第42話『新衣装と成長』
《魔法少女!? めっちゃ”カワイイ”~!》
お披露目配信に遊びに来てくれていた、あんぐおーぐが叫んだ。
そう、俺の新衣装とは魔法少女だった。
>>これはトランスガール
>>なるほど翻訳(トランス)と変身(トランス)がかかってるのか
>>めちゃくちゃキュートだね!(米)
《でしょ~。じつはここの魔法のステッキのところが、地球儀になってるんだよね》
《おおっ、ほんとだ。最近はすっかり国際VTuberってのが板についたもんなー》
《あとはエフェクトで魔法陣が出せたり。これも散りばめられた文字が、じつは各国の文字になってるんだよね》
《あはは、おもしろいな! 国際要素を取り入れたすごくいいデザインだと思うぞ》
《だよね! ママには感謝しないと! あ、イロハハのほうじゃないよ》
>>サンキューマッマ(米)
>>地球儀、頭の振りに合わせて回転してるな
>>お首フリフリかわいい
《今日は来てくれてありがとうね》
《イロハだってワタシの誕生日でメッセージをくれたでしょ。これはそのお礼》
>>一緒に歌えないかわりにサプライズメッセージを送るってのはいいアイデアだった(米)
>>マネージャーはいい仕事をした(米)
>>おーぐは泣いてたよね(米)
《な、泣いてねーし! まったく、イロハこそいつの間にワタシのマネージャーまでたらし込んだんだか》
《……一番最初から? おーぐのマネちゃんってバイリンガルで日本での打ち合わせも多いでしょ? 細かいニュアンスで困ってたのを、相談に乗る機会があって》
《えっ》
《逆にわたしも、裏方作業で困ったときに助けてもらったりとか》
《う、裏でそんなことが……ぐ、ぐるるるぅううう!》
>>おーぐが吠えたw
>>嫁がヤキモチを焼いてるぞwww(米)
>>イロハはおーぐを煽るのがウマいねw(米)
《おい、マネージャー。あとでワタシと大事な話がある》
《ちがうちがう、いい意味で”ビジネスフレンド”ってだけだよ。さすがに寝落ち通話までしてる相手はおーぐだけだって》
《おいっ!? オマエまたっ!?》
>>寝落ち通話だって!?(米)
>>実質セッ――(米)
>>¥10,000 結婚祝い
《やめろ!? このタイミングでスパチャするな! ……あーもうっ! この話はここまで!》
《そうだね。このあともゲストが待ってるし、そろそろ切りあげないと。今日は来てくれて本当にありがとね!》
《……ふんっ。どういたしまして》
あんぐおーぐがツンとした態度で言い、堪えきれなくなったようで吹き出した。
俺もつられて吹き出した。
本当に怒っているわけじゃない、いつものじゃれ合いだ。
気が抜けた。今度こそ本当に通話を切りあげよう。
《それじゃあねー。ばいばーい》
《じゃあねー。愛してるよー》
「あ」
通話が切れ、コメント欄で日本語勢がざわついていた。
あんぐおーぐも気が抜けたのだろう。
>>今、愛してるって言った!?
>>告白してた!?
>>というか今の、もう付き合ってるってことじゃね?
俺は「え~っと」としばし悩んでから……。
面倒くさくなって頷いた。
「おーぐに告白されちゃった♡」
《ちがぁーーーーーーーーう!》
耳がキィーンとした。
慌てて通話に戻ってきたあんぐおーぐが叫んでいた。
「日本のみなさん、ちがいマス。今のはアイサツ。告白じゃナイ。《というかイロハはわかってるだろ! いつものクセで出ちゃっただけだから~~~~!》」
>>いつもなの!?
>>クセで!?!?!?
>>墓穴掘ってて草
「ワタシ、エイゴ、ワカリマセーン」
《ウソつけぇーーーー! イロハ、ちゃんとミンナに説明しろーーーー!》
* * *
そんなこんなで新衣装のお披露目も無事、終了した。
俺はベッドに仰向けになり、ぼぅっと天井を眺めていた。
みんな、新衣装のデザインをすんなり受け入れてくれた。
これもまた俺が国際VTuberとしての地位を確立した証拠だろう。
それに国内での知名度も上昇していた。
視聴者の間だけでなく、同業者の間でも。
きっかけは間違いなくクイズ企画のレギュラーを獲得したことだ。
企画自体が有名な上、毎回ゲストで異なるVTuberが来る。
俺の交友関係は急速に広がっていた。
最近では俺が通訳することで、海外のVTuberもクイズ企画に呼べるようになっている。
すべてが順調……そのはずだ。
解説役だって非常にうまく務めている。
いや、うまくいき
「……また能力が成長してる、のか?」
いつからか日本語に対する記憶力も向上していた。
クイズ企画で優勝できたのもこれが理由だ。
一度見聞きしただけで、日本語の単語も忘れなくなっている。
それに言語にまつわる情報……それこそ自分が、どこで知ったかすら思い出せないような雑学まで、語学系の知識なら引っ張り出せるようになっていた。
「今の俺なら、広辞苑や英英辞典をすべて暗記することすらできそうだ」
……まぁ、やらないけどな!
さすがに労力が大きすぎるし、なによりメリットがない。
たとえば英検1級レベルの知識を習得しても、俺にとっては意味がない。
なぜならそこに出てくるのは専門用語にも近い単語ばかりだからだ。
すなわち、習得したからといって推せるVTuberの数が増えるわけではない。
俺に必要なのは浅く広い知識。深い知識の優先度は低いのだ。
「それともまさか、恐いとか?」
この能力が今以上の速度で成長してしまったら、どうなるのか想像がつかない。
あるいは自分が自分ですら、なくなってしまう時が来るんじゃないかと――。
「バカバカしい」
俺は思考を打ち切ってゴロンと寝返りを打った。
と、ピコンとメッセージの着信音。
最近は企画への勧誘も多すぎて、断らざるを得ないことが増えてきた。
しかし今回ばかりは参加一択だった。
なぜならそれは、能力を解明する手がかりとなりうる重要なものだったのだ。
その企画とは――。
* * *
「チキチキ! 各国のVTuberにただ『バカ』と言ってもらうだけの企画ぅ~!」
「うおぉおおおおおおおおお!」
俺はテンションマックスで叫んだ。