263章 テオスの衰え
仕事を終えて、自宅に戻ってきた。
「今日は失礼しました」
テオスの表情を見ていると、息切れをするのは想定外だったようだ。
「いえいえ、気にしないでください」
「アカネさんの仕事をするにあたって、足手まといになってしまいましたね」
アカネは愛想笑いを作った。
「そんなことはありません」
心の中にある本音を押し殺す。仕事をするにあたって、重要事項といえる。
「超能力を使ったことで、体力は底をつきました。明日からの体力を補充するために、15時間くらいの睡眠を取らせていただきます」
超能力を使用すると、睡眠時間は格段に増える。便利すぎる能力は、諸刃の剣になってしまっている。
テオスが休もうとする前に、部下がこちらにやってきた。
「テオス様、体は問題ないですか?」
「はい。問題ありませんよ」
1対1で話すときも、敬語を使用する。言葉遣いに気を配っているのを感じ取った。
「テオス様は30000歳です。無理をしないでください」
テオスの実年齢を知って、顎が割れそうなほどの衝撃を受ける。
「テオスさんは30000歳ですか?」
「はい。私は30000歳です」
日本の過去最高記録は、119歳である。2つの0を加えたとしても、テオスの年齢の半分にもならない。
「30000年も生きるのはすごいですね」
「そうですね。30000年を生きられたのは、私の誇りです」
30000年を生きるために、どんな努力をしていたのかな。テオスの送ってきた生き方に、ものすごい興味を持った。
「テオスさんの世界の平均寿命はどれくらいですか?」
「10000年くらいですね」
平均寿命で10000年。人間の世界では、絶対にありえない数値だ。200年も生きれば、世界のトップニュースとなる。
テオスの部下は、新しい情報をもたらす。
「過去最高齢は50000歳です。テオス様は記録を更新するために、健康に気を配っています」
最高記録を更新するためには、20000年を生きる必要がある。果てしなく長い道のりが必要となる。
「アカネさん、昨日の肉を食べたいです」
「いいですよ。どれくらいの量が必要ですか?」
「20人前を食べたいです」
「わかりました。20人前を準備させていただきます」
テオスが全部食べてしまったので、冷蔵庫の中にある「セカンド牛+++++」は0である。提供するためには、新しいものを購入する必要がある。
テオスが20人前の肉を食べると知って、部下は驚きを隠せなかった。
「テオス様、食べ過ぎではないですか?」
体内に食べ物をためられるとはいっても、20人前の肉は多すぎるのかな。テオスの世界の食事事情を知らないので、何ともいえない部分がある。
「アカネさんと一緒に仕事をして、急激な体の衰えを感じました。最後においしいものを食べて、生命と全うしたいです」
テオスの瞳からは、死を覚悟しているのを感じ取った。
「瞬間移動能力を使用したからといって、体力を消耗するわけではありません。瞬間移動で疲れを感じたのは、急激な体の衰えから来ています」
これまではできていたことが、できなくなっていく。死の階段を確実に上っている。
「私たちの世界では、激しい疲れを感じるようになったら、死ぬといわれています。私はそれに当てはまっているので、近いうちに死ぬことになるでしょう」
疲れを感じる=人間界の膵臓がんみたいなものなのかな。テオスの世界の健康については、未知数な部分がある。
「今回の仕事を終えたら、第一線から退きます。あとのことについては、ソラに託そうと思います」
「テオス様・・・・・・・」
「私の体力では、トップを続けることはできません。後継者を育てていく必要があります」
部下の瞳から、透明な液体が流れる。
「テオス様がトップを退いたら、街は立ち行かなくなってしまいます」
「そんなことはありません。私がいなくなっても、街は回り続けるでしょう」
誰かがいなくなったとしても、他の誰かによって社会は回っていく。歴史はそのことを証明し
てきた。