第五十六話 飛行船ユニコーン・ゼロ
--少し時間を戻した首都ハーヴェルベルク 革命政府
昼前。
遅くに出勤してきた革命政府首席ヴォギノが玉座に座ろうとした時、革命党軍事委員のコンパクが駆け込んでくる。
「ヴォギノ首席!大変です!」
「何事だ?」
「メオスへ侵攻した烈兵団が全滅しました!!」
「なんだと!?」
「敵は、エルフとドワーフの援軍を取り付けて十万の軍勢で我が軍を包囲。烈兵団は三方から包囲攻撃を受けて全滅したとの事です。彼の小隊も一緒です」
「なんという事だ」
「敵は、国境へ向けて軍勢を集結させているようです」
「ぐぬぬぬぬ」
ヴォギノの不機嫌を見てとったコンパクが怖じ気付く。
「い、如何致しましょうか?」
「知らん」
「は?」
「知らんと言ったのだ。我が政府に余力は無い。お前が考えろ」
「わ、判りました。急遽、百姓どもを狩り集めて国境へ派遣致します」
「うむ」
コンパクは足早に部屋から出ていく。
「全く、どうしてこうなった・・・」
ヴォギノの機嫌はすこぶる悪くなっていた。
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--メオス王国 飛行船基地の街マライト 第506輸送商会
「少佐殿! 出発準備、完了しました! いつでも飛べます!!」
ラインハルトはカマッチの報告に答える。
「判った。」
小隊メンバーとカマッチ、セイゴの二人は、飛行船に乗り込む。
飛行船のフライトキャビンで、ラインハルトは小隊のメンバーに役割分担を指示する。
「ナナイは、船の頂上で観測と見張りを。ジカイラは操舵を頼む」
「判ったわ」
「了解! オレに任せろ!!」
ナナイはハシゴを登って飛行船の頂上へ向かい、ジカイラはフライトキャビンで舵を取った。
「ハリッシュは航法を、クリシュナは測量を頼む」
「判りました」
「判ったわ」
ハリッシュ、クリシュナは、それぞれ航法士、測量士の席へ着く。
「ティナは伝声を、ケニーとヒナは、砲座を頼む」
「「了解!!」」
ティナは伝声席へ、ケニーとヒナは砲座へと向かった。
「カマッチ少尉は機関長席に、セイゴ軍曹は機関室を頼む」
「了解しました!!」
二人は持ち場へ向かう。
役割分担を決めたラインハルトは艦長席に座る。
機関長席に座ったカマッチがラインハルトに尋ねる。
「この艦の
カマッチの質問にラインハルトは当然だという風に答える。
「
「了解です!」
ラインハルトは号令を出す。
「機関始動!」
カマッチが復唱し、
「機関始動! 魔導エンジン起動! フライホイール接続!!」
飛行船の後方下部にある二軸四連プロペラと、左右両側の船舷にあるプロペラが回転し始めた。
ゆっくりと回転し始めたそれは次第に早く回り出し、風切り音を立て始める。
「出力上昇」
「出力上昇、100パーセント!!」
「魔導エンジン回転数、良好!!」
カマッチからの報告を受けて、ラインハルトが指示を出す。
「船体起こせ! もやい放て!!」
ラインハルトからの指示をティナがケニーに伝声管で伝える。
ケニーが船体を地上に固定している『もやい』を外す。
「『ユニコーン・ゼロ』、発進!!」
ラインハルトからの指示を受け、ジカイラが舵を動かす。
飛行船の船体が水平になり、浮遊し始めた。
ラインハルトが指示を続ける。
「上げ角三十! 取舵、転舵三点!! 山脈沿いの気流に上手く乗せろよ?」
「任せろ!」
ジカイラが水平蛇と方向蛇を操作する。
飛行船の船体は急速に上昇し、山脈に向けて回頭し始める。
観測中のナナイから伝声管で報告が届く。
「地上管制塔から手旗信号、『離陸中の飛行船へ。現在は飛行禁止令下である。所属を明らかにせよ』」
ラインハルトは「フッ」と鼻で笑うと、カマッチに振る。
「カマッチ少尉。地上管制塔への返答は任せる」
カマッチは嬉しそうに答える。
「了解しました!」
カマッチがナナイに伝声管で伝える。
「これより返答内容を伝える。『こちらはバレンシュテット帝国軍第506飛行輸送隊 ユニコーン・ゼロ』」
ナナイがその旨を地上管制塔へ手旗信号で伝えたようで、すぐに返事が来る。
「地上管制塔から手旗信号、『ユニコーン・ゼロへ。直ちに停船し着陸せよ。直ちに停船し着陸せよ。』」
ナナイから地上管制塔の返事を聞いたカマッチが大笑いした後、ナナイに伝声管で伝える。
「はーっはっはっは!! お嬢様方には下品で申し訳ないが、返答内容を伝える。『クソ喰らえ!』。繰り返す、『クソ喰らえ!』」
フライトキャビンに居るメンバーも皆、笑い出す。
ジカイラがカマッチに話し掛ける。
「おっさん! オレと気が合いそうだな!」
「そうかい? ありがとよ!!」
カマッチも笑顔でジカイラに答える。
船頂から観測しているナナイから再び伝声管に報告が入る。
「メオス軍の飛行船、二隻が離陸中。こちらを追ってくる!!」
報告を聞いたラインハルトが艦長席で組んだ両手の上に顎を乗せて呟く。
「・・・面白くなってきたな」