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緑の山々が連なり、穏やかな湖には鳥たちが集まる。

自然豊かで、国民たちの笑顔が耐えない唯一の王国。


ガレッタ王国は500年続く王国だが、一度も戦争を起こしたことがない平和な国だった。

商人が多く、どの家庭も少ない賃金で質素な生活を強いられている貧しい国でもある。

しかし、多くの自然に囲まれ、優しい国王を中心に成り立っていた。



そして、このガレッタ王国には、容姿端麗で国民からも愛されているルア・アスランという姫がいる。





「あら?ルア姫、また遊びにきたの?」


国の中心にある城は、国民たちの住みかに囲まれている。


そのうちのフランという町にルアは1人で顔を出すことが多かった。

他国では国の姫がこうして1人で町をうろつくことはないだろうが、この国では日常だった。




「ノエルおば様、こんにちは。はい、アンナのところに遊びに」


ルアにはアンナ・オベールという友人がいた。

アンナは町娘で本来であれば、姫と町娘が関わることはないだろう。


しかし、ルアは自由に城の外を歩き回っており、2人に接点が生まれた。


アンナの年齢は17歳で、16歳のルアとは1つしか違わない。

気が合ったということもあり、2人はもう5年の付き合いになる。



「ルア姫、アンナちゃんのところに行く前にこれ持っていってくださいな。今朝取れたての林檎ですよ」

「わー!嬉しい!ノエルおば様の林檎美味しいですよね!」


この国の住人は男も女も関係なく、皆働いている。

ノエルのように農園を持ちそれを売って商売している人もいれば、医者や役人もいる。


ただ平和な国であるため犯罪もほとんどなく、お互いが協力して生活を営んでいるのだ。



ノエルの経営する店を左折すると、すぐにアンナの家がある。

アンナの家はそれほど裕福ではなく、家も家族3人生活するには狭いと感じられるくらいの小さな木の家だ。

アンナの両親は自宅から少し離れた場所で小料理屋を営んでいる。

アンナはこの間、留守番をしながら趣味である花の世話をして過ごすのだ。





「アンナ!今日も天気が良くて良かったね」


家の裏で何種類もの花を育てているアンナを見つけると、長い髪をなびかせてルアは近づいていった。

そばかすが特徴のアンナはルアに気づくと、太陽のような笑顔で迎えてくれる。



「ルア姫、こんにちは。最近は良い天気が続いていて、花がよく育って嬉しくなりますね」


アンナの顔には泥がついており、花の手入れをしていたことが分かる。

花の世話をしているときのアンナの表情はとても柔らかい。




「この前教えてくれた花……ユリ?花咲いた?」

「まだですよ。ユリはなるべく日陰に植えてあるので、順調に育ってますし、もうそろそろ開くと思うんですけどね」


ルアはここに来る度に、アンナから様々な花について教えてもらっている。

その中でも特にルアはユリの花を気に入り、いつ花は開くのかと待ち遠しい気持ちでいっぱいなのだ。



「あ、そうそう。ルア姫、この胡蝶蘭、綺麗に咲いたので、お部屋にどうぞ」


時々やってくるアンナからの花のお裾分けだ。

自分の育てた花から、綺麗に咲いたものや見た目がかわいらしいものなど、これまでも多くの花をもらってきた。

ルアの部屋を見たことはないが、ルアに合う花をアンナなりに選んできたのだ。



「ありがとう!この花もかわいい!」


胡蝶蘭をもらうのは初めてだった。

花のことには素人であるルアの知識に1つ、胡蝶蘭が加えられた。

胡蝶蘭は手入れも楽で、花の世話が苦手なルアにも出来るだろうと選んだという。



一国の姫であるにも関わらず、護衛もついていなければ世話役もいない。

そのため、もらった花はアンナから教えてもらった方法でルア本人が大切に世話をしているのだ。



「アンナ、この林檎ノエルおば様から頂いたの。少し休憩にして2人で食べよう」

「ノエルおばさんまたくれたんですね。美味しいんですよねえ、おばさんの林檎」


ノエルが林檎を分けてくれるときは、ルアとアンナの2人分を持たせてくれる。


頻繁に城を抜け出し、町へと遊びに来るルアは近隣の住人たちとは顔見知り。

さらに、アンナと仲が良いことも周知の事実で、こんな2人を町の人たちは温かく見守ってきたのだ。



「やっぱり美味しいね、ノエルおば様の林檎」


アンナの花畑の隣にある大きな石の上に、2人で仲良くならんで林檎にかぶりつく。

姫だからと言って、ルアが上品に食べることはない。

気持ちの良いくらい強引にかぶりつくのが、ルアの林檎の食べ方だった。




「こうして見ると、ずいぶん花の種類も数も増えたね」


アンナが花を育て始めたのは3年前から。

まずは3種類の比較的育てやすいものから始め、今では20種類を越える。



「実はそろそろ花売りを始めようかなって」


1人で世話できる範囲は限られているため、本格的に仕事として始めるにはまだ花の数が少ないと思われるかもしれない。

しかし、この辺りで花売りの仕事についている人はほとんどいないため、需要はあり高額で花を売ることも可能になるかもしれない。

アンナの育てた花はよく手入れが行き届いており、おそらく人気の商品になることは目に見えている。


両親だけの収入では贅沢は出来ないため、家族を手伝うという目的にもなる。

アンナの判断は正しく、きっと成功するだろうとルアは思った。



「そう言えば、ルア姫。城の外に出るのは、控えた方がいいかもしれないですよ」

「どうして?」

「最近、噂が広まってるんです。若い女性がさらわれていると」

「人さらい?」

「はい。この辺りはまだ被害がないみたいですけど、城から離れた場所ではよく若い女性がいなくなっているみたいです」


ガレッタ王国は長年平和な国が続いていたが、最近は不穏な噂が城周辺に広まっていた。

城周辺は役人も多く、警備も整えられているため、今のところ被害は出ていない。



しかし、城を少し離れたところでは若い女性が突如姿を消すという事件が発生していた。

この事件のことは、ルアの両親である国王と王妃の耳にももちろん入っている。

国民のためにと尽力しているが、未だに犯人を捕らえるこもは出来ていないのだ。



「だからルア姫。こちらには余り不用意に出歩かない方が良いかと。出歩くのであれば、必ず護衛をつけてもらってくださいまし」


ルアには専属の護衛がついていない。

幼い頃には貫禄のある護衛がついており、外に出る際には必ずお供していた。



しかし、その護衛の目を掻い潜って脱走していたため、いつしか国王も護衛をつけずに我が娘を外に出すようになった。

ここからも、この国が平和であることを物語っていることだろう。



「わたしも気を付けるようにするけど、アンナもね。さらわれないように」

「やはりルア姫はお優しいですね。私の心配までしてくださるなんて。ありがとうございます」

「当たり前じゃない。友人なのだから」


アンナは姫の友人でいられることに、感謝と嬉しさを感じた。

アンナの他にも同じ年頃の若者はこの町にもいたが、ルアが心を許しているのはアンナだけ。

姫の唯一の友人と言っても過言ではないのだ。


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