太陽のストーカー②
奏さんを待つ間、私達は図書館で待つことになりました。図書館は当番の人を除いて誰もおらず、実質私と美優羽さんの二人きりという状態です。
好きな人と一緒に、しかも独占的にいられる。なんと素晴らしいことなのでしょうか。こんな滅多にない時間、堪能しないわけにはいきません。
とは言え、図書館に来たのですから本も読みたいところ。ならば、この雰囲気を味わいながら本を読みましょう。
私は何冊か本を集め、美優羽さんの前に座ります。ちなみに集めてきた本は、私の大得意な料理に関する本です。
美優羽さんが読んでいるのは、ファンタジー系ですかね? 私は図書委員とはいえ、小説系には疎いので何を読んでいるのかはわかりません。
これに関しては後ででも聞いてみましょう。私は私の本を読んでいきましょう。
私は本を取り、読み始めます。
どうしてでしょうか。好きな人と一緒に読んでいるからでしょうか。普段より本を読む速度が速くなっている気がします。
私の好きな料理研究家のレシピ本ってのもあるでしょうが、やはり、いつも以上に集中できています。内容が隅々まで入ってきます。
やはり誰かと、大好きな美優羽さんと読むのはいい効果があるようです。今度から本を読む時は誘っても良いくらいですね。
ただ、私なんかが誘ってもいいんでしょうか。私は日陰者。美優羽さんはクラスの人気者。立場が違いますし、美優羽さんは常に誰かから誘いを受けているでしょうし。
でも、そこをなんとかしたい。そんなことを考えていた時、美優羽さんが背後に立っていることに気づきました。
「ど、どうかしましたか?」
私は慌てて後を振り向き、問いかけます。
「あっ。えっとねえ、楓がすっごい面白そうに見ていたから何が面白いのか気になって……」
美優羽さんは軽く微笑んできます。
どうしましょう。ただ私は好きな料理本を読んでいただけですが、この事は美優羽さんには明かしていませんでした。
少し恥ずかしいですが、美優羽さんのお陰で読むスピードが上がったことを隠して言いましょう。
「実は、私料理が大好きなんです。だからこうやってレシピ本とか見ちゃうとつい興奮して読んじゃうんですね」
私は半分本当、半分嘘な内容を言いました。
「へえー。私は本が面白いからかなあって思ってたけどそうだったんだ」
美優羽さんは私の言った内容に特に疑問を抱いてる様子はないようです。良かった。これで秘密は守られたようです。私は一安心しました。
「面白い料理本があれば、それはそれで見てみたいですけどね」
私は軽く笑いながら言いました。
「けど、料理が大好きってことは腕にも自信があるのかしら?」
美優羽さんはそう言ってきました。この質問待っていました。私は料理が大得意です。
多少の料理なら目を閉じていても作れます。味も多分美味しいはずです。両親と祖父母しか食べたことないんですが、不味いと言われたことはありません。
多少お世辞はあるでしょうが、きっと私は料理が上手なはずです。それにこうやって研究も欠かさずに行っています。これで不味いはずがありません。
「そうですね。人並み以上にはできると思います。色んな研究をしているので」
私は自信満々に答えました。すると美優羽さんは、
「そんなに自信があるなら一度でいいから食べにきてみたいなあ」
少し口元を緩くして、間髪入れずに言ってきました。
これはチャンスです。これを口実に家に誘えば、休日一緒に過ごすことができます。それだけでなく、私の手料理を食べてもらえます。
もしもお口に合えば、私は美優羽さんの胃袋を掴むことができます。こんなチャンス逃すわけにはいきません。
「あ、あのっ。言ってくれれば作りますんでっ。いつか家に来てくれませんかっ?」
私は想いが強すぎて、ちょっと声が固くなってしまいました。テンションも上がりすぎたので、顔も少し赤みがかってるはずです。ちょっとがっつきすぎたでしょうか。
そんなことを心配していると、美優羽さんは優しく微笑んでいました。
「いいわよ。いつか都合のいい時に連絡するね」
美優羽さんは優しい声でそう言いました。やりました! チャンスを掴むことができました! これで一緒に過ごす権利をゲットできました!
私の心は興奮の感情で一杯です。大火事状態です。
「おっ、お待ちしていますっ! いつでもどうぞ!」
私は興奮を隠すように、これ以上心が燃え上がらないように下を向いて言いました。
楽しみすぎて仕方がないです。いつになるかは分かりませんが、美優羽さんが家に来てくれる。これ以上の幸せはありません。
私はいつの日かの美優羽さん訪問を想像して、胸が一杯になります。待ち遠しくてたまりません。
家に上がった美優羽さんと一緒に私の部屋に行って、何気ない会話を楽しんで、そして料理を振る舞う。料理を食べた美優羽さんはきっと美味しいと言ってくれるでしょう。
そして、また食べたいなあなんてことも言ってくれるかもしれません。そうすれば、また誘うことができます。
これは幸せの無限ループです。最高です。
そんな妄想をしている時でした。
「美優羽ちゃーん、秋葉さーん。生徒会の仕事終わったから帰ろう」
私と美優羽さん二人きりの幸せの時間の終わりを告げる存在がやってきました。もうちょっと仕事が長引いても良かったのに……。
と、私は心から残念がりました。
終わった時間は仕方ないです。私は急いで本を片付けにいきます。幸い本は同じ箇所に固まっていたので、片付けはすぐに終わりました。
一方の美優羽さんと奏さんは何やら話をしているようです。側《はた》から見ていると簡単に気づくのですが、美優羽さんは奏さんと話している時の方がいい表情をしています。
明らかに口元が緩い感じがしますし、目だって私と話している時よりもキラキラしています。
やはり私では勝てないのでしょうか。いやいや。諦めてはいけません。諦めなければ可能性は僅かでも、切り開くモノですから。私は心でそう誓います。
美優羽さんと奏さんが話終わったようです。
「へえー。ねえ秋葉さん。その時は私も一緒に行っていいかな?」
そういった奏さんはにこやかに微笑んでいます。
げっ。奏さんも一緒ですか……。まあその方が確実に来てくださるでしょうから、その点では問題ないです。ないですが、私にとって奏さんは恋敵。正直一緒に居たくありません。
絶対にノーと言いたいところですが、今ここには美優羽さんが居ます。もし奏さんを邪険に扱えば、美優羽さんは相当に悲しむでしょう。
そして、私の印象が悪くなるでしょうし、家に来てくれなくなるでしょう。仕方ありません。ここは心を殺して答えましょう。
「いっ、いい……ですよ…………」
私は自分の心を必死に押し殺してなんとか答えました。本当はこう言う時は、笑ってすらすらと答えるのがベターでしょう。
しかし、私にはそういう経験があまりないので、そういう対応ができません。それでも、本音を言わずに押し殺せた点は評価できるのではないでしょうか。
私はそうやって自分を肯定しました。