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1話 祝福の儀式を受けたら、司祭に叫ばれた

「只今より、祝福の儀を執り行う。呼ばれた者は中央の祭壇へ」

やっと…やっとだ…この日をどれだけ待ち望んでいたことか。

僕-クロード・フィルドリアのいるフォルサレム王国には、全国民が参加必須とされる儀式が存在する。

それが【祝福の儀】。

12歳の誕生日を迎えたら身分に関係なく、皆が揃って、その都市の教会へ赴く。そこに祀られている女神像の前で跪き、女神シスターナ様に深く祈ることで、その身に祝福を受け、贈り物[ギフト]が女神様から贈呈される。[ギフト]は、別名[ユニークスキル]とも言われ、1人に1個必ず与えられる。

現在生きている人々において、同じギフトを持つ者はいない。それ故、この力の内容次第で、個人の人生は大きく左右される。どんな力を貰えるのかは運次第、本人の潜在能力なども全く関係しない。ごく稀に【女神の気紛れ】と呼ばれる意味不明なギフトを贈呈されることもあるようで、名前だけではどんな効果を持つのかわからないものもあるらしい。

今、王都内にあるシスターナ教会本部敷地内の礼拝堂の中に、威風堂々とした60歳前後の司祭様が正面扉から入ってきて、粛々と前進し中央祭壇へ到着すると、丁寧な所作でこちらへ振り向き、淀みのない威厳ある声で、儀式開始を言い放つ。これにより、礼拝堂内の空気が一変し、緊張が一気に迸る。

まず、平民から呼ばれていくので、名指しされた者は一人ずつ順に司祭様のもとへ移動していく。そこで司祭様から名を問われ、自分から名を高々と宣言する。その後、中央奥に鎮座されている女神像のもとへ移動し、跪き祈ることで、祝福を受ける。それを終えると、司祭様のいる中央祭壇へと戻り、司祭様からお言葉を頂戴し、一人ずつ礼拝堂の外へと退場していく。

この一連の流れに関しては、家族から事前に聞いている。

特に最後のお言葉を頂戴する場面、傍目から見れば、ただ見つめ合っているだけだ。
でも、実際は違う。

中央祭壇にいる司祭様の目の前に設置されている長方形のボードは、祝福を受けし者の能力を全て表示させる魔道具だ。司祭様が表示内容を確認すると、手に持つ分厚い本をパラパラ捲り、止まったところで今祝福を受けた子供だけに聞こえるよう、スキル【念話】というものでギフトの効果とアドバイスを対象者の頭の中だけにお言葉を贈ってくれるようだ。

個人のプライバシーの問題上、司祭様は表示されているギフトの名称を絶対に口外してはいけない。ただ、表示されたギフトが、教会に保管されているギフト大全辞典に載っている場合、司祭様は今のようなスタイルでアドバイスを与えている。新規のギフトをもらえる者は滅多にいないと聞くから、僕も過去に発現されたものになるはずだ。むしろ、そっちの方が対策を立てやすくてありがたい。

「クロード・フィルドリア!!」
「はい!!」

いよいよ、僕の出番だ。
僕は立ち上がり祭壇の前へ赴くと、司祭様が口を開く。

「少年よ、名は?」
「クロード・フィルドリア!!」
「よろしい。女神シスターナ様に祈りなさい」
「はい‼︎」

僕は前方奥にある巨大女神像へと移動し、床に跪く。そして、目を閉じてから女神様に日頃の感謝を伝えると、温かい何かが僕の中に入り込んでくるのを感知した。目を開けると、僕の身体はうっすらと輝いている。祝福を終えた者には、自分にしか見えない[ステータス画面]が出現すると聞いている。皆、その場でステータスと言い、自分の能力を確認していたから、僕も早速試してみよう。

「ステー…」

「[壁]だと!? こんなギフト、聞いたことが…まさか…[女神の気まぐれ]か? それに、これは…称号? そんな…赤く…点滅している…か…[神の死らせ]だ」

今、司祭様はボードを見て、[壁]と大声で叫んだのか? しかも、『女神の気まぐれ』『称号が赤く点滅している』『神の死らせ』とかも、礼拝堂に響くほどの声で口にしていた。僕が司祭様を見ると、彼も自分の失言に気づいたのか、慌てて右手で口を塞ぐ。

てことは、僕のギフト名は本当に[壁]なの?
それと、[神の死らせ]って何だ?

司祭様は冷や汗を掻きながら、ギフト辞典をペラペラとめくるけど、単語が見つからないのか、すっと閉じる。

「クロードよ、其方のギフトは新規のもの、自らの力で開拓し、道を開きなさい」

おい、プライバシーは何処に行った!! 
念話で言ってくれよ!!

「司祭様、初めに言った2点の言葉、特に後者の内容を詳細に知りたいのですが?」

「それは……この場では私の口から言えん。[神の死らせ]については、両親に聞きなさい」

僕がわざと言葉を濁して言っているのに、この人は[口から言えん]と宣言しながら、すぐに口に出して言っている。多分、司祭様は[女神の気まぐれ]と言ったギフトよりも、[神の死らせ]という言葉に対して衝撃を受けているんだ。

「司祭様、もう遅いですけど、今後は念話で言ってください。今のやりとり、全部聞かれています」

「つ……すまない」

自分の度重なる失言に気づいたのか、彼は僕に謝罪を入れた。
周囲にいる同年代の男女が、僕を見てヒソヒソ話している。
そこには、僕と同い年の貴族が4名もいる。

「静まりなさい!!」

司祭様も何もなかったかのように振る舞い、儀式を進めていくけど、これは教会側にとって大問題のはずだ。儀式の終了後、一悶着あるかもな。僕も、このままここに滞在し続けたら、余計目立ってしまうから、早く礼拝堂から退散しよう。司祭様に会釈し、出席者の子たちからジロジロと奇妙な目で見られる中を、僕は最短距離となる中央を突っ切り、何事も無かったかのように、堂々と礼拝堂正面入口扉を抜けて外へ出た。僕が生きてきた中で、この外へ出るまでの僅かの時間が、果てしなく長く感じた。


○○○


この司祭様の不用意な一言がキッカケとなり、これまで築いてきた[平凡なスローライフ]が崩れ去ることになるとは、この時の僕は夢にも思わなかった。

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