348 さあ、やるか！
第一村人との遭遇？まあ、とにかく挨拶しないとな。
『はじめまして。俺はゲン。訳あって親方に工房を借りることになったんだ。よろしくな』
『なんだと？あの自分が認めたやつじゃなきゃ工房に足を踏み入れることさえ許さない親方が工房を貸すだと！？』
お～すげえな。息継ぎもせずに一気に。ん？足さえ踏み入れさせない？
『そうなのか？』
いやにあっさり入れてもらったが？
『おう！当たり前だろ？工房は神聖な場所だからな！下手なやつは入れねぇよ！』
じゃあ、なんで俺は？と思っているのが顔に出たのか、弟の方が
『おいおいゲン、お前は既に規格外ぶりを十分に発揮してるからな？』
なんで呆れたような顔をされてるんだ？俺は
『お前、鍛冶神様に認められてんだろ？鍛冶神様ってのは俺ら鍛冶を生業としているドワーフにとっては唯一無二の存在なんだぞ？』
『そんなすげぇやつを認めねぇ訳ねぇだろよ』
な、なるほど。鍛冶神とだいぶ遊んだからな。やり過ぎたか？それにしたって兄弟でその呆れ返った顔、酷くないか？
『な、なんだと？鍛冶神様の眷属様か？』
ん？第一村人さんになんか言われたぞ？眷属？
『俺はごく普通の人間だぞ？』
だよな？若返りはしたが
『お前、どこが普通だ！』
『普通が気の毒だ！普通に謝れ！』
いや、なんのこっちゃ？普通に謝れ？
『違うのか？なんにしても、ただもんじゃねぇってことは分かった。んで、火入れしてるってことは、なんか打つんだよな？』ふんすっ
第一村人さんが何やら興奮してるな。なんでだ？
『お前⋯自覚しろって言ったばかりだろうがよ』
『諦めろ。弟よ。無理だ。俺たちが慣れるしかねぇ』
『そうか。そうだな⋯』
『ああ、そうだ⋯』
なんで黄昏てんだよ。
『おぉ！そうだ。おい、ちょっと頼まれてくれるか？大事な話があるんだ。村人一人残らず集めてくれるか？神が関わる話だ』
親方が第一村人さんに真面目な顔をして頼む。
『なんだと？分かった。先に長老達から声かける。女衆もだよな？』
第一村人さんも真顔で応える。
『ああ。全員だ。頼んだぞ』
『おう！任せとけ！』
そう言うとサッと動き出す第一村人さん。
『あいつも長老の一人だからな。任せときゃ大丈夫だ』
『ずいぶん若々しい長老だな』
『そうか？』
『みんなあんなもんだぞ？』
『そうか』
まあ、親方たちも若いしな。当然か？
『おし、とりあえず、打ってみろ！あの握り鋏打つんだろ？』
『俺たちも打てるようになりたいからな！頼むぜ！』
おお？鼻息荒いな！
『わ、分かったよ。水被ってスッキリしてからやりたいんだが、どっかにあるか？あと、神棚みたいなものとか』
やっぱり、長年続けてきた習慣は、新しい世界に来ても変えられないみたいだな。
『ん？泉が小さいがこの工房の横にあるぞ？』
『神棚ってのは、分からんが、俺たちは火に向かって祈るぞ？』
なるほど。やっぱり神棚ってのは独特な文化だったんだな。
『分かった。悪いが、借りるな』
『おう！』
さて、建物の横⋯おお、綺麗だな。泉に映る自分の姿を見ると未だに信じられない若返った姿が⋯。
本当に生き返って異世界に生きているんだと痛感するな。
せっかく二度目のチャンスを貰ったんだ。今度こそ守らないとな。そのためにも出来ることから、だな。さて、
ザバーッ
そばにあった桶を借りて頭から水を浴びる。本当は全身使って禊をしたいとこだが、今はこれで勘弁してもらおう。
ザバーっ
ふぅっ。冷たくて気持ちいいな。それじゃ、行くか。
パンっパンっ！
両頬を叩いて気合を入れる。
ギィィ
『おう！戻ったか⋯ほぉ、顔つきが変わったな』
『ああ。いい面だ。水を浴びたのは、さしずめ儀式の一つってとこか？』
親方達はさすがに鋭いな。まあ、禊とまではいかないがな
『まあ、そんなとこだ。ここで祈るのは鍛冶神か火の神なのか？』
火の神っているのか？
『神は鍛冶神様だな。火はこの世界じゃ精霊様だな』
親方たちも必ず祈ってから始めるという。
『なるほど。お供え物はするのか？』
『ん？酒を捧げたりはするぞ？』
なるほど。
『悪いが、酒を少し貰えるか？俺はまだ酒は作ってないんだ』
『おう！いいぞ。ほらよ』
懐から？常備か⋯
『大丈夫だぞ？これは神に捧げるように持ち歩いてるやつだからな？俺はこれを飲んだりしねぇよ？』
それは、疑って悪かった。流石だな。
『じゃあ、ちょっと貰うな』
『おう！』
有難く酒をいただき、塩と水と一緒に供える。初物もいるか？おにぎりでいいかな？一応上げとくか。
姿勢を正して二拝二拍手一拝。
それで更に気を引き締め、深呼吸をし、炉に向かうと、一気に周りが静かになる。
火に集中し、用意した石を打ち始める。
その様子を後ろで見ていた親方達は⋯
『すげぇな。何かが取り憑いたみてえだな』
『ああ。一気に集中して自分の世界に入り込みやがった』
『恐らく、周りの音は何一つ聞こえてないだろうな』
親方兄弟だけでなく、一足先に集まった長老衆も、一心不乱に石を打つゲンの姿に見入っていた。
もちろん、先程の長老も呼び掛けは若い信頼出来る者に任せ、戻って来ている。
長老の中の何かが、早く戻れと訴えていたからだ。
『ただもんじゃねぇとは思っていたけどな』
『ああ。あれは石を打ちながら伸ばした石を折ってるのか？』
『なるほどな。ああやって層を重ねてるのか』
『あれを見せてもらった鋏の薄さにまでするのか？』
『いや、違う種類の石も鍛えだしたぞ？』
『さっきのは魔鉄だろ？今度は魔鉱石？混ぜて打つわけじゃないんだな』
『硬さの違う石を用意してたよな？兄貴』
『ああ。柔らかい物と硬いものを見てたな。さすがにヒヒイロカネから打つことはやめてくれて助かったぜ』ふう⋯
親方が溜息をつきながら零すと
『ヒヒイロカネだと？幻の石じゃねえか！』
長老の一人が驚きの声を上げる。
『しっ！そのことは悪ぃが後だ。なにか始めるぞ』
『分かったよ』
何が始まるんだ？
『あれは、魔鉱石に魔鉄を？』
『内側に柔軟性のある石を使い外側に硬い石を持って来ることで、切れ味だけじゃない。柔軟性と強度両方を手に入れるのか！』
しかもどんどん薄くなっていく
『こんな技法が⋯』
親方たちも次第に声を失っていく。しばらくして
『兄貴、あれは鋏を作ってるんだよな？』
弟が親方に尋ねる。
『ああ』
『とても鋏の形には見えないんだが』
両端に突起がある一本の棒状のものがいくつか
『もしかして、あれを曲げて噛み合わせるんじゃないか？ 』
『え？二つのものを繋ぐんじゃないのか？』
『確か、裁ち鋏とか言うのと、サーヤの工作鋏は二つから出来てたな。握り鋏ってやつは確かに一本にも見えた』
『そうか。曲げた部分に藁みたいな物が巻かれていたから、あそこが結合部だと誤解したのか』
『だとしたら、余程計算づくで作らないと、合わせは難しいよな？別のものを組み合わせて作るなら、二つを重ねて確かめることも出来るが』
長老の一人がとても信じられないと目を見開いている。
『ああ、あれだと重ねて確かめることは出来ねえ。曲げて始めて分かるってことだな』
『しかも、曲げ方一つ、間違うことも許されないわけだよな？』
『ああ、刃先が合わねぇ鋏は使えねえ。しかもあの鋏にはまだ重要な特徴がある』
『あっ』
弟は思い出したようだな。
『そう。反りだよ』
『そうだった』
『反りだって？』
『そんなことが可能なのか？』
ザワつく長老たち。
周りのざわめきには目もくれず、刃つけのために次の作業へいくゲンだが、
しまったグラインダーないよな？現代社会のありがたみをここで感じるとは⋯
仕方ない。ひたすら砥石だな。幸い、若返ったおかげか、まだ、体力は大丈夫そうだしな。
おぉ！さすが親方、砥石も種類があるな。ありがたく使わせてもらおう。足りない分はその内作ろうとか、考えていたのだが
『何か、真剣に空を見つめてるな』
『精神統一か？』
『なんか、神がかって見えるな』
『さすが鍛冶神様の眷属様だ』
『ありがたや』
いつの間にか拝まれているおいちゃん。
⋯その頃、聖域では、みんなでお茶をしながら、まったり
『サーヤちゃん、ヨーグルトおいしいですか？』
「あい！」
『凍らせたベリーを入れても美味しいんですね』
「あい。あいしゅみちゃい」
おいちゃんいないから、簡単に出来るデザート。ギン様に、ベリーを凍らせてもらいました。
ヨーグルトとまぜて、なんちゃってヨーグルトアイスでおやつです。
「どりゃいふりゅーちゅ、いれてみょ、おいち。ひちょばんおいてみょ、おいち。ふしぎ、にゃる」
『不思議ですか？それは是非』
『やってみましょう』
『ドライフルーツ』
『たくさん作らないとですね』
「あい！」
山桜桃ちゃんと春陽くんが、やる気満々です。
〖うふふ。サーヤ大活躍ね〗
「えへ～？」
そうかな？そうかな？あっ、そういえば
「にぇーねぇ～。じーにしゃま」
〖なあに？サーヤ〗
「おいちゃん、じぇったい、にゃにか、ちてるよにぇ？」
おいちゃん、普通じゃないのに普通だと思ってるもんね。
〖あ～ねぇ。やらかしてるでしょうね〗
「やっぱちぃ？」
〖間違いないわねぇ〗
「しょっか～」
周りじゅう、うんうんと頷いてました。
頑張れ！おいちゃん！
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