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22話 不安の残るおかしなパレードだった…らしい

帰還パレードの時間も決まり、僕とミズセは開催時刻の10分前に大通りに到着したのだけど、ドラゴンゾンビを見たい人が多いのか、通りの両端には大勢の人々で満たされていた。

「凄い、人混みだな。よし、なんとか最前列に潜れたぞ。この位置なら、背の低いミズセでも大丈夫だ」

「クロード、一言余計。ドラゴンゾンビ、楽しみ。今まで図鑑でしか知らなかったものが、目の前で見れる」

ミズセは魔力がないせいもあって、家の恥ということで、7歳以降社交を許されなかった。軟禁されていたこともあり、邸に保管されている本を読み漁り、魔物の知識を得たようだけど、見たことがないのだから興奮して当然だ。僕だって、ドラゴンゾンビなんか教科書でしか知らない。

「あ、向こうが騒がしくなってきたよ!! 始まったんだ!!」
「いよいよ、お出ましか」

ローラが僕に気づくことはないと思うけど、視線が合ったら、どんな反応を示すだろう? 護衛騎士の人たちが通り過ぎていくと、すぐに馬鹿でかい何かが僕の視界を占有する。

「これが…ドラゴンゾンビなのか」

大通りに入るよう折り畳まれているようだけど、一軒家の高さを余裕で超えるほどの大きなドラゴンの全身骨格が、僕の横を通り過ぎていく。もし、これが生きていたら、体長は何メートルあるのだろう? ローラたち聖女候補や冒険者たちは、こんな奴と戦い勝利したのか。僕も、こいつを倒せるくらいの強者に成長するだろうか? いや、疑問形じゃダメだ、成長するんだ!!

このドラゴンゾンビの全身骨格全てが、浄化魔法の名残なのか、僅かに光っている。肉や皮だって多少残っているだろうから、それらはオークションなどの様々なルートを使い、お金に還元され、一部は国庫に保管されるだろし、大都市ワナイキアも状態異常攻撃[腐食]などの影響で、一部の建物が全壊したらしいし、それらによる死者も発生しているから、売上の殆どは復興費に充てられるかもしれない。

あれ? そういえば、ミズセが全然喋らないけど、まさか興奮しすぎて気絶した? 僕が真横を向くと、彼女は興奮しているどころか、真っ青な顔となり、全身をガタガタ震わせている。

「ミズセ、顔色が酷いぞ!? どうしたんだ?」
「なんで…みんな…怖くないの? 黒い霧みたいなものが骨格に絡もうとしているのに…なんで怖くないの?」

え、黒い霧!?
僕がドラゴンゾンビを見ても、それらしきものは全然見えない。周囲の人々も歓声をあげながら、あれを見ているけど、悲鳴で騒いでいる人は誰1人いない。

「僕には、全く見えないんだけど? 霧の発生源は、何処から?」
「ずっと後方から、ずずず~~~ってあの骨格へ伸びているけど、浄化魔法の影響なのか、触れるたびに消滅しているの」

妙だな。今のミズセには、魔力は皆無だ。僕や周囲にいる人々が認識できないものを、何故1人だけ視認できるんだ? いや、今は疑問に思うことよりも、発生源の特定が先か。このままドラゴンゾンビが復活して、僕たちを襲う可能性だってあるのだから。

「クロード、あそこ!!」

ミズセの指差す方向には、馬車があり、通常より高く設置された天井のない荷台がある。そこに3人の女性がいて、僕は全員を知っている。中央がローラ、両端にローラの言っていた[根暗女]と[行き遅れ女]がいる。どちらも美人で、彼女に虐めを行うような酷い女には見えない。

「霧の発生源は、両端の女性2人だよ。霧が真ん中のエスメローラ様に絡みつこうとしているけど、触れた瞬間浄化されてる。どうしてかわからないけど、あの霧には…触れたくない…物凄く気持ち悪い…あれは…よくないもの」

なんで、そんなものが聖女候補から出ているんだ?
というか、聖女候補3人も、ミズセの言う黒い霧に気づいていない?
まさか、ミズセだけがこの群衆の中で、霧を認識しているのか?

聖女候補3人の乗る馬車が僕たちの前を通り過ぎようとした時、ローラが僕に気づく。その瞬間、ローラの声が僕の頭に響いてきた。

『ふふふ、どう? 私の意味がわかったかな? これは念話だから、心の声で話してね』

これが念話なのか。
何かパスが繋がったかのような感覚だ。
隣にいる顔色の悪いミズセにも、聞こえていないようだ。

『嫌でも理解したよ。君が聖女候補で、僕が引き返せない位置にいると言うこともね』

この様子だと、ローラも黒い霧に気づいていない。あの霧は僕ではなく、ローラとドラゴンゾンビに興味を示しているわけか。

『ふふふ、私はただの大食い野郎じゃないことをわかってもらえたようね』

ローラって、意外と根に持つタイプなんだな。あの時、散々悪口を言ったけど、[大食い野郎]という言葉に一番傷ついたのか。

『君に、[大食い野郎]と言ったことは謝るよ。君は、[大食い女]だったね』
『にゃにお~~~~まだ言うか~~~。今すぐ、あなたのところへ行きたいのに行けないのがむず痒い~~~』

あはは、笑顔でこっちを見ているけど、内心が全然違うことを思っているから面白い。おっと、今のうちに言うべきことを言っておこう。

『ローラ、両隣にいる聖女候補2人に気をつけろ』
『どしたの? 突然?』

『隣にいる友達が、僕に教えてくれたのさ。黒い霧があの2人から出現して、君とドラゴンゾンビに絡もうとしているらしい。浄化魔法の影響か、すぐに消滅しているようだけど、今でも霧を発しているらしい』

『黒い霧? 私には見えないわ』
『僕にも見えない。どうやら、彼女だけが視認しているみたいだ。何か起こるかもしれないから、用心しておくんだ』

『黒い霧…わかったわ…そっちの顔色の悪い小さな女の子に、お礼を言っておいて』
『了解だ』

あ、馬車がある程度離れたところで、急に何かがプツッと途切れた。これが念話、覚えたぞ。まさか、こんな形でローラと話し合えるとは思えなかったけど、とりあえず忠告はした。

おかしな事が起きなければいいけど。

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