仮面の冒険者と担当受付
「異様な雰囲気って、どうやったら無くなるのかな?」
己が担当している冒険者の問い掛けに、カレンは黙った。
仮面を付けたS級冒険者がいた。彼は約二年前から活動を始め、着々と等級を上げていった紛う事なき真の実力者だった。
冒険者ギルドは、素性を隠したがる訳あり者も広く受け入れているため、冒険者には顔を隠したり、性別などの姿を偽る者も多くいた。
仮面の冒険者も、そういった人物かと思われた。顔を覆う呪われているかの様な不気味な仮面に、黒髪がチョロッとしか見えないほど初心者冒険者が愛用するローブのフードを目深に被るほど顔を隠していたのだ。
そして何より彼が纏う雰囲気は、異様でしかなかった。まあ、その雰囲気を作っている大半の理由は、今にも呪われそうな仮面のせいではあるが。
訳ありだと判断した受付のカレンは、そう言った場合の対応マニュアルを思い出しながら彼の登録を細心の注意を払って行なった。
記載内容は口にせず、顔にも出さず、必要最低限の言葉でもって対応する。
本名か分からないが名前は『ラウ』。性別は一応『男』。担当職は腰元の剣が目に付くが『魔術師』。本当か分からないが年齢は『十二歳』。
・・・・・・記載事項に問題は無い。
個人情報となり得る名前は不用意に口にしない様に努めながら、カレンはマニュアルに則り、完璧に仮面の冒険者の対応を終わらせた。
仮面の彼は、嬉しそうに(顔が見えないのでカレンの予測だが)登録カードを受け取り、早速依頼を選びに掲示板へと向かって行った。
その後、少し離れた受付で彼が依頼受注の手続きをしていたのだが、受付担当者の小さな悲鳴が聞こえてきたのだった。
登録時の対応で信頼を得たのか、はたまた他の受付達が悲鳴を上げるからか、彼はカレンの窓口へと度々訪れるようになった。
そして、いつしかカレンは彼の担当受付となっていた。
滅多にあることではないが、冒険者ギルドとしても、良い冒険者には長く所属してもらい、できれば自分の管轄内で活躍して欲しいと思っている。
そのため、冒険者に様々な便宜や優遇を図っているのだが、その一つが担当受付を付けることだった。担当受付が付くと、依頼の管理や斡旋をしてくれたり、冒険者に関わる色々な情報を提供するなど、マネジメントをしてくれるようになるのだ。
そしてカレンのマネジメントを受ける様になった彼は、担当が付く前よりも格段に依頼を熟していき、ギルドに多大な貢献と優秀過ぎる能力を見せつけ、依頼達成率十割と言う驚異的な成果でもってランクを着々と上げていった。
そんな彼を担当していたカレンも鼻高々と、己の能力と実績を積み上げ、あっという間に主任受付へと昇進した。
仮面の彼との付き合いも長くなり、時には雑談を挟む事もある。
それは、ちょっとした愚痴だったり、不味い携帯食に当たってしまったりだとかの雑談に相応しく殆どは取り留めのない事だ。
こうしてコミュニケーションを深めていく事で、装備品の見た目に反して彼が意外と気さくで理性的な人だとカレンは知っていった。
だが、そんなカレンでも、彼から齎された質問「異様な雰囲気って、どうやったら無くなるのかな?」には黙って考える時間が必要だった。
ここは「呪われそうな仮面を付けた見るからに怪しい風体を止めればいい」と正直に言った方がいいのだろうか。それとも「気にする必要はない」と気を逸らせばいいのか。
彼の「異様な雰囲気」は彼が付けている仮面が大半を担っていた。
実際どう言ったものかは知らないが、身に付ければ呪われそうな代物であり、近付くだけでも呪ってきそうな見た目をしているのだ。普通に恐いし、嫌悪の対象であるし、顔を顰める物だった。
カレンは「異様」と濁しているが、そう言うことだ。
服装は魔術師の冒険者が身に纏う一般的なローブに皮鎧と普通のシャツにズボンにブーツ。武器である剣も素朴な見た目で、仮面以外の装備品はいたって実用的で普通だ。黒髪だって珍しくない。
仮面だけが、異様に尖っているのだ。
恐らく訳ありで顔を隠している身だ。迂闊に仮面のことなど言えないし、外せなんて口が裂けても言えない。
あまりにもセンシティブな内容に、カレンはひたすら黙って考えた。
そして、結論を出した。
聞こえなかったことにしよう!
「・・・・・・次回の依頼ですが」