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第四十五話 王都攻囲

 ナナイが奴隷商人の馬車から助け出した女性二人から詳しい事情を聞く。

 二人は、ソルダの街の住民であること。メオス軍から『避難命令』が出されていたが、逃げ遅れて烈兵団に捕まったこと。レイプされたこと。奴隷商人に売られたこと。等をナナイに話した。

 ナナイは女性二人に着替えの服を与えて、解放した。

 ジカイラが奴隷商人の馬車を家捜しする。

「何か、『お宝』でも、あるかな・・・」

 ジカイラは鍵のついた箱を見つけた。かなりの重量がある。

「おい! ケニー!! ちょっと来てくれ!」

 ジカイラは馬車から顔を出すと、ケニーを呼んだ。

「どうしたの? ジカさん?」

 ケニーが馬車に乗り込んでくる。ジカイラは鍵のついた箱を指差して、ケニーに解錠を頼む。

「コイツの鍵を開けてくれ」

「あい」

 ケニーは箱の鍵を開けた。

 箱の中には、ぎっしり金貨が詰まっていた。

 ジカイラが感嘆する。

「すげぇな。金貨二百枚どころか、二千枚以上あるぞ!? 奴隷商人ってのは、随分、儲かるんだな」

 ケニーがジカイラに尋ねる。

「ジカさん、これ、どうするの?」

「全部、頂く。ケニー、馬車から降ろすから手伝え!」

「ええっ!? もう、しょうがないな・・・」

 二人は金貨の詰まった箱を降ろした。

 結局、二人は、あまりの重量に金貨の詰まった箱を持ち運びできず、鉄格子のついた荷馬車に乗せて、夜営まで運んだ。

 ラインハルト、ナナイ、ジカイラ、ケニーの四人は夜営に戻った。








 ティナが金貨の詰まった箱を見て驚く。

「ちょっと! ジカさん! どうしたの? これ!?」

「戦利品だ!戦利品!!」

 ジカイラは自慢気に答える。

 ハリッシュも驚く。

「凄い大金ですね。『物取り』の仕業に偽装するには、ちょうど良いかと」

 ラインハルトも苦笑いする。

「まぁ、頂いておこう」

 ジカイラも追従する。

「金は、あっても、邪魔にならないからな!」

 ジカイラには思うところがあった。

(これだけ金があれば、皇太子を見つけた後、皆で海賊やっても、新大陸に行っても、当面、やっていける)









ーーーー

 翌日。

 小隊は、ソルダの街で補給と休息、入浴を行い、王都へ向かった。

 小隊が王都に到着したのは、夕刻。烈兵団より一日遅れであった。

 王都の周囲では、烈兵団が攻囲陣地を構築し、王都攻略の準備を進めていた。

 ラインハルトは、烈兵団司令部にナナイを伴って出頭した。

 司令部では、イタ大尉が二人を出迎えた。

 ラインハルトがイタ大尉に挨拶する。

「ユニコーン小隊のラインハルト少佐だ」

「烈兵団のイタ大尉です」

 イタ大尉が続ける。

「随分と遅い到着で。既に我々だけで王都攻略に取り掛かっているところ。少佐達の出番は無いですな。それに・・・」

 イタ大尉はそこまで言うと、ラインハルトの隣にいるナナイを一瞥して、続けた。

「ハーヴェルベルクでは、()()に軍服を着せるのが流行りですかな?」

 イタ大尉の露骨な嫌味にナナイは、イタ大尉を睨み付ける。

 ラインハルトがイタ大尉にナナイを紹介する。

「彼女は私の副官のナナイ大尉。何なら、聖騎士(クルセイダー)の彼女とサシで勝負してみるかね?」

 ラインハルトから紹介されたナナイは、左手でレイピアの柄を握って、イタ大尉に見せつける。

 イタ大尉の顔色がサーッと変わる。

「これは失礼した。勝負は遠慮しておこう」

 イタ大尉が地図を指差し、二人に向かって言う。

「当面、少佐達の出番は無い。陣屋を用意したので、そこを使ってくれ」

 ラインハルトが答える。

「了解した」

 二人は、幌馬車へ戻ると、教えられた陣屋へ幌馬車で向かった。

 小隊は幌馬車から陣屋へ荷物を移す作業に入った。

 ジカイラが軽口を叩く。

「折角、此処まで来たのに出番無しかよ」

 ハリッシュが答える。

「まぁ、良いではないですか。我々が困る訳ではないでしょう。烈兵団のお手並み拝見と言ったところで」

 ジカイラが悪びれた素振りもみせず、答える。

「まぁな」

 ジカイラが荷物を運んでいるケニーを呼び止める。

「ケニー。『例の箱』は幌馬車の中に隠しておけよ」

「あい」

 






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 夜の帳が下りた夜半。

 荷物の搬入を終えた小隊は、陣屋で夕食を取った。

 ラインハルトはケニーに指示を出した。

「ケニー。王都の周囲と烈兵団の陣地の様子を探ってきてくれ」

「了解」

 ラインハルトはケニーに偵察を指示すると、ハリッシュ、ナナイと王都攻略の検討を始めた。

「ナナイ、ハリッシュ。今度の王都攻略をどう見る? 二人の意見を聞かせてくれ」

 ハリッシュが答える。

「王都エスタブリッシュメントは、周囲を深い湖に囲まれており、中洲の島に築かれた都には、浮き桟橋を使って渡るしかありません。重厚な石の城壁といい、極めて堅牢な都です。航空戦力を持たない烈兵団は苦戦するでしょうね」

 ナナイも同意見だった。

「深い湖と浮き桟橋じゃ、ゴーレムは使えないわ。あの重厚な石の城壁では、攻撃魔法も効きそうに無いわね」

 ラインハルトが二人に話す。

「飛空艇で空から攻めるか、『隕石落とし(メテオストライク)』の魔法でもあれば』

 ナナイが苦笑いしながら答えた。

「『隕石落とし(メテオストライク)』は禁呪よ?」 

 ハリッシュもダメ出しする。

「極めて強力な、その魔法を記した書は、帝国魔法科学省に封印されています」

 ラインハルトがまとめる。

「今の時点では打つ手なしか」

 その日の打ち合わせは、ここで終わった。








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 深夜。

 ラインハルトの部屋にナナイが来た。

 二人きりになると、ナナイはラインハルトに甘える。

 ナナイはベッドの上でラインハルトに抱きついて、二人で寝転がる。

 抱きついたナナイがラインハルトを労う。

「今日はお疲れさま」

 ラインハルトは手でナナイの髪を漉き、頭を撫でる。

「君こそ。不快な思いをさせたね」

 ナナイはラインハルトの唇を右手の人差指でなぞる。

「良いのよ。()()()()()()()でも。傍に居られるなら」

 二人だけの甘いひととき。






 部屋の外に誰かが走って来た。

 ハリッシュであった。

「こんな深夜にすみません! ラインハルト!! 起きていますか? 緊急事態です!!」

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