付き合うか、付き合わないのか……ハッキリせんかい!
マリアは鼻息を荒くして、宿敵であるアンナへ激しく問い詰める。
「いい機会だから、ここでハッキリさせてあげる! 私はタクトの婚約者なの! あなたって、小説のために契約したビジネスパートナーみたいなものでしょ!?」
「違うよ☆ タッくんとは運命的な出会いをした契約関係だよ☆」
なにそれ……その表現だと、俺がパパ活している親父みたいじゃん。
「運命的な出会い? じゃ、じゃあ……恋愛関係に発展する可能性があるってこと!?」
「どうだろね☆」
マリアは僅かだが、動揺していた。
対するアンナと言えば、俺の手を自身の胸で浄化させたという……自身の欲求が満たされた事によって、安心したようだ。
終始、ニコニコ笑ってマリアに対応する余裕っぷり。
「な、なんなのよ! その、タクトの全てを知り尽くしたような態度は……。ま、まさか! あなた達って……」
碧い瞳を大きく見開き、アンナの顔を指差して震え出す。
「ん? タッくんとアンナがどうしたの?」
「き……キ、キッスをした関係じゃないわよね!?」
それまで黙って、見ていた俺だが、思わず空中へと大量の唾を吹き出す。
「ブフーーーッ!」
だって、ついこの前、ミハイルモードとはいえ、ガッツリとファーストキスを交わしてしまったからだ。
マリアの勘だろうが……的をしっかり射抜かれた気分だ。
胸が痛む。そして、息苦しい。
気がつくと、俺の人差し指は自身の唇を撫でていた。
一瞬だったが、あの時の感触を思い出したから。
頬は一気に熱を帯びて、燃え上がる。
心臓を打つ音がドクッドクッとうるさい。
ふと、隣りに立っていたアンナに目をやると……。
同様の仕草を取っていた。
顔を真っ赤にさせて、小さなピンク色の唇を細い指で触っている。
俺と目が合った瞬間に、酷く動揺した様子で、目がぐるぐると泳いでしまう。
お互い、思うことは一致していたいようだ。
すぐにまた視線を逸らして、地面を見つめたが……。
俺たちの不自然な態度を、見逃さないマリアではなかった。
「な、なによ! その反応は!? まさか、もうキッスをした関係だっていうの!? 付き合ってもないのに?」
ド正論だった。
すかさず、俺が弁明に入る。
「いや……あの時のは、事故で……」
しどろもどろに言い訳するから、更に墓穴を掘ってしまう。
「事故でも、キスはキスよ!」
「そ、そうじゃないんだ……。アンナとじゃなくて……ダチとしたって、こと?」
自分で説明していてるくせに、なぜか疑問形。
もちろん、そんな話じゃ納得してくれないマリアさん。
「意味が分からないのだけど? 全く不快だわ、あなた達の関係性が。ハッキリしなさいよ! 聞いているの? アンナ!」
ビシッと人差し指を突き付けられたが、当の本人は“キス”という言葉に動揺しており、余裕が一切なくなってしまった。
顔を真っ赤にさせて、地面をじーっと見つめる。
この恥ずかしがる態度は、ミハイルに近い。
「え……? な、なんだっけ? マリアちゃん……」
「あなたに聞いているのよ! タクトとの関係性! キスまでしておいて、付き合ってないってどういうこと!? 遊びなら、タクトと別れて!」
泣きながら怒るマリア。
よっぽど、ファーストキスを奪われたのが、悲しかったのだろう。
相手は男だから、カウントしなくてもいいのに。
アンナと言えば、ずっと上の空だ。
「はぁ……。マリアちゃんは、アンナに一体なにをして欲しいの?」
「あなたに気安く、名前を呼ばれたくないわ。そうね……関係をハッキリして欲しいのよ。恋愛関係を望んでいるわけでもないくせに。私の婚約者をたぶらかす淫乱ブリブリ女!」
酷い言い様だ。
だが、ここまで人格を攻撃されても、アンナはポカーンと小さな口を開いていた。
頭の中がキッスでいっぱいだからだろう。
「うん……だから、なにをハッキリするの?」
「あぁ! 本当に腹の立つ女ね! じゃあ、言うわよ。あなたとタクトは、あそこに並ぶラブホテルへ行きたいかって事よ! それぐらい彼を愛してるかってこと!」
言われて、また俺とアンナは視線を合わせて、黙り込む。
何故なら“一度”だが、行ったことはある、からだ。
コスプレパーティーをしただけだが……。
「「……」」
謎の沈黙が続く。
それを見たマリアの怒りは、頂点に達した。
「なによ……なんで黙るの……。まさか! あなた達! 付き合ってもないくせに、ラブホテルへ行ったとでも言うの!?」
「「……」」
これ以上、墓穴を掘りたくなかったので、俺たちは何も答えることはせず、沈黙を選んだ。