兆候
「彩花さん、朝ですよ、起きてください」
(うーん、もう朝か……)
目覚ましの音が聞こえ、とりあえず音のする方向に手を伸ばす。
『むにっ』
(なんかすごい柔らかいな…… わたしの目覚ましってこんな柔らかかったっけ……)
そう不思議に思ったが、わたしは目覚ましを止めようと手をを動かす。
「ん…… あ、あの、彩花さん……」
自分の名前を呼ぶ声が聞こえたので、さすがにおかしいなと思い、わたしはゆっくりと目を開ける。
「うーん、あれっ、陽菜さん… おはようございます」
(そうか、昨日陽菜さんが泊まりに来てたんだった……)
「お、おはようございます…… 彩花さん…… その…… 手が……」
「手……?」
わたしはそこで初めて陽菜さんの胸にわたしの手があることに気づく。
そう、目覚ましの正体は陽菜さんだったのだ。
「え!? あ!? いや! あの!! えっと…… ご、ごめんなさい!!」
(は、恥ずかしい!!)
「いえ…… 大丈夫です…… そ、それに彩花さんにならいくらでも……」
「え?」
「な、なんでもありません/// 早く準備して学校行きましょう!」
(陽菜さんもめっちゃ照れてる! 可愛い!)
「彩花さん?」
「あ、はい!」
わたしは昨日の陽菜さんとのギャップに少しキュンとしながら、学校に行く準備をし、二人で学校に向かった。
「彩花さん、今日はわたくしの家に泊まりにきませんか?」
「いいですよ!」
昨日あんなことがあったが、一人暮らしの家にお泊りするのはなんだか大学生っぽくて純粋に楽しい。
「じゃあ、また放課後。一緒に帰りましょう」
「はい!」
そう言って私たちはそれぞれの授業に向かった。
___
「彩花ちゃん!」
教室に入るとひまちゃんがこっちこっちと手招きをしている。
「ひまちゃん! おはよう~」
「おはよう! 彩花ちゃん!」
「あれ?ひまちゃん今日は囲まれてないんだね?」
昨日あれだけ人に囲まれていたのに今日はひまちゃんのまわりに人がいない。
「その、他の人の迷惑になるかなあと思ったから、思い切って『迷惑です!』って言ったの。ちょっと言い方きつかったかなって反省はしてるけど……」
(おお、意外と勇気ある!)
「ひまちゃん、すごいね!」
「え? どうして?」
ひまちゃんはきょとんとしていた。
「そんなことはっきり言えるってことはひまちゃんがちゃんとまわりを気遣える人ってことでしょ? わたしだったら言えないもん! それに反省するってことは優しい人の証拠!」
「……! さ、彩花ちゃん! ありがとう!」
ひまちゃんはそう言うと、わたしにギュッと抱きついてきた。
「えへへへへ///」
「わたしやっぱり彩花ちゃんのこと好きだな~」
(うっ、可愛い!)
「ん? やっぱり?」
「うん! わたし昔から芸能活動やってて、近づいてくる人たちはみんな『加賀《《向日葵》》』と友達になりたいんじゃなくて『加賀《《ひま》》』と友達になりたい人たちばっかりだったから……」
「そうだったんだ……」
「でも彩花ちゃんは、わたしのこと知らなくて仲良くなろうとしてくれたのがすっごいうれしかったの! ありがとうね!」
「い、いやいやいやいや、こちらこそ! わたしもひまちゃんと友達になれてうれしいよ!」
「うん! これからもよろしくね、彩花ちゃん!」
「うん!」
そんな会話をしていると、チャイムが鳴り、先生が話し始め、授業が始まった。