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27話 不幸を回避したいので、聖女候補二人に質問しに行こう

エミルの口から発せられた言葉【呪】、これは俗に言う呪いのことを指すけど、ミズセが誰かに呪われている?

「私の器官欠損って……呪いなの? でも、誰に呪われているの?」

ミズセも、驚きを隠せないでいる。
そう、問題はそこだ。

7歳以降、ミズセは軟禁状態となっていて、邸の敷地内から出ていない。彼女の両親が、娘を呪うと言うのもおかしい。そもそも、聖女様に診察してもらった際、呪いと診断されなかったのは何故だろう?

「ごめんなさい。そこまではわからないの。私も聖女様から魔力による診察を教えてもらっているからわかるかなと思って、ミズセお姉ちゃんの身体を診てみたの。そしたら、お腹の周辺から何か漏れているような感覚を受けたから、じ~っと見たら禍々しい魔力をほんの少しだけ感知したから、【呪】だとわかったの。多分、クロードお兄ちゃんのギフトのおかげだよ。外界から純粋な魔力を取り入れたから、体内に隠されていた呪いにヒビが入ったんだよ」

良かった、僕の行いは無駄な行為じゃなかったのか。でも、エミルの言う通りなら、ミズセの身体の中には、呪いが巧妙に隠されていたことになる。一体、誰がそんな酷い行為をしたのだろう?

「ミズセ、これが呪いだというのなら、ローラに頼めば、きっと浄化してくれるはずだ。今から、彼女のもとへ行ってみよう」

昨日帰還したのだから、この教会内の貴賓エリアの何処かにいる。さっき会った二人の聖女候補よりも、断然信頼できる。彼女なら、きっとミズセの呪いを完全に浄化させることができるはずだ。

「そ…」「いないよ」

ミズセが明るい雰囲気を醸し出し、言葉を出そうとした時、エミルの言葉がかぶさってくる。

「「え?」」

今、エミルは『いない』と言ったのかな?

「昨日、ローラお姉ちゃんはここへ帰ってきたけど、ドラゴンゾンビの討伐報告をするため、教皇様や枢機卿様と一緒にすぐ王城へ向かったの。今日、王様たちと食事会が催されるから、明日の昼まで帰ってこないよ」

ま、まあそうなるか。国を脅かすドラゴンゾンビを討伐したのだから、王族の食事会に招待されてもおかしくないレベルだ。

「ねえエミル、ソフィア様たちは、何故ここにいるの? あの二人だって戦っているのに、何故一緒に招待されないの? あ、さっきクロードと一緒に二人と話し合っていた時は[招待される予定]と言っていたような?」

そう、そうだよ。新聞記事によると、聖女候補や冒険者、騎士たちが協力することで、奴を討伐できた。本来、あの二人もローラたちと一緒に、王城で催される食事会へ招待されるべきなんだ。

「あのね、昨日の新聞記事の内容には、嘘が半分書かれているの」
「「半分?」」

どういうこと?

「昨日ね、私も教皇様から全てを聞いたの。あのドラゴンゾンビを討伐したのは、ローラお姉ちゃんと冒険者と一部の騎士たちなの」

一部の騎士? なんか妙な言い回しだな。

「ソフィアお姉ちゃんとフランソワお姉ちゃんは、自分の力を過信して、手柄を独り占めしようと考え、皆の静止を振り切り、真っ先に二人だけで挑みに行ったの。それを見た騎士たちの一部が二人を守るために、慌てて戦陣を飛び出した。そのせいで、せっかく立案した作戦が全部ぱあになったの」

ドラゴンゾンビ相手に、最低最悪な行為じゃないか‼︎
下手したら、全滅だぞ‼︎
あの二人は、何を考えているんだ?

「結局、二人と騎士たちは、腐敗ブレスの一撃で真っ先にやられたの。騎士たちは二人を守るため、必死に防御魔法を展開して、ソフィア姉様たちも……浄化防御魔法を展開したことで何とか生き残れたけど、その時点で全ての力を使い切ったんだって。ローラお姉ちゃんは、一か八かの行為で、全魔力を注いだ広範囲戦術浄化魔法を使って、なんとか討伐に成功したの。あの二人は身勝手な行為の罰として謹慎を言い渡されたから、王城の食事会に参加できないの」

半分嘘って、そういう意味か。あの二人は、自分の事しか考えていないようだ。そんな勝手な行動を取れば、罰を受けるわけだよ。むしろ、謹慎だけというのが温いくらいだ。今日、王城へお呼ばれする予定とか言ってたけど、絶対にないな。

「そっか。殆どエスメローラ様の手柄だから、彼女だけが食事会に招待されたのね。今すぐは無理でも、明日になれば帰ってくるんだから、焦る必要はないわ。私のことはいいから、クロードの不幸のことを考えましょう」

そうは言っても、明らかに落胆しているのがわかる。ミズセから見れば、初めて光明が差したのだから当然だ。ローラがここへ戻ってくるのは明日の昼、あの二人がどんな手段で魔力を活性化させるのかが問題だ。【黒霧】と【黒の魔剣】、3日以内に何かが起こりそうだから、ローラが戻ってきたら、すぐに連絡を取り合おう。彼女が仲間になってくれれば、僕としても心強い。


○○○


僕たちはどう行動すべきか話し合った結果、今の時点でエミルから言われた予言をソフィア様とフランソワ様に告げようという結論に至った。かなり危険な賭けだけど、何も行動せず、部屋で留まっていても、結局不幸は訪れる。それならば、行動を起こすことで、後に起こる不幸の内容を少しでも知りたいと思った。だから、僕たちはエミルを連れて、二人のいる三階テラスへとやって来た。

「あら、どうしたの?」

優雅にレモンティーを飲んでいるソフィア様が、僕たちの方を見る。フランソワ様はチラッと見るだけで、声を発しない。

「ソフィア様、エミル様から予言を受けた際の内容を言い忘れていましたので、念のためご報告しようと思い、こちらへ参上しました」

「なるほどね。それで、どんな内容なの?」

真っ当な理由なので、二人は先触れもなく訪れた僕たちに怒ることなく、先を促す。

「【黒霧と黒の魔剣が僕の全てを食い尽くす】です」

二人がどの言葉で動揺するのかを知るべく、じっと動作を観察していると、[黒の魔剣]と言った時、僅かながらおかしな挙動を見せる。

「まず、[黒霧]とは何かしら?」
「ここにいるミズセのおかげで、[黒霧]とはあなた方のことを指していることがわかりました」

そう言った瞬間、二人からは怒りの表情が僅かに読み取れた。フランソワ様も、僕の方をじっと見つめてくる。

「私たち? 何の根拠があって、そう言うのかしら?」

「ミズセだけが黒霧を視認できるようで、パレードや先程の会談でも、お二人から漏れ出ているのを確認しました。しかも、フランソワ様が[もう一つの手段]と言った際、黒霧が一斉に出現し、ソフィア様を覆ったそうです」

少し誇張しているけど、大袈裟に言った方が二人の心に響くだろう。僕の言葉に焦りを見せ始めたのは、フランソワ様だ。急に立ち上がり、僕を睨む。

「ふざけないで‼︎ 私がソフィア姉様に何かを仕掛けるような言い方はやめてちょうだい‼︎」

そう認識してもおかしくない。
でも、こっちは僕の命が掛かっているんだ。

多少不快な思いをさせてしまうけど、ここから更に一歩踏み込ませてもらう。僕が教会内で命を失う程の不幸に見舞われる場合、それが毒殺や暗殺以外なら、教会自体も何らかの被害を被る可能性があるからね。

「ご不快に感じたのであれば謝罪致します。ただ、僕は事実を言ったまでです。もし、あなた方が黒の魔剣を所有しているのであれば、その行使だけは避けて頂きたいのです。おそらく、何らかの不幸が起きます。そしてそれが、僕に波及してくると思われます」

心当たりがあるのか、二人は何も言い返してこないけど、僕たちを睨んでいる。この様子から察するに、心当たりがあるんだ。

「エミル、未来視で何を見たの? そこに、私たちはいたの?」

ソフィア様は不安になったのか、エミルを見る。僕自身、彼女から詳しく聞いていない。何を見たのか、僕も知りたい。

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