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第四十一話 夜の海岸の遭遇戦

--翌日。

 ジカイラ達は、次の中核都市エームスハーヴェンへと向かうため、エンクホイゼンの宿屋を引き払う。

 宿屋から出発する時、孤児院のジェシカとキラーコマンドの少年達がジカイラ達を見送りに来た。

「色々とお世話になりました」

 ジェシカは、ジカイラ達に深々と頭を下げる。

 ジカイラは、ジェシカの肩に手を置いて話し掛ける。

「オレ達は、大したことはしていない。元気でな」

 ミランダが気恥ずかしそうにジカイラに話し掛ける。

「その・・・。ありがとう。色々と」
 
 モジモジとお礼を口にするミランダにジカイラは笑顔を見せる。

「次に会う時は帝都だな。良い女になれよ」

 そう言うとジカイラは、ヒナが待つ御者席に乗り込み、幌馬車を走らせる。

 幌馬車の荷台から、ケニー、ティナ、ルナの三人が顔を出して、ジェシカとキラーコマンド達に手を振る。

 孤児院のジェシカとキラーコマンドの少年達は、見えなくなるまで、ジカイラ達に手を振っていた。

 





 ジカイラ達の幌馬車は、エンクホイゼンの城門をくぐり、海沿いに北西街道を北上する。

 エームスハーヴェンは、エンクホイゼンから北西街道を幌馬車で二日ほど北に進んだ位置にあった。

 ジカイラの傍らに座るヒナの目に、沖合を航行する帆船が見える。

「わぁ・・・、船!」

 ヒナは、嬉しそうに帆船を指差してジカイラに話す。

 ジカイラも、ヒナが指差す船を見る。

 帆船はキャラックであり、四角く張った帆に風を受け、穏やかな沖合を航行していた。

「・・・そうか。『動いている帆船』を見るのは、初めてか」

「うん!」

 ヒナは、今まで港に停泊している帆船しか見たことがなかった。

 沖合を航行する帆船に目を輝かせるヒナにジカイラが解説する。

「あのサイズだと、中距離から長距離を航行するキャラックだろう。港湾自治都市群は貿易中継地だから、帆船の行き先は、新大陸か帝都だろうな」

「新大陸かぁ・・・」

 ジカイラの話を聞いたヒナは、まだ見たことのない地に想いを馳せていた。







--夜。

 ジカイラ達は、海沿いに伸びる北西街道の脇の砂浜で夜営を行う。

 昼間、御者をしていたジカイラとヒナは幌馬車の中で眠り、夜の見張りは、ケニーとルナ、ティナの三人で行うことにした。

 三人は、夜営の焚き火を囲みながら見張りを行う。

 夜の北西街道に人通りは無く、沖から浜辺に寄せては引く、さざ波の音だけが響いていた。

 カップの飲み物を口にしながらティナが口を開く。

「静かね・・・。波の音しかしない」

 ケニーも口を開く。

「夜の海って、何か怖いね」

 ルナも口を開く。

「何だか、引き込まれそう」

 言葉を交わしながら、三人は夜の海を見つめる。






 ルナが突然立ち上がり、獣耳(けもみみ)を動かして聞き耳を立てる。

 ケニーも立ち上がってルナに話し掛ける。

「ルナちゃん、どうしたの!? 敵?」

 ルナは口の前に人差し指を立てて、ケニーに答える。

「シッ! 静かに・・・。複数の金属音!? ・・・・向こうから!!」 

 ケニーとティナは、ルナが指差した方角を見る。

 夜の帳の闇の中、蠢く複数の影。

 それらは、砂浜を夜営へ向けて迫って来る事がケニー達にも判った。

 ケニーは、両手でショートソードを抜いて構えるとティナに話し掛ける。

「僕とルナちゃんで敵の足を止める! ティナちゃんは、ジカさん達を起こして来て!!」

「判ったわ! 無理しないでね!!」

 ティナは、小走りで幌馬車へと向かう。

 ケニーとルナは、闇の中を近付いてくる影に向かって走る。






 闇の中からケニーとルナの前に現れたのは、粗末な槍や剣と盾で武装したゴブリンの集団であった。

 走りながらケニーがルナに指示を出す。

「ゴブリンの集団だ! 敵は五体!! 僕は右から! ルナちゃんは左から!!」

「了解!!」

 ケニーは、闇の中、音も無く走り寄ると、先頭のゴブリンの胸にショートソードを突き刺す。

 ケニーの奇襲に驚いたゴブリン達は、慌てて武器を構える。

「遅い!」

 ケニーは、隣で槍を構えたゴブリンの懐に入ると、ショートソードを水平に払う。

 ショートソードは、ゴブリンの喉を切り裂き、口から黒い血を吐きながらゴブリンはその場に崩れ落ちる。

「やぁあああっ!!」

 ルナは、大上段から袈裟斬りに左端のゴブリンを斬り捨てる。

 隣のゴブリンが、ルナに槍を向ける。

 ルナは、左手の小型盾(バックラー)で槍先を押し退けると、身を翻してゴブリンの腹に剣を突き刺す。

 残ったゴブリンは、ケニー達に背中を見せて逃げ出そうとする。

「逃がすか!!」

 ケニーは、懐から短剣を二本取り出すと、ゴブリンの背中に向けて投擲する。

 二本の短剣は、ゴブリンの背中に刺さり、ゴブリンは前のめりに倒れ、動かなくなった。






 程なくジカイラ、ヒナ、ティナがケニー達の元に駆け寄ってくる。

 ジカイラが口を開く。

「大丈夫か?」

 ケニーが答える。

「大丈夫だよ。敵はゴブリンが五体だった」

 再びルナが獣耳を動かし、聞き耳を立てる。

「ケニーたん! ジカさん! 待って! まだ、何か来る!!」

 ルナは、闇の中、自分達に近付いて来る影の方角を指差す。

 ルナが指差す方角に向かって、ジカイラ達は身構える。

 闇の中から現れたのは、二体の食人鬼(オーガ)であった。

 巨体の食人鬼(オーガ)は、二体並んで歩き、それぞれ棍棒を手に持っていた。

 ジカイラが口を開く。

「こんな街の近くに食人鬼(オーガ)が!? ヒナ! 左のは任せるぞ!!」

 ジカイラは、そう言うと、右側の食人鬼(オーガ)に向かって走って行く。

「判ったわ!」

 ヒナは、左側の食人鬼(オーガ)に向けて手をかざす。

氷結水晶(クリスタル・)(ランス)! 四本(ヴュワー)!!」

 ヒナの声と共に空中に氷の槍が四本作られ、食人鬼(オーガ)へと飛んでいく。

 四本の氷の槍は、左側の食人鬼(オーガ)の胸と腹を貫き、食人鬼(オーガ)はその場に崩れ落ちる。

 食人鬼(オーガ)は、右手に持つ棍棒をジカイラに向けて水平に振るう。

 ジカイラは、斧槍(ハルバード)の矛先を地面に突き立てると、両手で斧槍(ハルバード)の柄を持ち、食人鬼の棍棒の一撃を受け止める。

「ウォオオオオ!!」

 ジカイラの斧槍(ハルバード)は、食人鬼(オーガ)の棍棒の一撃を受け大きくしなり、雄叫びを上げたジカイラは両足を地面につけ斧槍(ハルバード)の柄を両手で支えて踏ん張ったまま、三メートルほど地面の上を横滑りに滑る。

 斧槍(ハルバード)の矛先がガリガリと地面を削る。

 食人鬼(オーガ)は、棍棒の一撃を受け止めたジカイラにもう一撃加えるべく、棍棒を振り上げる。

 ジカイラは腰を落として深く息を吸い込み、貯めの姿勢を取る。

( (いち)(せん)!!)

 ジカイラの渾身の力を込めた斧槍(ハルバード)の一撃が剛腕から放たれる。

 ジカイラの斧槍(ハルバード)の一撃が食人鬼(オーガ)の左の脇腹に食い込む。

「ゴァアアアアア!!」

 脇腹に斧槍(ハルバード)の一撃を受けた食人鬼(オーガ)が悲鳴を上げる。

( まだだ! ()(せん)!!)

 ジカイラは身を翻すと、もう一度、渾身の力を込めた斧槍(ハルバード)の一撃を食人鬼(オーガ)に加える。

 両脇腹に斧槍(ハルバード)の一撃を受けた食人鬼(オーガ)は、断末魔の悲鳴を上げ、両膝を地面につける。

「とどめだ!!」

 ジカイラは、食人鬼(オーガ)の脇腹から斧槍(ハルバード)を引き抜くと、食人鬼(オーガ)の喉に斧槍(ハルバード)を突き刺す。

 食人鬼(オーガ)は、その巨体で前のめりに倒れると、動かなくなった。

 ジカイラが軽口を叩く。

「デカいだけあって、タフだわ。此奴ら」

 闇の中から更に細身の男の人影がジカイラ達に近付いて来る。

「ほほぅ? まさか食人鬼(オーガ)を倒せる人間が居るとはな」

 ジカイラ達は、声がした細身の男の影に身構える。

 闇の中から姿を表した細身の男は、不敵な笑みを浮かべるダークエルフであった。

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