第六十三話 魔法騎士と飛行空母
州都キズナでの観光を終えたユニコーン小隊は宿舎にしているアキックスのマナー・ハウスへ帰ってきた。
戻ってきた所を見計らったようにパーシヴァルがナナイに歩み寄り、話し掛ける。
「お嬢様。私めはルードシュタットへ戻ります。
「判ったわ。今後は私達が直接『皇太子探索の任』に当たるので、そのつもりで」
「では、失礼します。」
そう言うとパーシヴァルは、城塞近くの飛行場から愛機に乗り、一同に見送られながらルードシュタットへ戻って行った。
ラインハルトは、アキックスにカマッチ達の身の振り方を相談する。
アキックスは北部方面軍で彼等を預かる事を快諾してくれた。
ちょうど『皇太子探索の任』に当たるユニコーン小隊と、ここ、キズナ間の補給輸送業務を担当させるとのことであった。
ーー夜。
夕食後、ラインハルト、ナナイ、ジカイラ、ハリッシュがホールに残り、話し合う。
ラインハルトが口を開く。
「帝国軍の支配領域と革命軍の支配領域で、こんなに違うものなのか?」
「違いとは?」
ハリッシュが質問する。
「軍人も、街の雰囲気も、何から何まで対照的だ」
「確かに」
ラインハルトの答えにハリッシュが納得する。
「革命軍は自堕落な者、享楽的な者が多かったが、帝国軍は『熱い奴』が多いよな」
「そうね。帝国軍は、皆、使命感を持って直向きな人が多いわ」
ジカイラの言葉にナナイが同意する。
「秘密警察が監視していて、チンピラが彷徨く首都より、ここのキズナのほうが治安が良く活気がある。何より、街の人々の表情が違う」
「まさに『階層の秩序』と『平等の混沌』ってやつだな」
ラインハルトの感想にジカイラが注釈をつける。
「そうですね。何より『上に立つ者』が違いますから」
「確かに。指導層の違いの影響は大きい。革命政府のように汚職や横領が蔓延すると、社会全体が腐敗するだろう。帝国軍の支配領域には、そういった影は見られないからな」
ハリッシュの言葉にラインハルトはこう答え、考えを巡らせていた。
(革命政府の存在は間違っている。人はあんな風に生きるべきではない)
--三日後。
ユニコーン小隊のメンバーが朝食を済ませた頃、アキックスの使いが来た。
「城塞で伯爵がお待ちです」
小隊のメンバーが城塞へ行くと、入り口でアキックスが待っていた。
「おはよう! 諸君らに紹介したい友人がやっと到着したのだよ!」
アキックスは楽しそうにラインハルト達に話し、皆をを城塞の応接室に案内した。
ラインハルト達が応接室の入り口から中に入ると、ソファーに一人の
「ああっ! あの時の!?」
アキックスはラインハルト達を見て驚いている
「紹介しよう。こちらは私の友人で、帝国東部方面軍、帝国機甲兵団 司令ヒマジン・トゥエルブ伯爵」
「ヒマジンにも紹介しよう。私の『心の友』であるルードシュタット侯爵の御令嬢、ナナイ・ルードシュタットだ」
「貴方は、ハーヴェルベルクの路地裏で・・・」
ナナイもヒマジンと同様に、以前、ハーヴェルベルクの路地裏で斬り結んだ相手だと気が付き、驚く。
「驚いた。まさか、あの時ハーヴェルベルクの路地裏でやりあった相手が、彼のルードシュタット侯爵の御令嬢だったとはな。ルードシュタット侯爵家は、代々、
ナナイを紹介されたヒマジンは、非常に気不味そうに後頭部を掻いていた。
続けてアキックスがラインハルト達を紹介していく。
「まぁ、アキックスから『皇太子探索の任』に当たる者が決まったので紹介すると聞いていたが、君たちの事だったのか」
「そのとおりだ。彼等には帝国北部方面軍 独立戦隊として任務に当たってもらうつもりだ」
ヒマジンの言葉にアキックスが答える。
アキックスはナナイの父より一回り若かったが、ヒマジンはアキックスより若く、ラインハルト達より一回りほど年上なくらいの好感が持てる兄貴肌の人物であった。
「
ヒマジンは独り言のようにラインハルト達を評価する。
「リーダーは君だったな。ラインハルト大佐。君たちに渡したい物がある。外に来てくれ」
ヒマジンはそう言うと、屋外の飛行場にアキックスやラインハルト達を連れ出した。
「コイツさ」
ヒマジンが右手で指し示す先には、滑走路に停泊する『飛行空母』があった。
「「あれは!?」」
「「スゲぇ!!」」
ラインハルト達が驚くのを見て、ヒマジンが嬉しそうに説明を始める。
「新型飛行空母だ。飛空艇も四機搭載している。皇太子探索の任に当たる君たちへ、オレからの餞別だ! アスカニア大陸が広くても、コイツならひとっ飛びで行けるだろ? もちろん、クルーも腕利きを用意しておいた」