スラム街へ
やがて、スラム街の入り口に到着した。この地域の厳しい生活環境が待ち受けていることを理解しながら、彼らはありさの父、播本潤のもとへと向かった。
純礼と貴仁は、潤のもとにたどり着く。彼の重症ぶりを目の当たりにする。
彼の呼吸は荒く、意識も朦朧としている様子だった。
純礼も潤の重症ぶりに心を痛めているようだ。同時に、すぐに彼を助けたいという強い意志が彼女の瞳に浮かんでいた。
すぐに携帯電話を取り出し、救急車を呼ぼうとするが、そのとき問題が発覚する。
「T-RFIDを持っていないのであれば搬送できません」
T-RFIDがなければ、自らの身分を証明できないため、病院で治療を受けることはできない。
この事実に、焦りを感じる。
貴仁はしばらく考えた後、ある決意をする。
「僕が潤さんの治療費を負担し、僕の名義で認証する」
問題は、潤の身元を確認できないことだ。
病院は、治療費を受け取るあてがあるならそれで良い。
幸い、貯金はある。
保険も適用とならないが、何とかなるだろう。
純礼は怪訝そうに見つめる。
「僕の父がT-RFIDシステムを開発したからだよ。もしかしたら、このシステムが原因で潤さんやありさちゃんが苦しんでいるのかもしれない。だから、僕が何とかしなくちゃ」
その責任は、ないのかもしれない。ただの自己満足かもしれない。
しかし、今目の前で起こっているこの状況を見逃すことはできない。
純礼は貴仁の決意を支持し、二人で救急車を呼ぶ。救急車が来るまでの間、純礼はありさをなだめ、彼女に勇気を与える言葉をかける。一方、貴仁は潤の身体状況を確認し、出来る限りの手当てをする。
やがて救急車が到着し、潤は病院へ運ばれる。純礼、貴仁、ありさも病院へと向かう。
口数は少ない。
今まで生きてきた世界との違いに恐ろしさすら覚える。
「何も見えていなかった」
知るべきこと、知らなかったこと、知ろうとしなかったこと。
暗い道のりが覆いかぶさってくるようだ。
純礼も同じ気持ちなのだろう。
目を瞑って思いを巡らせている。