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最終話 心象騎士見習い、ここが新たなスタート地点

「良い良い、君は魔剣を掌握し、目覚めたばかりなのだ。その体勢で構わんよ」
「教皇様、御無礼をお許しください」
「良い良い」

この男性はシスターナ教会本部のトップ、教皇様だ。本来、僕の方から謁見しないといけないのに。

「教皇様、お兄ちゃんは凄いんだよ!! あの魔剣を完璧に掌握しているの」

エミルは目を輝かせ、ミズセから聞いた僕の体験を話している。途中から気絶していたはずなのに、まるで自分が体験したかのような正確さと信憑性のある話し方だ。

「ははは、そうか、そうか。エミルは、クロード君のことを気に入ったようだな。これならば、今後の対策を練りやすい」

教皇様は笑顔で彼女の頭を撫で、何か不穏なことを言っている。僕は魔剣の所持者になったのだから、その扱いに困っているのかもしれない。聖女様でさえ葬れない魔剣を掌握したのだから、当然だ。今後、シスターナ教と大きく関わっていくのは間違いない。そんな教皇様の後ろに控えているローラは、僕、エミル、ミズセのことを観察している。

「クロード、まずは自分の状況を知るべきだろう。ステータスで確認するといい」

ステータス…あ、神の死らせか!! 自分のステータスを確認すると、あの赤い点滅が称号から消えており、ギフトの青い点灯も消えていた。

「神の死らせが消えています!!」
「そうだ。君は、自分に襲いかかる不幸に打ち勝ったのだ」

喜びが、僕の心に溢れてくる。これまで不幸に怯えていたせいも合って、どうしても警戒を解けなかったけど、ようやく普段の日常に戻れる。まあ、魔剣の所持者である以上、いつものスローライフとはいかないにしても、訓練学校に戻り、学院の入学試験の勉強に専念できそうだ。それに、ミズセの呪いについての調査もある。

「まずは君に休息を与えたいところだが、今後のことを少しだけ話しておこうと思う」

そこは僕も気になるから、今のうちに知っておきたい。

「君の力については、エミルとエスメローラから聞いている。君の[壁]の力は、心の在り方で如何様にも変化する。君は騎士を目指しているようだから、さしずめ[心象騎士]、現時点ではその[見習い]といったところか」

【心象騎士】、聞いたことのない名称だけど、壁の扱いに関しては僕もようやく理解し始めたところだ。教皇様の言う通り、この力は僕の心の次第で、如何様にも変化する。そういった意味合いで、心象騎士になるのかな。

「クロード、これは近未来の話になるが、君にはエミルの護衛騎士になってもらいたいと思っている」

「護衛騎士!?」

僕にとって非常に好ましい提案だけど、護衛騎士になるためには実力や礼節だけでなく、何よりもエミル自身の信頼性が重要になってくる。

「やった!! お兄ちゃんが私の護衛騎士になってくれるのなら百人力だ!!」

エミルが感情を爆発させて、盛大に喜んでくれるのは僕としても嬉しいけど、多分これには別の意味合いも含まれているんじゃないかな?

「ふふふ、エミルも喜んでいるようだが、別の意味合いもある。今後、君が成長し、自身の力と魔剣の力を最大限に扱えるようになれば、国にとって脅威的な存在になる」

「[監視]ということですね。当然の処置だと思います。ですが、僕自身が国に認められるほどの実力を身に付ければ、その逆の国にとって重要戦力にもなりえますね」

僕の言葉に、教皇様は少しだけ驚く。

「あはははは、やはり君は優秀だ。その頭脳、魔剣の攻撃にも耐えられる精神、気に入った!! 実に気に入った!! 将来、エミルかエスメローラの結婚相手にしたいところだ!!」

結婚相手って、それは大袈裟だろ? 僕は子爵令息、次期教皇と次期聖女候補の婿だなんて身分的にも足りないよ。

「お兄ちゃんのお嫁さん? 私はいいよ。絶対に、誰にも渡さないもん」
「エミル!! そういった事を簡単に決めちゃいけません!!」

ローラが即答するエミルに、軽く怒っている。出会った当初は6歳っぽくない表情だったけど、今の反応は年齢に合っていると思う。

「はははは、次期教皇としての教育も無論重要ではあるが、その子の個性を無くしてはいかんな。クロード、それに気づかせてくれて感謝する」

部屋全体が、和やかな雰囲気に変化する。周囲にいる皆の笑顔を確認することで、僕は自分に遅いくる不幸に打ち勝ったことを強く自覚する。

【心象騎士見習い】か、そこが僕にとっての新たなスタート地点になるな。
 


○○○



この3ヶ月後、クロード・フィルドリアはミズセを連れて、学院へと入学する。彼はミズセの依頼を受けてから半年となる6ヶ月目にて、エミルとエスメローラの協力を得ることで、彼女を呪った犯人の正体を突き止め、その正体が現聖女であることを教皇に訴える。

その動機は【嫉妬】、ミズセには聖女としての力を有しており、その潜在能力が赤子の時点で自分を遥かに凌駕していることを知った聖女が、女神すらも欺き、呪いを発動させたのだ。

クロードが聖女や教皇、枢機卿など皆のいる前で、ミズセの呪いを認識させ完全に浄化させたことで、彼女の力は解放され、聖なる力がその場に満たされる。これを見た聖女は明らかに苦渋の表情を浮かべるも、物的証拠が揃っていなかったので、教皇の詰問に対しても白を切り続けた。

その結果、その場にいる皆は女神の存在を知らしめる現場に遭遇してしまう。

教皇たちのいる謁見の間にて、女神を欺き続けたツケとなる白い聖なる雷が天井をすり抜け聖女に降り注いだのだ。聖女は叫び声をあげ、その身を真っ白な灰へと変化させた。【悪事に身を染めるな】、これを破った者の末路を目撃したことで、ミズセは女神に認められし存在ということが証明された。

呪いから解放されたミズセには、女神から特別なギフトが進呈され、彼女こそが次期聖女として認められることとなる。これを知った彼女の両親は娘を褒めちぎり、家へ迎えようとするも、ミズセはこれを拒絶、勇気を振り絞り、自分への虐待を王族や教皇に告発したことで、両親側はミズセとの親子関係を強制的に断絶されたものの、これまで育て上げたという功績も考慮され、子爵としての地位は継続されたままとなっている。そして、ミズセ自身は元両親たちと別れを告げ、とある公爵家の養子となった。

学院卒業後、クロードは22歳でミズセと結婚し、次期教皇エミルの護衛騎士として相応しい存在に成長する。この頃になると、彼はいくつもの素晴らしい功績を上げていたことから、【心象の壁騎士】と言われるようになり、国を守護する一人の立派な騎士へと成長を遂げていた。


[完]

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