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15話 Fランクの僕に指名依頼が入った

ローラと別れてから、3日が経過した。僕は毎日朝刊と夕刊の新聞を購入し、全ての記事を見通しているけど、今のところ僕に関わるものはない。あれからローラの忠告を真剣に聞き入れ、聖女関連の雑誌をいくつか読んだことで、聖女とその候補者たちの情報も入手している。

現在の聖女マリア様は63歳と高齢なこともあり、称号を受け継ぐための聖女候補者を育てている。その人数は6名で、いずれも聖女として相応しい存在らしい。6名の名前と年齢もわかったけど、その中でローラと一致する女性は、12歳のエスメローラ・フロラインだ。候補者全員の写真は掲載されていないけど、僕と出会った少女はエスメローラ・フロラインで間違いない。記事によると、全員が気品ある女性と掲載されているけど、現実の彼女は[大食いで普通の女の子]という事実に、僕の心は複雑な胸中でもある。

『もっと視野を広げろ』、情報収集したことで、彼女の意味を真に理解できた。これまでは新聞も読んでいたけど、事件や騎士関連ばかりだった。聖女に少しでも興味を抱いていれば、あの時ローラと視線が合っても、すぐに目を逸らしていただろう。あと2日もすれば、新聞の朝刊に何かが載るらしいけど、それが何なのかが気掛かりだ。

まあ、今更後悔しても遅いから、僕は前向きに物事を考えるようにしている。聖女候補と関係を持った以上、堂々と不幸を迎え入れてやろうじゃないか。それまでは、今の生活を楽しもう。冒険者ギルドに到着したし、頭を切り替えるか。

「さて、今日は朝から、どんな依頼をやろうかな」

本当なら、仲間が欲しいところだ。ソロ活動だと、フォローを入れてくる人が誰もいないし、何より話し相手がいないから、冒険中も寂しく感じてしまう。時折すれ違う先輩方が、僕に色々とアドバイスを贈ってくれるので、依頼を遂行する上で、とても助かっている。ギルド内へ入ると、そこそこ賑やかになっており、依頼書が貼られている掲示板付近が一番混雑している。僕もあの中に入り、手頃なFランク依頼を見つけよう。

掲示板へ向かおうとした時、受付に入ろうとしているミレーユさんと視線が合う。すると、彼女の方が僕に駆け寄ってきて、笑顔を見せる。

「クロード、丁度よかったわ。あなたに、指名依頼が入ったわよ」
「指名依頼? 僕にですか?」

指名依頼って、普通高ランク冒険者に入るものだろ? 
僕は、最低のFランクなんだけど?

「まだ、先方もいるはずだし、2階へ行きましょう」
「は、はあ、わかりました」

ミレーユさんにしては珍しく、少し強引に僕を2階へと連れて行く。2階には、指名依頼が入った際に、依頼者と秘密裏に話し合う部屋が3つ用意されている。確か、ギルドマスターは所用で、昨日から国内にいないから、ミレーユさん経由でこのまま連れていかれるようだ。部屋に到着し、ミレーユさんが扉を開け、僕に入るよう促す。覚悟を決めて中へ入ると、そこには70歳くらいの執事服を着た男性と、質素なワンピースを着た8歳くらいの女の子がいた。男性は立派な風貌だけど、女の子の方は痩せこけており、どう見ても元気がなく、陰気さを感じる。スカイブルーの髪色と瞳、笑えば可愛いと思うから、その陰気さが勿体無く感じる。

男性が僕を視認すると、スッと立ち上がる。

「ミレーユ様、その男の子は?」
「彼が、クロード・フィルドリアです。先程、1階へ降りた所で出会ったので連れてきました」
「ほう、彼がそうですか」

目上の方である以上、こっちから挨拶するのが礼儀だな。

「初めまして、クロード・フィルドリアと言います」

「私の名はギブソン、とある貴族の執事をしております。隣に座っている女性はミズセと申します。このお方は貴族なのですが、訳あって家名を告げられないことをご了承ください」

名前を告げられたミズセという女の子はゆっくりと立ち上がり、こちらを向いて、ほんの少しだけお辞儀する。ギブソンさんの正体に関しては服装で察せたけど、こっちの細い女の子が貴族とは意外だ。

「彼女は不遇な環境で育てられた影響と少し人見知りな性格もあり、あまり多くを語ろうとしません。一応、礼儀に関しては教えているのですが…申し訳ありません」

彼女の風貌を見ただけで、それはわかる。僕を見て震えているし、目をキョロキョロと動かし、挙動不審な態度をとっている。この2人が依頼人だとすると、どんな依頼をされるんだ?

「お二人とも、話も長くなるでしょうし、まずは座りましょう」

ミレーユさんの計らいで、僕は依頼人の対面に座る。彼女が熱い紅茶を4人分運んできてくれたので、僕はそれを飲み、心を落ち着ける。ギブソンさんは優雅に紅茶を飲んでいるけど、ミズセの方は全く手につけず、身体を震わせるだけだ。どうして、そこまで恐怖するのだろう?

「クロード様、あなたへのご依頼を話す前に、何故Fランクのあなたを選んだのか、その理由を先にお話ししましょう」

ギブソンさんの言葉を聞き、僕は少し安心感を覚える。僕自身、依頼内容も気になるけど、それ以前に僕を選んだ理由が気になるからだ。と言っても、なんとなく察しが付く。

「一つ目の理由、それはあなたに[神の死らせ]が付いているからです」

「あはは、やっぱりですか。他の冒険者との違いと言えば、それくらいですよね。二つ目は……ギフト[壁]ですか? 僕の力に関しては、自分で大っぴらに公表していますし、教会の司祭様も口走りましたからね」

ギブソンさんは目を見開き、しばらくすると僕を見て優しく微笑む。

「その通りです。私たちの立場から見れば、あなたは天国と地獄の両方を持っている。今から話す依頼内容、あなたはこれを受けねばなりません。そして、あなたの行く末が、ミズセ様の行く末に繋がります」

僕の行く末が彼女の行く末に繋がるって、どういうことだ?

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