第五十ニ話 襲撃計画
目を泳がせて落ち着かない領主のヨーカンに対して、ジカイラがカマを掛ける。
「カスパニアの王族が見えているようだが」
ジカイラからの問い掛けに、ヨーカンはギクリと目を見開き、焦ってしどろもどろに答える。
「いや・・・。ほら・・・。『視察』だよ! 『視察』!! カスパニア王太子殿下より直々に交易で栄える我が街を視察したいとの申し出があってな! 断りきれなかったのだよ!!」
「なるほど・・・」
ジカイラはトボけた返事を返したが、ヨーカンの動揺する様を目の当たりにし、ジカイラのヨーカンに対する疑念は確信に変わった。
(図星っていうところか・・・。カスパニア王太子が秘密裏に入国して領主に接触。街の視察なんて『通らない
通常、外交使節が他国を視察で訪れる場合は、予め、他国の政府に話をするのが『
エームスハーヴェンは、『港湾自治都市群』を称しているが、あくまでバレンシュテット帝国領であり、帝国内で自治を許されている都市に過ぎず、カスパニア王国の王太子がエームスハーヴェンを視察したいのならば、バレンシュテット帝国政府に対して話をするのが『
ジカイラの目付きが変わる。
(・・・コイツらは何を企んでいる? 何が目的だ??)
ジカイラの眼光にヨーカンは肝を冷やす。
(・・・マズい。・・・マズいぞ。下手な言い訳は失敗だったか? いや・・・、待てよ?)
エームスハーヴェン領主のヨーカンは、デン・ヘルダー領主のカッパやエンクホイゼン領主のメルクリウスより、悪知恵の働く『頭のキレる男』であった。
(私の手を汚すのではなく、秘密警察に此奴らを始末させよう!)
(それで皇帝の矛先は、秘密警察に向く。私は安泰。実に名案だ!!)
(ならば、此奴らとの長話は避けるべき!)
名案を閃いたヨーカンは、込み上げてくる笑いを抑えつつ、適当にこの場を切り上げようとする。
「街の治安の改善に努め、今後は巡礼者一行が傭兵団に襲われることは無いと約束しよう。巡礼者の諸君、我が街で長旅の疲れを癒やされると良い。それでは、失礼する」
ヨーカンは、ジカイラ達にそう告げると謁見の間を後にした。
ジカイラ達も領主の城を後にし、宿屋に戻る。
--夕刻。
ジカイラ達が宿に戻ると、既に夕刻になっており、いつものように一階の食堂に集まり夕食を取る。
夕食を取りながらジカイラが話す。
「ヨーカンのおっさん、オレ達、『巡礼者が街中で傭兵に襲われた事』を『口止め』してこなかったな」
ヒナも口を開く。
「そう言えば、そうね。エンクホイゼンの領主は、必死に隠そうとしたのに」
ティナが疑問を口にする。
「それがどうかしたの? なにか問題?」
ジカイラが答える。
「問題、大アリだよ。エンクホイゼンの領主が、オレ達を必死に『口止め』して隠そうとしたのは、『巡礼者が襲われた事を、大聖堂経由で皇帝に報告されたら、領主の責任問題になるから』だ」
ティナが頷く。
「うん」
「けど、ヨーカンのおっさんは、オレ達に『口止め』してこなかった」
「うん」
「判るか・・・? ヨーカンのおっさんは、オレ達を『口止めする』のではなく、『口封じする』つもりだ」
ジカイラの言葉に一同が驚く。
ティナが口を開く。
「ええっ!? 『口封じ』って、まさか、私達を襲って来るってこと!?」
ジカイラが歪んだ笑みを浮かべて答える。
「そういう事だ。方法は、まだ判らないが」
ヒナがジカイラに尋ねる。
「それで。ジカさん、どうするつもりなの?」
ジカイラが楽しそうに話す。
「先手を打って、こちらから襲撃する。港に停泊しているカスパニアの軍艦、コイツを狙う」
ティナが尋ねる。
「カスパニアの軍艦?」
ジカイラが説明する。
「そうだ。軍艦の王太子旗と王太子を狙う。ラインハルトがこの街に介入出来るように、その証拠を押さえる。外国の王族が密入国して、領主と会談している時点で問題さ。港湾自治都市群は、『帝国の自治領』であって、『独立国』じゃない。カスパニアとエームスハーヴェンが、色々とやり取りしたければ、帝国政府を通してやり取りするのが
「なるほど」
ジカイラが続ける。
「それと、秘密警察は間違いなく、この街に居る。組織が潜伏できる規模の中核都市は、もう此処しか無いからな」
ケニーが尋ねる。
「その秘密警察はどうするの?」
ジカイラがしたり顔で話す。
「オレとしては、ヨーカンのおっさんはオレ達の『口封じ』に秘密警察を差し向けてくるんじゃないか、と睨んでいる。暗殺には、うってつけの連中だからな」
ケニーが露骨に嫌な顔をする。
「アイツ等は、
ジカイラが笑顔を見せる。
「なぁに。秘密警察が襲撃してくる前にカタをつければ良い」
ルナが不安を口にする。
「上手くいくかな・・・」