実家にて
貴仁の実家が盗難に遭った。
その知らせを受けた時は驚いた。
実家には、亡くなった父が遺した研究成果がたくさん残されている。盗まれたのもその一部らしい。
「見に行ってみるか」
週末、貴仁は母・陽子の様子を見に実家に戻ることにした。
陽子は、貴仁が戻ってきたことで安堵しているようだった。
研究の資料を片付けながら、父のかつてやっていた研究を思い出す。
父は、ドローンやT-RFIDなど、様々な技術を開発し、多くの人々に貢献していた。
エンジニアを目指す者なら多くの人がその名前を知っているだろう。
自分が今も父の研究を引き継いでいることを改めて実感し、その重みに圧倒される。
同時に、その技術が作り出した結果についても思いを寄せる。
(この研究がなければありさや潤はあんな風にならなかったのではないか?)
何度も目を通した資料なのに、視点が変われば見え方も変わる。
完全無欠だと思っていた父のプロジェクトは、視点を変えれば穴だらけだ。
『T-RFIDのタグを持っていない人がいたらどうなるか』という視点が完全に抜け落ちているのだ。
意図的に無視したのではないか?と疑ってしまうほどに。
貴仁は父が遺した様々な研究資料に目を通した。
そこには、父がかつて研究していた、まだ未完成の技術やアイデアが記されていた。
見ると、T-RFIDの問題を1つ1つ消していくものだった。
父の贖罪だったのかもしれない。
研究資料を見終わった頃、陽子から1つの石のような物体を渡される。
貴仁の父・瑛介のものだった。
「昔、瑛介は海外の考古学の協力をしていたことがあるんだ。その時に持ち帰ったものらしいわ。詳しいことはわからないけれど、これも彼の研究の一部だったのかもしれない」
物体は、ひとつの大きな黒曜石に似た外観を持っている。その石は、長さ約10センチメートル、幅約5センチメートルで、独特の形状をしており、表面には複雑な模様が刻まれている。石の質感は滑らかで、手に取ると重みがあり、どこか温かみが感じられるものだ。
表面には模様のようなものがある。
貴仁は、石のような物体に興味を持った。
インターネットでの検索を試みたが、それらしい情報は見つからない。
電子研究部のメンバーにも相談するが、彼らも知らないようだった。