか、その恋人さんは?」
「ええ。俺が持っていた傷薬で治しましたから」
ここでエリクサーを使ったといっても分からんだろうし言わない。
「けれどその方たちは上手くいきましたが、私たちは恐らく難しいでしょうね」
「……純血種、だからですか?」
「もちろんそれもあります。あとは……やはり当主の娘ということが大きいかと」
「じゃああのオッサンがここに来たってことは、実家にはここがバレてるってことでしょうね」
「まあバレるも何も、ここを用意してくれたのは母親ですからね」
「! ……お袋さんが?」
「母はどちらかというと一族よりも私たちの意思を尊重してくれていますから」
つまり少なからず味方はいるということである。
「……さっきしおんには幸せな結婚をしてほしいって言ってましたけど、真鈴さんはどうなんです? 諦めてるんですか?」
「え? ……私だってできることなら心から愛した人と一緒になりたいですよ、もちろん。ですが……」
「じゃあそれでいいじゃないですか」
「ふぇ?」
ふぇ? って可愛いなこの人。あざといわけじゃないから余計にな。
「俺は自分の気持ちを優先してもいいって思うんですけどね」
「でもそれじゃ一族の未来が……」
「けど別に子供を生まないって言ってるわけじゃないでしょ?」
「そ、それはまあ……そうですけど」
「仮に相手がヴァンパイアじゃなくとも、たとえ薄くてもヴァンパイアの血を引いた子は生まれる。そしていつか先祖返りが起きて、純血種が誕生する。そうしてしおんやあなたは生まれてきたんじゃないんですか?」
「!? ……その通りです」
「だったら別に相手がヴァンパイアである必要はないじゃないですか。その方がただ効率が良いってだけの話でしょう。でも究極なことを言えば、ヴァンパイアの血族の子供が生まれればそれでいいんです。それだけで種は守られる。違いますか?」
俺の言葉に真鈴さんはキョトンとしながら俺を見続けている。
「あ、あれ? 俺、変なこと言っちゃいましたか?」
「い、いいえ! その……正論だって思いまして」
「そうっすか。ならしおんも真鈴さんも、好きに生きればいいと思いますよ。つーか、それに気づいてるからお袋さんは後押ししてくれてんじゃないすかね」
ただそれでも当主の立場として、効率重視を考えた結果、親父さんはヴァンパイア同士の繋がりを求めているだけだ。
「…………ですが現実問題、私たちを受け入れてくれるような他種族はそういないと思いますよ」
「いやいや、そりゃないですって」
「どうしてそんなことが言えるんです?」
「だってしおんも真鈴さんも、超美人じゃないですか」
「びっ……!?」
「男なら言い寄られたら即OKするくらいのルックスしてんですから、何も心配ねえっすよ。あーまあヴァンパイアって聞いてビビる奴もいるかもしれませんけど、それでもなお美人なら構やしないって男だってたっくさんいると思いますよ」
別に問答無用で血を吸ってくるようなバケモノじゃないんだし、こんな美女や美少女と結婚できるってんなら、種族のこだわりなんか捨てる男なんて山ほどいるに決まってるしな。
「…………ふふ」
「は? 俺……また変なこと言っちまいました?」
「あ、ごめんなさい。ただ……さすがはあのしおんが気に入っている男の子だなって思いまして」
「おお~、そりゃ光栄っすね。俺だってしおんのことを気にってますよ。もちろん真鈴さんのこともね!」
「~~~っ!? ……もう、大人をからかうのはダメですよ?」
「なはは、美人が照れる姿も良いもんっすね」
「だ、だから……もう!」
真鈴さんの白い頬が真っ赤に染まり、不貞腐れたようにそっぽを向く。
ん~この表情だけでも男が百人いたら百人が虜になりそうだ。
「……じゃあもし私にお相手が見つからなければ、日六くんがもらってくれますか?」
「ええ、もちろん……って、ええ?」
今……この人、何て言った?
ちょっと勢いだけで返事してしまったんだが……。
「ふふ、じゃあ安心ですね。今の言質、取りましたからね?」
……何だかマズイことを了承してしまったような気がしたが、上機嫌に鼻歌を歌い始めた真鈴さんに、それ以上何かを言うことはできなかった。