第百話 決戦、死の山(五)
転移水晶球によってラインハルト達は、
ラインハルトは周囲を見回す。
「・・・ここは?」
小隊の他のメンバー達も周囲を見回す。
ナナイが口を開く。
「
魔法の青白い光に照らされる
「
革命政府の幹部であるヴォギノ主席、軍事委員のコンパク、秘密警察長官のグレインが壇上からユニコーン小隊を見下ろす。
ラインハルトが革命政府の幹部達に告げる。
「投降しろ。公正な裁判を受けさせてやる!」
ヴォギノが答える。
「ふはははは! 皇太子殿下からの折角の申し出だが、断る!! 帝国の『国家反逆罪』は『死刑のみ』が刑事罰だからな!」
ジカイラが革命政府の幹部たちに悪態を突く。
「
ヴォギノが乾いた笑い声を上げる。
「元気がいいな!」
ジカイラが更に悪態を突く。
「何なら、三対一でもいいぜ?」
ヴォギノが答える。
「良いことを教えてやる! 過去のバレンシュテット皇帝は、ここで戦時捕虜や死刑囚に殺し合いをさせて見物していた。だからこの山は『
ジカイラが驚く。
「何だと!?」
ハリッシュが呆れたように呟く。
「・・・本当に悪知恵だけは回る人達ですね」
程なく、エリシスとリリー達の帝国不死兵団が、次いでナナシと帝国魔界兵団が
エリシスやリリー、ナナシ達も周囲を警戒する。
ヴォギノが続ける。
「おおっと。皇太子の他に帝国軍も現れたか。我々はこれで失礼するよ、皇太子殿下。
そう告げると、乾いた笑い声を上げながら、ヴォギノ達は壇上から出口へ逃げて行った。
鉄鎖が巻き上げられる音と共に、
「お約束の怪物の登場かよ!?」
ジカイラの軽口を合図にユニコーン小隊は、鉄格子が引き上げられた通路に向けて警戒態勢を取る。
それは通路の奥の暗がりから、鉄鎖を引き摺る音を立てながら、ゆっくりと小隊に向かって歩いて来た。
それは暗がりから姿を現す。
ジカイラが構えていた
「・・・なんだ。
ナナイは
しかし、ナナイは何かに気付いたようにハッとする。
みるみるナナイの顔から血の気が引いていく。
ナナイの
ジカイラが怪訝な顔をする。
「鬼副長、どうした?
ナナイは引きつった顔でラインハルトの方を向き、救いを求めるように答える。
「・・・駄目。・・・私、・・・できない」
「・・・ナナイ?」
ラインハルトがナナイを心配する。
震えるナナイの目に涙が浮かぶ。
「この
ナナイが悲痛な叫びを上げる。
ハリッシュが中指で眼鏡を押し上げる仕草をした後、呟く。
「確かに。色褪せては居ますが、肖像画の皇妃殿下と同じ衣装です」
ティナも悲痛な声を上げる。
「そんな・・・あれがお兄ちゃんのお母さんなんて・・・」
ナナシが傍らのエリシスに呟く。
「賊め! 皇太子を母の骸に襲わせるのか!!」
動こうとするナナシをエリシスが制する。
「心配ないわ。手出しは無用よ」
皇妃の
ラインハルトは、ナナイと皇妃の
そして、素早くサーベルを抜くと、水平に払い、皇妃の
ラインハルトは、サーベルを鞘にしまうと、無言で皇妃の
体が上半身だけになっても、皇妃の
ラインハルトがナナイに告げる。
「ナナイ。母上を天に帰してやってくれ」
ラインハルトの言葉を聞いたナナイの目から大粒の涙がこぼれ、頬を伝う。
床を這いずる皇妃の
「・・・頼む」
ナナイは覚悟を決め、祈りを始める。
巨大な法印がラインハルトと皇妃の
「
(私の主よ、あなたの愛のゆえに赦し合う者)
「
(安らぎのうちに耐える人は幸いです)
「
(その人々が、至高のあなたから栄冠を賜りますように)
「
(この世に生を受けたものは、これから逃れることはできません)
「
ナナイの祈りによって、法印から立ち上る光の中で、皇妃の
ラインハルトは、光の中に消えていく皇妃の骸をただ見詰めていた。
奇跡が起こる。
法印から立ち上る光の中に透き通る皇妃の亡霊が現れる。
皇妃の亡霊は宙に浮かび、自分を見上げるラインハルトの頬を両手で撫でると、微笑み掛ける。
ラインハルトは、僅かにしか無い母の記憶を胸に、されるがままに無言で皇妃の亡霊を見上げていた。
そして、皇妃の亡霊はラインハルトの頭を撫で、自分の胸に抱き抱えようとする。
しかし、亡霊に実体は無く、常世の物に触れることは出来ないため、ラインハルトの体をすり抜けてしまう。
やがて皇妃の亡霊はナナイの方を見る。
皇妃の亡霊は、ナナイに何かを語り掛けていたが、言葉を発することが出来ない。
ナナイは皇妃の亡霊の唇の動きから言葉を読み取った。
(この子を、お願いね)
皇妃の亡霊は確かにそう言っていた。
ナナイは皇妃の亡霊に答える。
「判りました」
ナナイの答えを聞いた皇妃の亡霊は、ナナイに微笑み掛けると、目を閉じ、満たされた表情で法印の光の中、ゆっくりと消え去り、天に帰っていった。
法印の光の中、消え去る皇妃の亡霊を見詰めていたラインハルトが口を開く。
「ナナイ。ありがとう」
ラインハルトの言葉を聞いたナナイの目から再び大粒の涙がこぼれ、頬を伝う。
ナナイは新たに決意する。
(あいつら、絶対に許さない!!)