受付ショタ
結局、母さんに相談しても、腐女子の落とし方なんて分からなかった。
とりあえず、変態のおぞましい願望が常に脳内で漂っているのは、把握できたと思う。
近隣の警察署に届け出しておくか。
気がつけば、夏休みもあと一ヶ月。
もう8月だ。
窓の外からは蝉の鳴き声が聞こえてくる。
クーラーをつけているから、窓は閉め切っているというのに。
ったく、余命一週間の生き物なんだから、そんなに叫ぶなよ……。
なんて思っていると、一本の電話が。
珍しい名だ。
ロリババア。
出版社である博多社、俺の担当編集部員、白金 日葵。
「もしもし」
『あ、DOセンセイ! 今、暇でしょ? 久しぶりに打ち合わせしますよ!』
だから、どいつもこいつも、なんで俺を勝手に予定無しと決めつけるんだ。
「打ち合わせ? なんの?」
『実は表紙絵と挿絵をトマトさんが、ついに完成させたんです! DOセンセイにも是非見てほしくて!』
「なるほど。それは楽しみだ」
『ええ、じゃあ。あと一時間以内に編集部まで、おなしゃす!』
と一方的に電話を切られる。
クソがっ!
まあ、どうせ今日は夕刊配達も休みだったし、明日の朝まで何もすることない。
久しぶりに外出するか。
※
久しぶりの天神は、殺人的に日差しが強く、アスファルトから熱気がむんむんと跳ね返ってくる。
二重で暑苦しい。
喉がカラカラだ。
相変わらず、バカみたいに目立つ巨大なビル。
博多社。
自動ドアを通り過ぎると、すぐに受付のカウンターが見えた。
だが、今日はいつも何か様子が違う。
普段ならば、
「あら~ 琢人くん~」
なんて倉石さんが声をかけてくれるのに。
受付嬢ではなく、受付男子? とでも言えばいいのだろうか。
かなり若い男性……いや、男の子か。
頬がまだ赤く、幼く見える。
天然パーマのショートボブ。
大きな瞳に童顔。髪型も中性的で、少し間違えれば、女の子に見えそう。
そんな彼は、上下真っ白な制服を纏っている。
細身のボタンジャケット、タイトなスラックス。
この受付にいなければ、海軍のセーラー服のようだ。
俺が黙って突っ立っていると、
「あ、あの……我が社に何か御用でしょうか?」
なんて、たどたどしく声をかけてきた。
初対面の俺にかなり脅えている。
「お前、誰だ? 倉石さんはどうした?」
不思議に思った俺は、彼の顔をじっと見つめる。
「ひぃっ! く、倉石さんは異動となりました。今はBL編集部で編集長をやっています……」
「ああ。そう言えば、そうだったな」
忘れてた。
それにしても、この兄ちゃん。
なんでこんなに脅えているんだ?
「お前、随分若いな。年はいくつだ? 名は?」
「ひ、ひぃ! ぼ、僕ですか……年齢は16歳です……名前は、
俺より年下か。
「住吉 一か。認識した。俺は新宮 琢人。一応、お前より年上の作家様だ」
とりあえず、マウントを取っておく。
「ひぃ! これは作家様でしたか! では、どちらの編集部にお繋ぎすればいいでしょうか?」
なぜ涙目なんだ?
別に住吉が悪いわけではないが、見ていると、いじめたくなるな。
「ゲゲゲ文庫のバカを呼んでくれ」
「あ、倉石さんより伺っております。白金さんですね。少々、お待ちくださいませ。新宮様」
なんて律儀に頭を垂れる住吉。
ヤベッ、超気持ちイイわ。
母さんの言っていたショタをいじめる快感ってのは、こういうことなのか?
ちょっと、癖になりそう。