過去
次の日、わたしたちは一緒に大学まで向かった。
「じゃあ、またお昼休み!」
「はい」
そう言って、わたしたちはそれぞれの授業へと歩いて行った。
教室に行くとひまちゃんはいなかった。
(ひまちゃんは…… 仕事かな? まあ、昨日のことがあって、ちょっと気まずいから、いなくて良かったと思おう)
そんなことを考えていると、チャイムが鳴り、授業が始まった。
わたしは授業の間、ずっと陽菜さんのことを考えていた。
(陽菜さんはどうしてわたしのこと好きなんだろう…… 好きだって言ってくれるのはうれしいけど……)
やはり理由がわからないと陽菜さんのことを真剣に考えられないような気がした。
(よし! お昼休みに聞いてみよう!)
___
お昼休み、わたしは食堂で陽菜さんとご飯を食べていた。
「陽菜さん」
「はい?」
「陽菜さんはどうしてわたしのこと好きなんですか? 昔会ったことがあるって言ってたけど、どこで会ったんですか?」
「……できれば、彩花さんに思い出して欲しかったのですが……」
「ごめんなさい…… 思い出せる気がしなくて……」
「……昔、彩花さんはわたくしの家の近くに住んでたんです」
「え?」
(嘘……? 陽菜さんの家の近く? でも陽菜さんの家ってお金持ちだよね? そんな家、近くになかった気が……)
「それ、本当にわたしですか?」
「はい。間違いありません。昔よく一緒に遊んでいたのですが、彩花さんは急に引っ越してしまって……」
(引っ越しった……てことは、わたしが六歳くらいの時?)
「わたしは彩花さんによく『さくらちゃん』と呼ばれていました」
(さくら……ちゃん…………?)
わたしはかなり考え込んだ。
(さくらちゃん…… さくらちゃん……)
「さくらちゃんって…… あ!! 思い出した!! え、あのさくらちゃんって陽菜さんだったの!? えええ!?」
確かにわたしには小さいころによく遊んでいた女の子がいた。
「やっと思い出してくれましたか」
「うん! そうだ、さくらちゃん! よく一緒に遊んでた!」
(さくらちゃん、懐かしいな~! すごい成長してるから気がつかなかった!)
「お父さんの転勤が決まったのがすごい急だったから、誰にも何も言えないまま引っ越しすることになっちゃったの」
「そうだったんですか…… あの時、急に彩花さんがいなくなったので、とても悲しくて……」
「そうだったんだ。ごめんね?」
「いえ。こうしてもう一度会えたので大丈夫です」
「あ、それでわたしのこと好きなのはどうして?」
「わたしは子供の頃から彩花さんのことがずっと好きでした」
「え?」
(確かにさくらちゃん、よく『大人になったら結婚しようね』とか言ってたけど……)
「それは結局いつになっても変わらなくて…… おかしいですよね、子供の時の話なのに。でももう会えることはないと思ってたので、諦めていたんですけど…… 彩花さんにあの日もう一度会えて…… 本当にうれしかったんです」
「そう……だったんだ……」
陽菜さんは少し目がうるうるとしていた。
「陽菜さん、ずっと覚えててくれてうれしいよ、ありがとう。わたしもこれから陽菜さんの結婚のこと真剣に考えるから」
陽菜さんに好きだと言われ、キスをして、陽菜さんのことを意識し始めているのは事実だった。
「!! 本当ですか……」
「うん! これからさくらちゃんって呼んでもいい?」
「……っ!! はい!」
陽菜さんはとてもうれしそうだった。
わたしはようやく陽菜さん…… いや、さくらちゃんのことを理解できたような気がした。