バナー画像 お気に入り登録 応援する

文字の大きさ

あなたと会えてから

 カキーンと音が響いた。白球が高く飛び、ダイアモンドを少女が走る。彼女の名前は伊月瑠衣(いつきるい)。運動神経抜群で将来は代表にまでなれるとまで言われた逸材の子だ。
まだ中学生だが、その名前は全国にも届いてるぐらいで、高校さらにはプロのスカウトがいつも見に来ていた。
 
 そんな彼女だが、事件は突然起きた。それは、とある練習試合で
ケガをしてしまったのだ。

 しかもそれは重傷で激しい運動が一生できないケガと診断され、彼女はソフトボールを諦める
事になった。それから彼女は荒れて、喧嘩まではしなくても問題を起こしたりしてやけに
なってしまっていた。
 
 そんな瑠衣も自分が嫌になり、もう落ちるところまで落ちようと決めた。でも
どうせなら最後にうまい飯を食べようと思ってファミレスに向かった。

 しかもそこでどうせなら食い逃げとかもしてみようと思い、席についた。一番好きな食べ物を頼みその時が来るのを待ったが、その間にこれまでの事が
頭をよぎり泣いてしまっていた。

 声には出してないが周りや店員達も気づいてどうにかしようとしていた。瑠衣は色々こらえて
いたが、限界も近くなりここで暴れて終わろうと決めた。

 そんな時だった。店員が料理を持ってきた。しかも、その店員は男子で超イケメンだった。でも瑠衣にはそんなの顔を見る余裕もなかった。
 
 その店員は料理をテーブルに置き、瑠衣に一声かけた。

「それ食って忘れろ。人間、飯食ってる時が一番の幸福だ。だからさっさと食え。俺が作ったんだからな残すなよ」

 ぶっきらぼうに言っていたが、その言葉が瑠衣にはささった。涙を
拭いて言われた通り食べていく瑠衣。

「うまい。こんなにおいしいの初めてかも」

 そうして食べ終わるが、瑠衣はお金を持ってきてなかった。そう食い逃げや店で暴れようとしたので持ってきてはない。食べ終わる頃には瑠衣も泣き止んでいて
心も落ち着いてしまっていた。
 なので瑠衣はさっきの店員を呼んで正直に話した。

「ごめんなさい」

 小さい声でまた涙を流しながら言う瑠衣。それを見て店員が声をかける。

「これは貸しだ。いつか返しにこいってのは冗談だ。俺が出しとくからすぐ帰りな」
「・・・・・・あの名前は!?」

 彼はレシートを持ってレジの所に行き、事情を話していた。その後奥のキッチンに行って
しまい瑠衣は名前も聞けなかった。



 朝。伊月瑠衣は目を覚ました。どうやら彼と会った時の夢を見ていたようだ。瑠衣は星華学園
高等部に通う一年生だ。その夢は中学二年生の時の出来事だった。

「懐かしい夢。先輩、早く会いたい」

 ベッドから起きてシャワーを浴びる。準備ができ学校に向かう。学校に着くと他の生徒達も
登校していた。教室に入り、クラスメイトと談話する。瑠衣は美人で明るく男女から人気が
ある。そんな彼女はよく告白もされるが全部断っていて、それで瑠衣には恋人がいるのではと
噂も流れていた。
 しかもその恋人候補は同じ学園にいた。

 休み時間、瑠衣は教室を出る。向かったのは一つ上の学年の所。瑠衣が廊下を通ると
男子達が特にざわつき始める。

 そんな中で瑠衣は二年三組の教室に入った。瑠衣が入って来た事に驚く三組の
一同。その瑠衣はまっすぐある生徒の所に行った。

「先輩!」
「何か用か?」
「用がないと来たらダメなんですか?」
「ダメだ」
「相変わらずですね。でも、そんなところも好きでよす私は」
「そうか」

 そう言って料理本を見ているのは祠堂凍夜(しどうとうや)。容姿は超イケメンでそれは他県にも
知ってる女子学生がいるほどだ。
 でも、彼に彼女はいない。それは彼が人付き合いをしないようにしてるからだ。

 だから本当は瑠衣とも話したくないのだが、瑠衣は何をしても離れないので
しかたなくそのままにしていた。

 放課後、凍夜は店に向かう。そこに瑠衣も走って来た。

「先輩一緒に行きましょ」
「勝手にしな」

 二人は電車に乗り店のある駅に向かう。その途中凍夜に他の学校の女子達が
視線を送る。それを知ってか、瑠衣は気にせず凍夜の横でしかももたれかかる。

 二人が働いている店ファミレス、ホロスについた。

「それじゃ先輩またあとで」
「勝手に出てろ」

 それぞれ更衣室に向かい着替える。

「おはよう瑠衣」
「おはようございます。白井先輩」
「今日も旦那と一緒か」
「やだ、旦那なんてまだ早いですよ」
「なる気まんまんだな。見込みはほぼゼロだろうに」

 そう言ってるのはこの店で働いている大学生の白井凜子(しらいりんこ)だ。大人っぽく
美人でスタイルも良いので店でも人気がある女性だ。
 二人は着替えてホールに出る。この時間はまだ客も少なく少し暇だが、この店には
看板娘ならぬ看板男子がいる。

 それが祠堂凍夜だ。彼目当てに来る客が8割をしめているので客のほとんどが
女性だ。特に中学生、高校生が多い。

 注文を伺うときもよく彼はいませんかと聞かれる。その返事ははっきり言う
様にはしている。瑠衣もすぐに聞かれていた。

「今日は来てますよ」
「やったぁ!あの写真とかサインもらっていいですか?」
「それは本人しだいですね。それに今日はキッチンですから」
「そうですか。でも、じゃぁ今日は彼の料理が食べれるんですね」
「そうですね」
「じゃぁ注文しますね」

 と女子高生達は注文をする。それを凍夜に伝えに行く瑠衣。キッチンには
三人がいて、作るのは基本凍夜だ。それと言うのも凍夜はこの店の事なら
全て把握しており、店長よりも優秀だった。
 実際凍夜が料理を作ってから店の評判が上がり、繁盛していったほどだ。

 凍夜が作り終えて瑠衣が運んでいく。それを食べる女子高生達は幸せそうな
顔をしていた。

「これ本当においしいよね」
「うん。しかもあの人が作ったってなるとまた段違いだよね」

 その現象は他の客でも同じで、誰もが彼の作る料理をほめる。そしてそれは
身内でも同じだった。

「本当に器用だよな。飯も出来て接客も出来て、事務もこなすなんて。本当に
高校生か?」
「ええ。高校二年ですが」
「将来はここの店長だな」
「どうかな。ここの店長は認めてもその上が認めんだろ。俺みたいな性格の
奴はな」

 そう話してると瑠衣も話に入って来た。

「そんな事ないですよ。先輩が店長になっていつか私がその横で」
「それはさらにない。仕事に戻れ」
「先輩のいじわる。いつか絶対そうなりますから」

 瑠衣はホールに戻った。そんな感じで瑠衣は夜まで凍夜は閉店まで
働いた。先に帰った瑠衣はシャワーを浴び、部屋に戻る。

「先輩が店長に、それなら私はその先輩を支える嫁に。先輩」

 瑠衣は妄想しながら知らない間に眠りについた。そんな感じで瑠衣は
一日を過ごしていた。
 

しおり