「俺は、シオンです」
そうしている間にどんどん引きずられていく。俺は叫んだ。「待ってくれ!俺は結婚するつもりはないぞ」と大声で言ったのだが相手には聞こえていないようだ。すると、後ろから誰かが走ってくる音がした。その足音を聞いて俺は安堵した。助かったと俺は心の中で歓喜の声を上げた。だが、その希望は一瞬にして打ち砕かれてしまった。足音の方を向くと、なんと、それはさっき俺を抱きしめていた人物だったのだ。俺は呆然としていた。すると、「助けてください!」俺はそう言って助けを求めた。すると、彼は言った。「大丈夫だからね。すぐに終わるから……」その表情はとても穏やかだった。そして、その手には包丁を持っていた。俺は戦慄を覚えた。そして、そのままずるずると引きずりこまれていった。
その時、突然、声が響いた。『やめなさい!!』
「誰だ!!」俺の叫びと同時に俺の身体が浮かび上がった。
見ると、俺の胸が輝いていた。
「え?なにこれ?」
俺は混乱していたがとりあえず胸に語りかけてみた。
すると胸から声がした。それは女のような男とも取れる不思議な声だった。
そして、俺に向かって話しかけた。
『私の名はリリス』そう言われた瞬間、なぜか俺は安心した。
そして、なぜか懐かしいような感じがした。そして、その感覚に戸惑いながら俺は質問をした。「なぜ、俺にこんな力があるんだ?」
俺は尋ねたがリリスは答えなかった。しばらく沈黙した後、口を開いた。
『私はあなたの中にいるのよ』そう言った途端、突然俺の中に膨大な量の情報が流れ込んできた。それは俺にとって未知なる知識であり世界の歴史だった。「なんだよこれ!」俺は頭を押さえたがそれでも次々と流れ込んでくる情報を止めることができない。俺はその情報の洪水に飲み込まれ意識を失った……。
俺は目覚めた。どうやらベッドの上に寝ているようだ。起き上がると隣で誰かが眠っていた。よく見たらさっきの女の子のようだ。どうやら気絶したままここに運ばれたらしい。俺は彼女を起こすと、ここに来た理由を話した。「あの……あなたは何者なのでしょうか?」と俺は彼女に尋ねると彼女は少し困ったように微笑んだ。「私は……」と言いかけたが、そこで俺はハッとした。
そう言えば俺も名乗っていなかったなと思ったからだ。
そこで俺も名乗ることにした。「俺は、シオンです」
そう言うと彼女は笑った。「じゃあ、シオンって呼ぶね」そう言われて俺は驚いた。「あのさぁ、俺達、まだお互い名前しか知らないんだけど……」そう言うと、彼女は笑った。「あはっ、そうだったわね」そう言った後、
「私の名前はハルナよ」と言った。そして、俺は聞いた。「ところでハルナはいったい何者なんだ?」するとハルナは答えた。「私は、女神よ」その瞬間、俺はハルナが何を言っているのか理解できなかった。ハルナは続けた。「そう言えば、シオンって、どうしてここにいるか覚えてる?」と聞かれたので、
「いや、それがよくわからないんだ」と俺は答えた。すると、彼女は少し寂しそうな顔をして、言った。「実はね、私達はこの世界を救う為に選ばれたんだよ」
俺は困惑しながら尋ねた。
「選ばれた?俺達が?一体なんの話をしているの?」と俺が言うとハルナは悲しそうな顔で、
「だから、あなたと私がこの世界の救世主なのよ」と言った。「でも、この世界がどうなろうと、俺には関係ないことじゃないか?」
「そんなこと言わないでよ。私たちの世界なんだから」とハルナは言うと俺に抱きついてきた。
突然のことで戸惑っているとハルナは「私と一緒に世界を救って」と呟いた。
「いやいやいやいや、待ってくれよ!そもそも俺がこの世界で生きられる保証がないからね!というより、俺の世界でも生きていける自信ないし」と言うとハルナは不思議そうな顔をしながら言った。「えっ?でも、私はこの世界で生きていけたじゃない?」と当然のように言い出したので俺は思わず絶句した。どうやら、彼女は俺と一緒で異世界に転移した人間であるらしい。しかも俺と違って前世の記憶が残っているという。ちなみに彼女の記憶では俺も彼女のことを憶えていたらしいのだが俺は忘れていた。
俺はため息をつくしかなかった……。それからハルナはこの世界の成り立ちを俺に教えてくれた。彼女はこの世界が元々ひとつの世界だったことを説明した上でこう付け加えた。
「実はね、私達、二人で一人の人間なんだよ」
俺は驚きのあまり開いた口が塞がらなかった。だが、冷静になって考えてみると、確かに、彼女の言動から考えるとそういうことになるのかもしれない。俺は彼女の話を素直に信じることにした。そうすることで自分の精神状態を保つことにしたのだ。それから、彼女は俺を抱きしめると、キスをしてきた。「愛してる」と彼女は呟いた。どうやら俺達は結婚したことになっているらしい。俺の頭の中で何かが引っかかったがそれを振り払うように言った。「いやいやいやいや!おかしいだろ!なんで結婚してることになっているんだ!」俺が慌ててそう聞くと、彼女は悲しそうに「やっぱり……私とじゃ嫌なのかな?」と上目遣いに見つめてくる。「いや、そうではなくって!その……」俺が言葉に詰まっていると彼女が抱きついてきた。そして、俺の耳元で言った。「大丈夫だよ。これからよろしくね。私達の子」そう言うとまたキスをしてくる。俺は諦めた……。そして、そのまま俺達は眠りについたのであった……。