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第七十四話 動力室

--要塞軍要塞『狼の(ヴォルフス)(シャンツェ)』 地下工場


 小隊は薄暗い地下工場の通路を進んでいた。

 通路を歩きながら、ジカイラがラインハルトに話し掛ける。

「秘密警察の戦闘員がいるってことは、此処は奴等が管理しているんだな」

 ラインハルトが答える。

「秘密警察直営の麻薬工場といったところか」

 ナナイが疑問を口にする。

「麻薬工場ということは、此処に皇太子が監禁されている可能性は低いんじゃない?」

 ラインハルトが答える。

「そうだな。工場は材料や作業者が常に出入りするから監禁場所には向いていない。皇太子が監禁されているのは、此処では無さそうだ」

「そうすると、残りは帝国大聖堂、帝国魔法科学省、帝国軍要塞『死の山(ディアストロフ)』ね。」

「そういう事になる。もう少し探索したら、切り上げよう」







 小隊は、通路の分かれ道に差し掛かった。

「右か、左か。どっちに行くの?」

 ナナイがラインハルトに尋ねる。

「右へ。あのパイプの大元を目指そう。」

 天井の角に、それぞれ機械設備に繋がり、動力を伝えていると思われるパイプがあり、それを辿って大元へ歩みを進める。






 やがて天井のパイプが集まる部屋の前に来た。

 ラインハルトが呟く。

「此処がパイプの大元の部屋だな」

 部屋の扉の前に小隊全員が集まって、身構える。

「中に何人か敵が居るだろう。ハリッシュの魔法で一撃加えてから、突入しよう」

 ラインハルトの指示にハリッシュが答える。

「判りました」

 そう言うとハリッシュは魔法の詠唱を始める。

 いつでも撃てるようになったハリッシュが目配せする。

「今だ!!」

 ラインハルトの指示でケニーが扉を開ける。

 ハリッシュが扉の中に向けて手をかざすと、掌の先の空中に三つの魔法陣が浮かび上がる。

火炎(フレイム・バースト)爆裂!!」

 轟音と共に扉の先の室内で、大きな火球が炸裂した。

 部屋の外の小隊にも熱風が押し寄せる。

「グァアアアアー!!」

 叫び声を上げながら、火達磨になった戦闘員が二人、室内から飛び出して来た。

 ラインハルトとナナイが火達磨になった二人の戦闘員を斬り倒す。

「行くぞ!」

 ラインハルト、ナナイ、ジカイラが先頭に立ち、室内に突入する。







 室内に戦闘員の姿はなく、あちこちで炎が燻り、焦げ臭い煙を上げていた。

「ここは? ・・・動力室か?」

 ラインハルトが周囲を見回すと、通路の細いパイプが集まって太いパイプに繋がり、その太いパイプが繋がる大きな釜のような設備が複数あり、それぞれが不気味な音を立てて稼働していた。

 ケニーが室内の設備を確認していく。

「水タンク、ボイラー、動力炉・・・」

 ハリッシュが話し掛ける。

「これは、魔導石が熱源のボイラーですか。こちらは水晶(クリスタル)の魔力をパイプを通して、魔導機関に動力をと。此処から地下通路の設備に動力を供給しているようですね。」

 ジカイラが楽しそうに話す。

「良い事考えたぞ! この麻薬工場をブッ壊してやろうぜ!! 秘密警察の奴等にウチの副長の寝込みを襲った落とし前は付けないとな!!」

 ジカイラの提案にラインハルトも同意する。

「面白そうだな」

「だろ? 奴等がしばらく身動き取れないように派手にいこう。ウチの鬼副長が安心してお前のチン●咥え込んで子種を仕込めるようにな!!」

 ナナイが頬を赤らめて苦笑いしながら文句を言う。

「・・・一言多いのよ!」

 ハッとしたジカイラがナナイに謝罪する。

「・・・すまん」

 ジカイラがケニーを捕まえて話す。

「ケニー。ボイラーの圧力を全開にしちまえ!」

 ジカイラの言葉にケニーが驚く。

「そんなことしたら、爆発するよ!?」

「それで良いんだよ! やっちまえ!! ついでに水晶(クリスタル)のほうも魔力全開に!!」

「良いの!?」

 ラインハルトの判断を伺うケニーにラインハルトが指示する。

「大丈夫だ! 設定を変えたら、脱出しよう!」

「了解!!」

 ケニーが動力炉の魔力出力レバーとボイラーの圧力バルブを全開にする。

「これで良し、と!」

「皆、脱出するぞ! 別の出口を探そう!!」 

「「了解!!」」

 ラインハルトの指示により小隊は小走りで動力室を後にした。





 クリシュナが叫ぶ。 

「ちょっと待って!」

 クリシュナの声に小隊が立ち止まる。ハリッシュがクリシュナを心配して声を掛ける。

「どうしました? クリシュナ?」

「先導を用意するわ!」

 そう言うとクリシュナは地面に一枚の呪符を置き、片膝を付いて両手を地面に当て、魔法の詠唱を始めた。

Я(ヤー・)  приказываю(プリカーズ・)  своему(ヴーズ・) слуге(ズィウス・)  по(ヴィー・)  контракту (コントラクト・)  с землей.(ズウィームリー)
(我、大地との契約に基づき、下僕に命じる!)

Появл(プウィヴィ)яются!(レーツァ!) Земляной(ゼミヤノイ・) солдат!!(ソルダート!!)
(出でよ! 土の兵!!)

 クリシュナの足元と呪符が置かれた地面に大きな魔法陣が現れ、クリシュナの頭上にも一定間隔で三つつの魔法陣が現れる。

 クリシュナは立ち上がって両手を天井に向けて上げ、天を仰いだ。

Суббота(ソヴォータ),  Приди(プリズィー・)  из(イズ・)  мира(ミラ・)  призраков(プリズル・カ・)  и(フィ・) прими (プルミ・)  форму.(フォロモ) По (ポ・)  моей (マイ・ヴィー・)  воле.(ヴォーリャ)
(土よ。幽世より来たりて、形を成せ。我が意のままに)

 空中に浮き上がった呪符に地面から浮き出た土が集まり、大きな人形を形作っていく。
 
 やがて集まった土は、アースゴーレムとなった。

 出来上がったアースゴーレムは、天井に届くギリギリの大きさであったが、魔法陣の中で片膝を付き、主であるクリシュナを注視していた。

 魔法陣の中でクリシュナは、通路の先を指差した。
 
 アースゴーレムは、クリシュナが指差す方向、通路の先を向く。

 クリシュナは命令を下した。

Prodvigat!(プロヴィディガイト!) Земляные(ゼミヤノイ・) солдаты! !(ソルダート!!)
(突き進め! 土の兵よ!!)

 クリシュナが魔法の詠唱を終えると、魔法陣は光の粉となって空中に消えた。

 アースゴーレムは、「承知した」と言わんばかりに両目を一度、大きく赤く輝かせると、通路を先へと、小走りで走り出した。

「あの子が『露払いと先導』をやるわ!! 行きましょう!!」

 クリシュナの声に小隊はアースゴーレムの後を追い掛けて進んだ。

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