受験生の禁断症状
山笠は無事に終了した。
今年の夏は、誰一人として、ケガもなく死人も出ず、最高に盛り上がったお祭りだった。
しかし……俺の中で終わらなかったものがある。
それは、腐女子である北神 ほのかの攻略法だ。
どうやったら、あんな変態とヤンキーを恋仲に出来るというのか。
無知な俺にはわからん。さっぱりだ。
もうお手上げ。
だって、ほのかのやつ。
追い山を見たあと、鼻息荒くして。
「私、すぐに家に帰るわ! 忘れる前に早く生ケツで絡めたいもの!」
なんて徹夜明けで、創作活動に勤しんでいたものな。
同じ創作者として、あの情熱を少し分けてもらいたいぐらいだ。
ただし、変態の部分はカットして……。
だが、マブダチのリキには助力したい。
その恋が叶うことは無くても、少しでもあの二人が仲良くなってほしい。
俺が想う……この心に噓偽りはない。
自室で机の上においたノートパソコンで、
『腐女子、恋愛』
なんてネットで検索しても正解が見えてこない。
仕方ない。
うちに成功例が一人いるじゃないか。
真島のゴッドマザーこと、琴音母さんだ。
リビングに向かうと、テーブルに座る妹のかなでが目に入る。
珍しく勉強をしていた。
そうか。こいつも中学3年生の夏だものな。
ぼちぼち高校への試験勉強か。
顔を真っ赤にして、教科書とにらめっこ。
なにやら不機嫌そうだ。
近寄って見ると、英語の参考書だ。
正直、俺の通っている一ツ橋高校の問題より難しそうだ。
「クソがっ! ですわ!」
かなりストレスが溜まっているようだ。
いつも男の娘の18禁ゲームで遊んでいる変態妹の顔ではない。
キッチンで皿を洗っていた母さんが俺に気がつく。
「あら、タクくん。どうしたの?」
相変わらず、裸の男たちが絡み合ったBLエプロンを首からかけている。
いつ見ても痛い光景だ。
「母さん。ちょっと質問があるのだが……」
すると、近くで勉強していたかなでが、ブチギレる。
「おにーさま! 集中できませんわ! おっ母様とお話されるなら、離れた所でしておくんなまし!」
怒られちゃったよ。
「わ、悪いな。試験勉強中に……」
「そうですわ! かなでは高校なんてどうでもいいのですけど。おっ母様が進学校を勧めるから勉強を無理してやっているのですわ! あー、イライラするぅ! 合格するまで男の娘ゲーで抜けないなんて! あー、発狂しそうですわ!」
盛りのついた受験生だこと。
俺は自室に戻って、母さんと二人で話すことにした。
だが、リビングから離れる際、かなでの怨念のような独り言が聞こえてきた。
「あ~ ケツ……マンホールって、言いたいですわ! 男の娘とショタのプリッケツンのマンホール! マンホールって叫びたいですわ! マンホール……マンホール……マンホール……」
言ってるじゃねーか!
自室に戻って、不安を感じた俺は母さんに訊ねる。
「質問の前にいいか? かなでのアレ。大丈夫なのか?」
「えぇ、腐女子の受験生なら、誰しもが経験することよ。懐かしいわ。母さんもおばあちゃんから薄い本を奪われた時は、問題の空白を全部、ケツで埋め尽くしたものよ」
なんて天井を見上げながら、思い出している。
「母さん。腐女子ってそういうものか?」
「そうよ~ 愛らしいでしょ」
どこがだ! 普通に怖いわ!