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24話 不思議な幼女と出会ってしまった

入口で出会った騎士様が、僕とミズセを聖女候補様のおられる貴賓室へと案内してくれる。初めて中を歩いてわかったけど、この教会には二つの区域がある。一つ目の一般区域、ここは1階と2階全体を占めており、そこで教会の業務が行われており、大勢の修道服を着た人々が忙しなく動いている。二つ目の貴賓エリア、3階以降を占めているのだけど、司教以上と聖女候補や聖女といった限られた者しか入れない制限区域となっている。

その区域でもある3階に到達した途端、雰囲気ががらりと変化する。
貴賓エリアと言われるだけある。

見事な調度品の数々が、そこかしこに飾られており、しかも一つ一つが洗練された重厚な存在感を感じさせ、廊下の木材や壁紙のデザインと、見事に調和している。

「君達、これから会談する2人の聖女候補様たちは、とても穏やかで優しいお方だから、緊張しなくても大丈夫だよ。この廊下で雰囲気に呑まれていると、部屋の中に入ったら気絶するぞ」

ミズセも僕と同じようで、ガチガチに緊張している。
流石に、気絶だけは絶対に回避したい。

緊張感漂う中、廊下を歩いていると、少し先の部屋の扉が開き、そこから25歳くらいの侍女と5歳くらいの緋色の髪の幼女が現れ、何故か寒くもないのに両手に手袋を付けて、こちらに向かってくる。気のせいか、侍女の女性と幼女の距離間が遠いような気がする。

案内人の騎士様が幼女に対してペコっと頭を下げると、彼女も軽くお辞儀したのだけど、何故か僕を見た途端、顔色を変える。もしかして、この子も聖女候補なのか? 第一印象は、ミズセと雰囲気が似ている。彼女も、少し人見知りの傾向があった。この子も、そうなのだろうか?

「ねえ、冒険者のお兄ちゃん」

女の子とすれ違った瞬間、僕は声をかけられる。

「なんだい?」

この場で、その名称に当てはまるのは僕しかいない。この子、全てを見通すかのような不思議な瞳をしていて、僕の中を覗き込まれているかのような感覚を受ける。

「[神の知らせ]を持っているんだね。それなら、後ろに引き返したほうがいいよ。大きな力のせいで不鮮明な映像だけど、この先に進めば3日以内に良くないことが起きる」

唐突に言われたせいで、その場にいる全員が固まる。

人によっては、ギフトをもらっていない状態でも、特殊な力に目醒める時が稀にあると学校で習った。嘘を言っているような目じゃない、本気で僕を心配している。しかも、鑑定スキルを持っているのか。

「忠告ありがとう。でもね、ここで引き返したら、僕たちは助かるかもしれないけど、僕たちの家族や友人に被害が生じるかもしれないんだ。自分の幸せな未来も大切だけど、僕の行動で他人を不幸にしたくない。だから、僕たちは不幸を承知で前へ進むよ」

僕がしゃがんで女の子の頭をなでなですると、彼女は目を見開き、僕をじっと見つめてくる。

「死ぬかもしれないんだよ? 死んだら、それでおしまいだよ?」

「そうだね、死んだらそれまでだ。でも、人に迷惑をかけて死にたくないんだ。それなら、前進あるのみさ」

女の子は意味を理解できないのか、首を傾げると、右手で僕の肩をそっと触れる。その際、侍女が止めようとする素振りを見せる。

「嘘を言ってない…私の言葉に怒ってもいない…それに…」

僕に触れただけで、そこまで見通せるのか? こんな小さな子が貴賓エリアにいるのだから、相当強力な力を持っているんだな。

「エミル様、教師の先生をお待たせしています。そろそろ…」

侍女の女性が、女の子に声をかける。

「うん…お兄ちゃん、[黒霧]と[黒の魔剣]に気をつけて。今のままだと、それらがあなたの全てを食い尽くす」

「え?」

そう言うと、彼女はお辞儀をし、侍女と共に僕のもとを去っていく。多分、黒霧は聖女候補だろうけど、黒の魔剣って何だ? それが僕の不幸に関わるのかな?

「クロード君、エミル様のことで気を悪くしないでくれ。彼女は6歳の身で、ギフトもないのに強い力を有しているため、それを制御するため教会へ引き取られた子供なんだ。教皇様や枢機卿様といった高位の方々のお気に入りで、次期教皇となられるお方だから、決して怒らせないように」 

次期教皇……6歳の少女エミルか、あの子の忠告を真剣に受け取っておこう。


○○○


一つでも壊したら、僕たちの人生は終わりだ。

聖女候補様のいる部屋に到着し、入場許可を得てから僕とミズセだけが部屋の中へ入ると、その部屋は清涼な雰囲気を醸し出しており、飾られている調度品も見ただけで高価な物であることが伺えるのだから。

案内人の騎士は、部屋の外で待機し、中には入口付近に護衛騎士の方が2名待機している。奥には、部屋の色調に合わせた上品で控えめなカジュアルドレスを着た2人の女性がソファーに座っており、優雅にティーカップに注がれている飲み物に口を付けているところだった。1人は黒髪の15歳くらいの女性で、髪が腰くらいまであり、前髪も長いせいで少し顔にかかっている。でも、見た目からは、少し暗めの上品なお嬢様に見える。それに対して、もう1人の女性は胸まで届く長い波打つ金髪で、両耳付近からはドリルのような髪型をしており、ローラの言った通り、オホホという言葉が超絶似合うこれぞ貴族様という風貌で、25歳くらいに見える。一応、僕も子爵令息だけど、貴族と結婚する気なんてなかったので、貴族名鑑に載っている全ての家名をいちいち覚えていないので、どっちがフランソワ・トパーズ様なのかもわからない。

2人は僕たちを視認すると立ち上がり、貴族としての礼節で挨拶してくれた。黒髪の女性がフランソワ・トパーズ様、金髪の女性がソフィア・アイルイズ様のようだ。僕とミズセも、貴族流のマナーで自己紹介すると、2人は笑顔となる。

「さあ、そこのソファーに座りなさい。[神の知らせ]に関しては聞いているけど、あなたたちを陥れるような行為を決してしないことを誓うわ。このエリアには、選ばれた者しか入れないの。今のうちに、堪能しておきなさい」

ソフィア様が促してくれたので、僕たちは綺麗なデザインの施されたソファーに座る。緊張しているせいで、部屋の雰囲気とかに構っている暇がない。あの黒い霧の件もあるから、ミズセの様子を見たいのだけど、そんな余裕がない。

「王族の使者の方がお昼までに来られて、私たちを食事会へ招待してくれる予定なの。だから、無駄話はしない。単刀直入に、要件を言うわ。クロード、エスメローラにしたように、あなたのギフトの力で、私とフランソワの魔力を活性化させなさい」

やっぱり、要件はそれか。集めてきた情報だと、これまでローラ、ソフィア様、フランソワ様の3人の力は拮抗していたようだけど、ローラが僕のギフトで活性化し、ドラゴンゾンビ討伐に大きく貢献しているから、聖女に選ばれる可能性が高い。二人はそういった事情もあり焦っているんだ。

「はっきり、言わせて頂きます。エスメローラ様の時は、ギフトが青く点滅し、そこで行使したことで、彼女の眠っていた力が活性化されたと思います。今の時点で、それと同じ事象が起きていないので、お二人の力にはなれません」

できれば2人を怒らせたくないのだけど、嘘を言っても、どうせ怒らせるだけだ。偽りを言わず、ありのままを伝えよう。聖女候補様ならわかってくれるかもしれない。

「あの子は物静かで、滅多に怒らないのよ。ギフトの力であなたに悪口を言われ、激怒したことで、力を活性化させたようね。それなら、その事象が発生したら、私たちにも同じことをしてくれないかしら」

今、起きたとしても、護衛騎士が控えている中で、聖女候補の悪口なんて言えるわけがない。

「僕自身、ギフトに目覚めて間もないので、いつ・どこで、あの時と同じ現象が起こるのかすらわかりませんし、活性化させる条件も異なる可能性があります」

と言うか、仮に点滅していたとしても、ローラと同じ条件とは思えない。なんせ、あなたたちは虐めている側なのだから。

「ソフィアお姉様、12歳になったばかりでは、ギフトを扱いきれないのも理解できます。偶々、条件が合致して、起きた可能性もあり得ます」

フランソワ様の声、ソフィア様と違い、物静かな声質だ。

「それじゃあ遅いのよ。このままだと、エスメローラが聖女に選ばれる。もう時間がない。フランソワ、あなたもわかっているでしょう?」

温和な表情で言っているけど、口調から焦りを感じる。

「勿論、理解しています。ですから、もう一つの手段を行使した方が早いと言ったじゃありませんか」

もう一つの手段?

「リスクなしでいければと思ったけど、そんなに甘くないか。宣言の日が近い以上、使うしかないわね」

「この二人に関しては、もしもの時のための予備として考えた方がいいと思われます」

「予備…か、そうね、そうしましょう」

2人は僕たちを見て、何かを企んでいるのは一目瞭然だ。
エミルの言う通り、よくないことが起こりそうだ。

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