意外とロマンチスト
「いいから、早く……触ってよ。タクト」
と自ら、可愛らしい小尻を突き出すミハイル。
だが、先ほどまでの勢いは無い。
恥ずかしくて、仕方ないようだ。
パーカーで顔を隠しているから、どんな表情かは分からないが。
きっと、真っ赤なんだろうな……。
「じゃあ……いくぞ?」
緊張しているミハイルの鼓動が、こちらにまで聞こえてきそうだ。
狭いトイレの個室で、二人きり。
辺りは静まり返っている。
聞こえるのは、俺とミハイルの荒い息遣いだけ。
生唾を飲み込み、ゆっくりと両手をフェイクレザーのショートパンツへ近づける。
試しに人差し指で、彼の尻を突っつく。
「!?」
なんて、柔らかいヒップなんだ。
程よい弾力……押したら、ぷにんと跳ね返ってくる。
もっとだ。もっともっと触りたい!
いや、揉みまくりたい!
抑えていた理性が崩壊し、俺に残ったのは……野性のみ。
もう、どうなっても知らない。
今は目の前にある可愛らしい、ミハイルの尻をいかに愛すること。
改めて、しっかりと両手で小さなヒップを揉んでみる。
「んあっ!」
ミハイルが妙に色っぽい声で反応する。
背中を反らせて。
その声に俺も驚く。
「だ、大丈夫か? 痛いならやめるけど……」
「うぅん……痛くないよ。早く汚れを落として」
「了解した」
クソ。
反則的な可愛さだ。
こんなミハイルは、初めてに思える。
それがまた初々しくて、たまらない。
俺は……もう次に、ミハイルに触れた瞬間。
どうなるか、分からない。
だって、今いる個室は、誰からも見られないし。
狭いが密室だ。
レザーのヒップもたまらんが、ダイレクトで触ってみたい。
このまま、流れでミハイルのショーパンを下ろし……ドッキング。
「それはダメだ……」
ミハイルに聞こえないぐらいの小さな声で呟く。
初めては、白いベッドの上に赤いバラの花びらを散りばめ。
きっと彼が恥ずかしがって、今みたいに両手で顔を隠すだろう。
だから、俺がリードし、ミハイルの細い腕を枕元に抑え込む。
そしてあの美しいエメラルドグリーンの瞳を、見つめながら繋がる……。
って……妄想が爆発してしまった。
目の前の尻を突き出したミハイルは、プルプルと小刻みに震えていた。
自分から提案しておいて、恥ずかしいんだろう。
「ねぇ、タクト……」
「どうした?」
「やっぱり、無理かも」
「へ?」
俺は耳を疑った。
「おかしいよ、こんなの。オレたち男同士なのに……」
ミハイルのやつ。
恥が上回ったのか。
でも、俺の欲求は満たされていない。
まだまだ、触りまくりたいのに!
「おかしくない! まだ一の汚れは落ちていないぞ、ミハイル!」
すまん、一。
「でも……オレさ、今日……」
「今日がなんだ?」
次の瞬間、顔からパーカーを離して、振り返る。
思った通り、真っ赤な顔で、俺をじっと見つめた。
エメラルドグリーンの瞳は涙で潤んでいる。
「オ、オレ……今日はまだお風呂入ってないの!」
「はぁ?」
「だから、汚いし。汗臭いかもしれないの!」
「ミハイル? なにを言って……」
と言いかけている最中で、彼は俺に背中を向ける。
個室の鍵を開けて、扉を勢い良く開いた。
「悪いけど、汚れは手洗い場でしっかり落として! あと、ついでにアルコールで消毒してね!」
そう叫ぶと、振り返ることもなく、走り去ってしまった。
一人、個室に残された俺は、放心状態に陥ってしまう。
「さ、さ、触れなかった……ミハイルの尻」
※
「クソがーーーッ!」
小便臭いトイレのタイル目掛けて、拳を叩きつける。何度も何度も……。
汚いと分かっていても、俺の憤りをどこかにぶつけないと自分を保てないからだ。
触りたかった、もっと……。
いや、初めてが“後ろ”からでも、経験しておくべきだった。
でも……後悔しても遅いんだ。
ミハイルに拒絶されたから。
ていうか、お風呂に入ってたら、させてくれたの?
汚い便所の床で4つん這いになっていると、誰かがトイレの中に入ってきた。
「お、タクオ。こんな所にいたのか。急にミハイルといなくなるから、心配したぜ」
誰かと思えば、リキだ。
普段の俺なら彼の心遣いに、礼を言うところだが……。
「うるせぇ! 全部、てめぇのせいだ! 老け顔のクソハゲ野郎!」
「え、酷くね? 俺が何かしたか……」
「したわ! おめぇのせいで、初体験が台無しだよ!」
「タクオ……良く分かんないけど。謝るよ、ごめんって」
「一生、許すか! このハゲが!」
リキは何も悪くないのに、当たってしまった……。
でも、股間が暴走して、興奮が治まらないんだ。