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24 アレンさんの深い造詣

「私から少々よろしいでしょうか」

アレンさんが私の後ろに立ったまま話し始めました。

「うん、いいよ」

「はい、私共が王配殿下にお願いしている関係修復には二つメリットがございます。そして上手くいけばオマケが三つ付いて参ります」

「なかなか興味深いね」

「まず、王配殿下にお願いしている関係修復行動とは、同衾のことではありません」

「そうなの?」

「はい、陛下と殿下がご公務でご一緒される機会を増やすということです。できるだけ国民や王宮官吏に『私たちは本当は仲がいいんだぞアピール』をしていただきたい」

「なぜ?」

「王家の安寧を印象付けることで、国の存続を確信させるのです。今の状況では女王陛下がご懐妊されても、その出自に疑心を抱く者が出ます。その疑心はやがて・・・」

「なるほどね。火種となって王家を揺るがしかねないということだ。確かに一理あるね」

「そして二つ目、お二人の仲が認識されると、ご愛妾であるリアトリス様からの愛情が、より深いものになるのです」

「ん?逆じゃない?リアはクールだから私とエルザが仲よくしていても関係ないって態度だと思うけど?」

「いえいえ、殿下。私こう見えて、なかなかその道には造詣が深いのでございます」

「ほう?御高説を賜りたいものだ」

「では、僭越ながら・・・女性心理とはなかなか不可解なものでして、追うと逃げたくなり、引かれると切なくなるのです。引いては攻める、引いては攻めるを繰り返しつつ、最後には追わせる。これが極意かと存じます」

「へぇぇ・・・追うと逃げるか・・・なるほどね。心当たりがあるな」

「たとえば殿下が陛下の寝室に向おうとされたとき、あのクールなリアトリス様が悋気を出されて『殿下・・・行かないで・・・私を抱いて下さいまし』と言われたとしたらどうでしょう?」

アレンさん・・・説得力抜群ですが、その形態模写・・・ちょっと引きます。

「最高じゃないか!考えただけでも興奮してきた!」

「殿下は、縋るリアトリス様を抱き寄せて『我慢しておくれ、君の為でもあるんだよ』と耳元で囁く。涙を溜めて頷くリアトリス様・・・『愛してますわ』『私もだ』って感じでしょうか」

だから!その形態模写ヤメロ!

「凄いな・・・君のことは師匠と呼ぼう。うん・・・凄いよ、あのクールビューティーを泣かせて縋らせるなんて男冥利に尽きるな」

王配が夢見心地のお顔で頬を赤らめておられます。
この状況から察するに、いつもは泣いて縋る側なのでしょうね・・・しかもかなりちょろいヤツ扱い?

「それで?三つのオマケは何かな?」

「はい、一つ目は政治の天才であらせられる王配殿下の血をこの国の王家に残せます。必ずや優秀な為政者となられることでしょう。まあ、これは女王陛下とあんなことやこんなことをなさる必要がありますが・・・。そしてオマケの二つ目は、女王陛下がご懐妊なさった場合のみ発生するのですが、ご愛妾様を側室に格上げすることが叶います」

「エルザを満足させていれば、リアに対して寛容になるということか?」

「はい、妊婦は房事をなるべく控えなくてはなりません。ですからどこの馬の骨ともわからない女に手を出されるより、すでに見知った女性を相手にして貰った方が良いと考えるはずです。プライドの高い女性の心理とはそういうものです!」

おお!アレンさん言い切りましたね!

「なるほど・・・さすが師匠だ。納得できる。確かに愛妾より側室の方がエルザの配下に置きやすいからな・・・うんうん。超納得だ。で、三つ目は?」

「エルランド家の安泰でございます」

「ははは!君たちの本命をオマケにしたのか。面白いな。でも良く理解できた。いずれにしてもこのまま放置するわけにはいかないからね。うん、まずは公務を共にする機会を増やそう。私もなるべくエルザのご機嫌を取ろう。それでいいかい?」

「はい、そして二人の女性を手玉に取る・・・王配殿下の腕の見せ所でございますね」

「任せてくれ!って言いたいけれど、時々呼ぶから相談に乗ってね?」

「仰せのままに」

なんだか説得に成功したようです。
めでたしめでたし。

「ところでもしも私が話に乗らなかったらどうするつもりだったの?」

ルイス様以外の全員で決めた裏ミッションですが、私は正直にお話しすることにしました。

「夫の美貌で王家を転覆させるつもりでした」

「えっ!それはどういうことかな?」

「不敬罪に問われません?」

「絶対に問わないから教えてよ」

「はい、私の夫は美貌と共に性剣を隠し持っているのです。それらを武器に、女王陛下を虜にして、言うがまま為すがままに仕込みます。妻の私が公認しますので、夫は思う存分手練手管の限りをつくし・・・陛下はこちらの言いなりですわ・・・ふふふふふふ」

「性剣・・・なんだかルイスならできそうで・・・すごくリアルだな・・・」

「そうでございましょう?せっかく傾国級の美貌を持って生まれたのですから、それを使わなきゃ損ってものですわ」

「君・・・怖いね・・・敵に回したくない」

そういうと王配殿下は立ち上がりました。
終了予定時間が来たようです。
私たちは深々とお辞儀をして退出しました。
部屋の扉が閉まった瞬間、二人でガッツポーズを決めながら、雄叫びを上げたことは大目に見てくださいね。
衛兵が反射的に腰の剣の柄に手を掛けましたが無視しました。

馬車のところでジュリアとランドル様が偶然を装いつつ待っていました。
私たちは同時にサムズアップして成功を伝えます。
二人は踊るようにぴょんぴょん飛び跳ねながら戻っていきました。
さあ、後は幹部たちにたくさん公務を作ってもらうだけですよ!
頑張れジュリア!
負けるなランドル!
私は心の中で二人にエールを送りました。

私たちが馬車に乗り込むと、来るときにすれ違った馬車が戻ってきました。
ふと見ると王配殿下がお迎えに来られているではありませんか!
有言実行、思い立ったら即実践!
さすがです。

疲れ切った顔で馬車を降りたルイス様が、私に気づいて小さな投げキスをされました。
ルイス様・・・それは反則です。

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