四月四日
私はトラック転生専門のドライバー。
今まで何百何千人とトラ転をして来た。これでも一応神の使いだ。
神の使いなのに人を轢き殺すなんておかしな話だが天界も厄介なことになっている。
どうやら異世界の神同士で交渉がされているらしく、この天界に要求されたものは交渉先の異世界へ人間を転生させるという話らしい。
ピコン! とスマホに通知が入った。
毎日のようにスマホにトラ転の依頼通知が来る。
どれどれ、今日のターゲットは……。
今回のターゲットの名前は天青てんせい楽斗らくと。
彼の職業は会社員。
年は三十八歳。彼女は一度も出来た事が無く独身。
極普通の人生を送っている男らしい。
今までもこれからも独身会社員男ばっかトラ転していくんだろうな……。
私はシュッと音を立ててトラ転ドライバーの制服の袖に腕を通す。
そして如何にも普通のトラック運転手、という雰囲気の帽子を深く被る。
これで装備は完璧。
ふぅ、今回もトラ転ドライバー、頑張りますか!
次はターゲットをトラ転するためのトラックを用意しなければ……。
トラ転用のトラックが山程詰め込まれている車庫は人気もなければ薄暗い。壁や地面、天井までもが天界とは思えないほど灰色のコンクリートで固められている。
私はその中にある一台のトラックに乗り込む。
「トラ転用一台使います〜!」
窓からトラ転長の姿がボンヤリと見えたのでトラ転専用トラックを使用することを一応伝えて車の窓を閉めた。
これもまたいつも通りの事だが正直こちらからの声が聞こえているのかも分からない。返事されなきゃ全く分かんない。
そもそも私トラ転長と会話出来たことって……無いよね。
ちなみにトラ転長ってのはトラ転ドライバーのリーダー。
人見知りらしい。
ま、気にしないで作業、進めようか。
次にする事は天界から人間界に降りてトラ転を実行するだけ。
流石に天使だと言ってもトラックごと空を飛ぶことは明らかに不可能だ。
そのため、天界から人間界への通り道を作って、天界と人間界の行き来をしているのだ。
トラックを走らせていると魔法陣の様な物があるところにトラックを止めた。
ここが天界と人間界の通り道だ。
見ての通り魔法陣が書いてある。
この魔方陣はトラ転する時にも使う。
きっと神が別の世界から取り入れてきたものだろう。
交渉と言ってもこちらからしたら多くの人間を転生させる苦労だけでは得も何も無いってのは困るからね。
なら何の得をしたか。
それは多分魔法を異世界から取り入れられた、ということが一番だろう。
魔法が無いと今の天界での生活は安定していない。
シュンと辺りが消えたと思ったら人間界のどこかの車庫に視界が切り変わった。
原理は私もよく分かっていないが魔法で天界から人間界に転移したという事だ。
よし、ここからは人間界だ。張り切っていかないと。
私はトラックを走らせて行く。
しばらくすると道路に出た。辺りにも車が沢山走っている。
いつも転移先が違うのはターゲットが出現する場所が違うからだ。
つまりターゲットはここら辺に現れるということ。
今回のターゲットは天青楽斗。
会社員の彼はそろそろ退勤時間だろう。
私はターゲットがどこに居るかをスマホで確認する。
このスマホというのも人間界のものより断然便利で魔法と科学の連携が出来ているため、ターゲットを指定してどこに居るのか画面に表示することが出来る。
本当に便利だ。
私は信号が青になったのを確認して車を徐々に走らせる。
トラ転が職業と言っても何の依頼もされていない人を轢き殺すわけにはいかないからね。
きちんと慎重にターゲットを狙って打たないと。
一応いつもターゲットの顔は確認してから仕事に及ぶけど、時々似た顔に人が居て間違えそうになる事があるから日々、気を緩めずに対応している。
お! あそこで信号を歩いているのは天青楽斗じゃないかな?
追跡しよう。
私はトラックのスピードをかなり落として彼の跡をつける。
彼は多分自宅のある、路地の方へ入っていった。きっと路地裏まで行くだろう。
何でかトラ転される人は大体路地裏へ向かうんだよね……。これも定番というやつか。
ほら、やっぱり路地裏まで歩いて行った。
そろそろトラ転どきかな?
私はそう見計らい、トラックの速さを徐々に上げる。これでもまだ自転車には負けているくらいだが。
よし、次の信号でやろう!
私はそう心に決めて、さらにスピードを上げて天青楽斗が通っている信号に突進した。
結果は見事に彼を引くことが出来た。
やった!
でもそんなに安堵している時間は無い。
私が彼を引いたのを確認した天界から魔法が掛けられるはずだ。
私は人間に見つからないようにすぐにトラックごと転移して天界へ行った。
きっともう彼は異世界の神が見つけ、転生する事が出来ただろう。
いつかは最強とかハーレムとかになるのだろう。
一つの異世界もこれで安心出来るかな?
これで今日の仕事も終わりだ。
明日転生するのは誰なのだろうか。
また、転生させるのは私なのか、それとも別のトラ転ドライバーなのか。
未来は誰にもわからない。