降って湧いた?
立ち尽くす俺、泣き続ける女の子。
これだけだと、まるで俺が泣かせたようだけどそうじゃない。
目の前の女の子、自称派遣社員で勇者のエリーナは、百均のカッターを聖剣と言ってドラゴンに切りかかったのだが……ドラゴンの体は思いのほか固かったらしく、カッターの刃は情けない音と共に折れて、放物線を描きながら飛んでいき、それを見たエリーナが、膝から崩れ落ちて泣きだした。
ちなみに、折れたカッターの刃はサバの頭に刺さったんだけど、サバは元気に走り回っている。
それはいいとして、今のこの状況をどうしたものか。
自慢じゃないが、ここ最近女の子と話た事なんてほとんどない。バイト先で、俺よりだいぶ年上のお姉さま方とは話すことはあるけど……。
「な、なぁ……」
「うわぁぁぁぁぁぁん!!」
子供っぽさ全開の泣き声をあげるエリーナ。
あげてる声もなかなかのもので、こんな壁の薄いアパートなら声が漏れているはず。まぁ、今現在住んでるのは俺だけらしいので、その点は心配いらないけど。
どうやっても泣き止んでくれないエリーナに、俺は完全に頭を抱える。どうしてこの部屋は、こうも次々と厄介ごとが起こるんだ。一体俺が何をしたっていうんだ……泣きたいのは俺の方だってのに。
「よく泣く娘だ」
「まったくだ……」
ため息をつきながら同意する。
あれ……俺、誰と話してんだ?
「これで勇者とか言うんだからのぅ」
いつの間にか俺の横に現れた子供が、そう言いながらけらけらと笑う。赤みがかった髪は、手入れされてないようにぼさぼさで、なんかお遍路さんが着るような白い服を着ていた。
「お前誰だよ……」
「あ? ずいぶん失礼な物言いじゃな」
いや、お前の方が失礼だろ。
そんなツッコミを飲み込んだ俺は、怪しいものを見るような視線を向ける。しばらくいていると、ようやくガキンチョも気づいたらしく、コホンと咳払いをする。
「儂は、お前たち人間が神と呼んでるものじゃ」
「神って、神様ってこと?」
「うむ、そう言うことになるな」
どうしよう、また変なのが出てきた。
神とか名乗った目つきの悪いガキンチョは、横目でジロリと俺を睨むと、わざとらしく肩を落としながらため息をつく。なんか、すごいバカにされた気がする。
「見た目で判断するのは、人間の悪い癖じゃのぅ」
「いきなり信じる人間なんざいねぇだろ」
「あぁ、嘆かわしい!」
そう言って、ため息を吐く。なんだろ、この無性に殴りたい気持ちは……。
あふれ出る衝動をグッと堪えながら、拳を固く握りしめる。きっかけがあれば、俺の理性はすぐにでも退散してくれそうだ。
「まぁいい、今回の事は儂にも原因があるしの」
「原因って……何をした!」
「のあ!」
怒りに任せてガキンチョを掴みあげ、乱暴に振り回す。なにやら悲鳴だか罵声だかをあげているが、今の俺には聞こえない。
やられたらやり返す! もう、何倍にもして返してやる!
そんな感じでガキンチョを振り回す俺の横では、いまだにエリーナは泣き続け、ドラゴンは眠り続けていた……。