191章 期待されていない焼きそば
開店時刻になると、大量の数のお客様が入ってきた。
「ミサキちゃんの焼きそばを10人前」
「ミサキちゃんの焼きそばを20人前」
1人で10人前、20人前の焼きそば調理は絶対に無理。そんなことをしたら、腕は使い物にならなくなる。
焼きそばを大量注文した女性たちに、シノブは事情を説明していた。
「たくさんの人に食べてもらいたいので、1人1人前までとさせていただきます」
大量に食べられないことを知った女性は、トーンダウンすることとなった。
「ミサキちゃんの失敗作を、たくさん食べられると思ったのに・・・・・・」
「真っ黒こげの焼きそばを食べてみたかった・・・・・・」
「生焼けの肉を期待していたのに・・・・・・」
「ソースかけ過ぎの焼きそばを食べたかった」
「全く味のない焼きそばも面白そう」
「油を投入しすぎるのもあるんじゃないかな」
「油を入れずに、フライパン焦げましたもありそう」
料理をする前から、失敗すると決めつけてしまっている。素人の調理スキルは一ミリたりとも、信用されていないようだ。
「ミサキちゃんの失敗作は、愛着が沸くよね」
「確かに。ミサキちゃんならいいと思える」
「ミサキちゃん、すっごく期待しているよ」
「ミサキちゃん、ファイトだよ」
ミサキは営業スマイルを作ろうとするも、顔は明らかに引きつっていた。
焼きそば店に見覚えのある顔がやってきた。
「ホノカさん、ナナちゃん、いらっしゃい」
ホノカは薄化粧をしているのか、いつもとは違った雰囲気を醸し出している。化粧をするだけで、ここまで変わるのかなと思った。
「ミサキちゃん、久しぶりだね」
ナナはノーメイクで、素肌の良さを感じさせた。
「今日はどうしたの?」
「ミサキちゃん焼きそばデーと知って、3時間前から列を作っていたよ」
ホノカは太腿を何度もたたいていた。長時間待ったことで、足が吊ってしまったようだ。
「ミサキちゃんはどんな焼きそばを作るのかな。とっても楽しみだね」
「調理をしていないから、作るのは難しいと思うよ」
「炭焼きそばを食べることになるかもね」
炭焼きそばといった女性に、ツッコミを入れた。
「ホノカちゃん、そこまではいかないと思うけど・・・・・・」
雑談タイムかなと思っていると、店長から声をかけられた。
「ミサキさん、調理をお願いします」
「わかった。調理してくるね」
「お客様の期待を、いい意味で裏切ってくださいね」
「うん。最大限の力を尽くす」
ミサキは厨房に戻っていく。真っ黒こげの焼きそばを期待している、女性4人組を絶対に見返してやりたかった。