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第八十一話 迎賓館

 ラインハルトは、ルードシュタットの迎賓館へ行く旨をフクロウ便でアキックスに伝えると、ユニコーン・ゼロの進路をルードシュタットへ向けた。

 およそ二日程の行程でユニコーン・ゼロはルードシュタットの迎賓館に到着する。

 迎賓館は、州都ルードシュタット郊外のなだらかな丘陵の上に建てられており、飛行場も併設されていた。

 その広大な敷地は西洋風庭園に囲まれており、建物はゴシック風の白亜の小さな宮殿といった作りで、正面には彫刻が施された噴水広場があり、ナナイの実家である帝国最大最高位の大貴族ルードシュタット家が来賓をもてなすために作った豪華な建築であった。

 ラインハルト達は、航空母艦ユニコーン・ゼロを飛行場に停泊させ、迎賓館へ出向く。

 迎賓館の入り口でアキックスとヒマジンが小隊を出迎える。

「よく来てくれた。狼の(ヴォルフス)(シャンツェ)探索といい、麻薬工場の破壊といい、この度は大変な働きだ! まずは、休んでくれ!!」

 アキックスはそう言うと、ラインハルト達を迎賓館の応接室へと案内する。

 迎賓館はナナイの実家が所有する建物だが、ナナイ自身は幼少の頃に何度か来たことがあるくらいであった。

 ジカイラが応接室の豪華な調度品を眺めて呆れたように話す。

「・・・なぁ、ナナイ。お前の実家って、ホント金持ちなんだな。どんだけ金持っているんだ?」

 ナナイが困惑気味に答える。

「さぁ?お金なんて数えた事もないし、金持ちだと自覚したこともないから・・・」

 ハリッシュが助け船を出す。

「ルードシュタット家は、メオス王国や北西部の港湾自治都市連合より裕福ですよ」

 ジカイラが驚く。

「王国より金持っているって、すげぇな」








 しばらくして、アキックスが他の帝国四魔将を伴って応接室にやって来る。

 アキックスが口を開く。

「皆、紹介しよう。こちらが皇太子探索の任に当たっているラインハルト大佐とその仲間たち、そしてこちらが・・・」

 獣人(ビーストマン)の毛皮で作った豹柄のコートを羽織り、深紅のイブニングドレスで着飾ったエリシスが名乗る。

「ヴァレンシュテット帝国 南部方面軍総司令 帝国不死兵団 団長 エリシス・クロフォード伯爵。こちらが副官のリリー・マルレー」

 同じく、獣人(ビーストマン)の毛皮で作った牛革の黒コートを羽織り、紫のイブニングドレスを着ているリリーは、エリシスの紹介に合わせてラインハルト達に会釈する。

 エリシスとリリーもラインハルト達を見て気が付く。

「・・・貴方達、あの時の!?」

 ラインハルトが答える。

「首都の路地裏で一度、お会いしましたね」

 アキックスが紹介を続ける。

「そしてこちらが・・・」

 黒いローブに身を包んだナナシが名乗る。

「ヴァレンシュテット帝国 西部方面軍 総司令 帝国魔界兵団 団長 ナナシ伯爵」

 ラインハルトが挨拶する。

「よろしくお願いいたします」





 ラインハルト達はアキックス達、帝国四魔将に狼の(ヴォルフス)(シャンツェ)探索と麻薬工場の破壊について報告し、続いて帝国魔法科学省と帝国大聖堂の探索について、作戦案を説明した。

 ヒマジンが口を開く。

「事実上の首都攻略戦だな」

 ラインハルトが追従する。

「その通りです。皆さんには陽動をお願いいたします」

 ナナシが問い質す。

「我々は首都近郊の革命軍を圧迫すれば良いのか?」

 ハリッシュが答える。

「はい。帝国軍が首都に迫るとなれば、革命軍は戦力をそちらに向けます。その間に我々が首都の帝国魔法科学省と帝国大聖堂を探索致します」

 エリシスがテーブルの上で両手を組み、顎を乗せて笑顔で答える。

「簡単ね。お安い御用だわ。革命政府は潰れるかも知れないわね」

 ヒマジンも笑顔で答える。

「退屈しのぎには良いな。派手に脅かしてやろう」

 アキックスが思い出したように話す。

「仮に帝国魔法科学省に皇太子殿下が居なくても、あそこには、至宝『真理の鏡』があると聞く。皇太子殿下の居場所を『真理の鏡』に尋ねると、答えが得られるかも知れん。」

 ハリッシュが頷く。

「なるほど。『真理の鏡』ですか」

 アキックスが口を開く。

「あと、我々、四人は君に聞いておきたい事がある」

 ラインハルトが答える。

「私に・・・ですか?」

 ナナシが続ける。

「そうだ。汝は『皇太子殿下探索の任』の報酬に何を望む? 地位か? 名誉か? それとも富か?」

 ヒマジンが説明する。

「『皇太子殿下の探索と救出の任務』。これで君は『救国の英雄』になる。報酬は望むままだ。で、君は何を望む?」

 ラインハルトはキッパリと答える。

「私が望む事は、ただ一つです」

 ナナシが尋ねる。

「その一つとは?」

 ラインハルトが答える。

「ナナイ・ルードシュタット。彼女と一緒になることを認めて下さい」

 ラインハルトの答えに四魔将全員が驚く。

 ナナシが問い質す。

「汝は、如何なる地位や名誉、富よりも、その娘一人を選ぶと言うのか!? 爵位を得て貴族になれば、女など何十人でも囲えるのだぞ!?」

 ラインハルトが答える。

「おっしゃる通りです。ですが、私が望むのは彼女と一緒になる事。ただそれだけです。帝国の重鎮である貴方達に認めて頂けるなら、皇太子も彼女との婚約を諦めるでしょう」

 エリシスはラインハルトの答えに感動したようで、うっとりと話す。

「他の何よりも愛する女、ただ一人を選ぶ。美しい愛ね。私は認めるわ。・・・それに『あの人』の種なら、器の女は誰でも良いのよ。別に聖騎士(クルセイダー)ルードシュタット家の娘でなくてもね。帝室の血さえ絶えなければ」

 エリシスはラインハルトを見詰めて続ける。

「『あの人』の種なら、器となる、母親となる女が誰であっても必ず覚醒するわ。最強の上級騎士(パラディン)。『騎士王』としての血が。私は七百年、それを見守ってきたわ」

 エリシスはラインハルトに大帝の面影を重ねていた。

(その金髪。そのアイスブルーの瞳。あの人の面影にそっくり。でも、選択することは正反対ね)

 アキックスが口を開く。

「私は異論は無い。認めよう。彼女もそれを望んでいるようだ」

 ヒマジンも追従する。

「俺も異論は無い。認める」

 ナナシも追従する。

「私も認めよう」

 ラインハルトが礼を述べる。

「ありがとうございます」

 ラインハルトの傍らで話しを聞いていたナナイも感動したようで、うっすらと目に涙を浮かべてラインハルトを見詰めていた。

 アキックス伯爵が総括する。

「会議は以上だ。晩餐会を用意したので、皆、楽しんでくれ」

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