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第三十六話 翌日

--翌日の昼。

 ジカイラ達が宿屋の食堂で昼食を終えた頃、キラーコマンドの六人が宿屋にやってくる。

 キラーコマンド達にジカイラが話し掛ける。

「六人・・・? キラーコマンドは八人だろ? あとの二人はどうした?」

 ミランダが答える。

「ちょっとね」

「まぁ、座れよ」

 ジカイラは、キラーコマンド達にそう言うと(おもむろ)に煙草を取り出し、吸い始める。

 食堂の席に座るキラーコマンド達は、目聡く煙草に火を付けるジカイラの左手に目を留める。

「おい。あれって」

「ああ」

 左手の甲、人差し指と親指の付け根の間。”合谷”と呼ばれる部分。

 文様の入れ墨があった。

 それは、特等刑務所収監者が入れられる入れ墨。

 凶悪犯や海賊だった者達、『裏社会のエリート』の証であった。

 キラーコマンド達は、特等刑務所収監者の『入れ墨』があり、ボディビルダーのように屈強な体躯のジカイラにビビり、萎縮し始める。

 ケニーがキラーコマンド達に話し掛ける。

「ミランダ、みんな。よく来てくれた」

 ミランダはバツが悪そうに答える。

「まぁ・・・約束したしな。それで、話って?」

 ケニーが続ける。

「孤児院も、院長先生も、僕の友人が面倒を見る。お金の心配も要らない。シンジケートも、僕の友人が何とかする。君達は、もう盗賊団の真似事なんてしなくて良い」

 ミランダが聞き返す。

「・・・友人って??」

 ケニーが開いた左手を向けてラインハルトを紹介する。

「僕の友人を紹介しよう」

 ラインハルトがキラーコマンド達に挨拶する。

「私は、バレンシュテット帝国皇帝 ラインハルト・ヘーゲル・フォン・バレンシュテット。隣に居るのが皇妃のナナイだ。よろしく」

 ナナイは、ラインハルトの紹介に合わせて、キラーコマンド達に微笑みかける。

 ヒロが絶句する。

「バレンシュテット帝国皇帝って・・・」

 キラーコマンド達は、ケニーの紹介する友人というのが、バレンシュテット帝国の皇帝夫妻であることに絶句する。

 気の強いミランダも流石に動揺を隠せないまま、聞き返す。

「ま、まさか、私達を捕まえに来たんじゃ!?」

 ラインハルトは、テーブルの上に手を組んで置くと、ゆっくりと話す。

「君達の事は、友人のケニーから話は聞いている。君達の孤児院に必要な費用は、私が責任を持って引き受ける。運営は皇妃のナナイが受け持つ。院長先生も医者に診せて療養させよう。お金の事は心配はしなくて良い。シンジケートも私が責任を持って対処する。君達は何も心配しなくていい。安心して暮らし、学校で勉強すると良い」

 ヒロが萎縮しながら聞き返す。

「オ、オレたちを逮捕しに来たんじゃないんだな?」 

 ラインハルトは、少し考える素振りを見せた後、ヒロからの問いに答える。

「そうだな・・・。皇帝の権限で、君達が使っていた『銀仮面』と引き換えに、君達の罪は赦免しよう」

 ラインハルトの言葉にキラーコマンド達は驚く。

 ミランダが口を開く。

「こんな物でいいのか? これと引き換えで、私達は無罪なんだな??」

「そうだ。君達が二度と盗賊団をやらなくても暮らしていけるように私の方で取り計らう。銀仮面は、もう君達には必要無いだろう?」

 ミランダが答える。

「判った」 

 ラインハルトとキラーコマンド達のやり取りを聞いていたケニーやルナ達も安心する。

 




 宿屋に小さな男の子が駆け込んでくる。

 ケビンであった。

 ケビンは、泣きながら必死に話す。

「ミランダ! ヒロ! キャシー、帰って来た! ロブ、死んじゃった!!」

 その場に居た全員が驚く。

 ミランダがケビンの両肩を掴んで聞き返す。

「ケビン! キャシーが帰って来たのかい? ロブが死んだって、どういうこと!?」

 ケビンは、必死にミランダの手を引く。

「こっち!!」

 ジカイラ達はキラーコマンド達と、ケビンに手を引かれていくミランダを追い掛けて、宿屋の食堂を後にする。

 ケビンは、ミランダの手を引いて商店街を抜けると、商店街の外れの小高い丘の上にあるミランダ達の孤児院へと連れて行く。

 




 ジカイラ達とキラーコマンド達は、孤児院の正門に差し掛かった時、ロブを見つけることができた。

 ロブの遺体は、血塗れの上、全裸で足を縛られ、正門に逆さ吊りに吊るされていた。

「誰がこんな酷いことを・・・」

 ジェシカは、ロブの遺体の近くで座り込んで、両手で顔を覆い、泣き崩れていた。

 ヒナ、ナナイ、ルナ、ティナの四人は、孤児院の小さな子供達にロブの遺体を見せないように、建物の中に入るように連れて行く。

 ジカイラ達は、正門の上から逆さに吊るされていたロブの遺体を降ろし、調べる。

 キラーコマンドの少年少女達は、恐怖と驚きで絶句したまま、集団でロブの遺体を見つめていた。

 全身に激しい暴行を受けた跡があった。

 ジカイラが口を開く。

「シンジケートからの私刑(リンチ)で、なぶり殺しってところだな」

 ラインハルトが降ろされたロブの遺体を仰向けにすると、頭から股間まで五本平行に切り裂いた傷跡があり、胸には貫通したであろう五本の刺し傷があった。

 ジカイラ達には、その傷跡に覚えがあった。

 ラインハルトが口を開く。

「五本、平行に切り裂かれている。この傷跡・・・。シンジケートの仕業というより、秘密警察の戦闘員の爪痕だろう」

 ジカイラが答える。

「なるほどな。奴等、デン・ヘルダーの領主の次は、シンジケートと手を組んだか」

 孤児院の中から、ティナが走ってジカイラ達の元へやってくる。

「お兄ちゃん! ジカさん! キャシーの意識が戻ったの! 早く!!」

 シンジケートから激しい暴行とレイプを受け、虫の息だったキャシーにティナが回復魔法を掛けたので、意識が戻ったのであった。

 ケニーが口を開く。

「ロブの遺体は、僕の方で血を拭いて棺桶に入れておくよ。みんな、キャシーのところへ行ってあげて」

 ジカイラ達とキラーコマンド達、それにジェシカが孤児院の中に向かう。





 キャシーは、虫の息でベッドに横たわっていたが、ティナの回復魔法で体の傷は癒え、ベッドの上で上半身だけ起こして佇んでいた。

 ベッドに横たわるキャシーの傍にジェシカが座ると、キャシーはジェシカにすがりついて号泣する。

 キャシーは泣きながら叫ぶ。

「あいつらが! シンジケートが、今夜、此処に来て、皆殺しにするって!! お前が伝えろって!!」

 キャシーの言葉にジェシカやキラーコマンド達に動揺が走る。

 ジカイラが、顔を少し上に向け、にやけ顔で呟く。

「ほぉう。シンジケートの奴等、今夜、此処に来るって?」

 キャシーは、錯乱気味に泣きながら答える。

「そう!! どうしよう!! みんな、殺される!! 殺されるよ!!」

 ジカイラは、横目でラインハルトを伺う。

 ラインハルトのアイスブルーの瞳が、冷酷な光を放っているのが見て取れた。

 ラインハルトが口を開く。

「君達は何も心配しなくて良い。私達で対処する。ヒナ、ティナ、ルナ。子供たちの傍に居てやってくれ」

 ジカイラ、ラインハルト、ナナイの三人は、キャシーの寝室から食堂へ向かう。





 ジカイラ、ラインハルト、ナナイの三人は、廊下を歩きながら話す。 

 ジカイラが尋ねる。

「で。どうするつもりだ?」

 ラインハルトは、さらりと答える。

「シンジケートは『アスカニアの癌』だ。切除しないとな」

 ナナイも口を開く。

「逃げられたら面倒ね」

 ラインハルトが答える。

「そうだな・・・。いい手がある」

 三人は、食堂に入る。

 ラインハルトがジカイラに話し掛ける。

「ちょっと、()()を貸してくれ」

 ジカイラが答える。

「コレのことか?」

 そう言うと、小物入れから『次元(ディメンジョン・)呼び鈴(アラーム)』を取り出して、ラインハルトに渡す。

「そう。それ」

 そう言うとラインハルトは、受け取った『次元(ディメンジョン・)呼び鈴(アラーム)』を鳴らす。

 綺麗な鈴の音が食堂に響くと、食堂の一角に『転移門(ゲート)』が現れ、中からエリシスが出てきて、ラインハルトに片膝をついて挨拶する。

「お呼びですか? 陛下」

 ラインハルトは、エリシスに指示を出す。

「帝国四魔将全員に、戦闘装備で三時間後、此処に集合するように伝えてくれ。君は、リリーを連れて来ても構わない」 

「御意」

 エリシスは、そう答えると再び『転移門(ゲート)』の中に消えた。

 ジカイラがラインハルトとナナイに話し掛ける。
 
「こりゃ、盛大な祭りになりそうだな」

 ナナイも、その美しいエメラルドの瞳に冷酷な光を見せる。

「私は、手加減するつもりは無いわよ」

 ラインハルトが答える。

「手加減無用。皆殺しだ」

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