サブヒロインが勝つのは難しい
俺とひなたが駄弁っている間に、注文していた料理が出来たようだ。
会計は先払いで、事前にレジでブザーを渡されている。
テーブルの上に置いていたブザーが二つ揺れ出す。
「あ、出来たみたいですね♪」
「だな。ひなたは待っていろ。俺が受け取ってくるよ」
「え。いいですよ~」
少し頬を赤くして、恥ずかしそうにするひなた。
「いや、こういうことは男が率先してやるもんだ。女の子のひなたは座って待っていてくれ」
「せ、センパイがそこまで言うなら……」
ひなたは男勝りというか、ボーイッシュな感じだから、あんまりこういう扱いに慣れていないようだ。
可愛らしいもんだな。
俺は厨房近くのカウンターまで行き、店員に片方のブザーを見せる。
「ハンバーガープレートの方ですね~ ポテトを大盛にしておきたました~」
サングラスをした若い女性店員。
「え、大盛?」
「はい。サービスです」
ニッコリ微笑む。
「あ、ありがとうございます……」
俺は首を傾げながら、トレーを受け取る。
「すいません。あとこっちのブザーのやつも……」
もう片方を渡そうとすると。
「チッ」
あれ、今舌打ちしなかったか?
「あ、あの……」
「はぁ~あ! ドルフィンプレートとドルフィンパフェの方ですね! はい、どう~ぞぉ!」
プレートを雑にカウンターへと投げ捨てられた。
ガタン! と音を立てて。おかげで、ちょっと料理がトレーにこぼれてしまう。
なんだ、この失礼な店員は?
全く、社内教育が出来てないんじゃないか。
とりあえず、俺は二つのトレーを持って、ひなたが待つテーブルへと戻る。
「わぁ! カワイイ、イルカさんのご飯だぁ♪」
手を叩いて喜んで見せるひなた。
「さ、食うか」
「はい! いただきます~」
俺は改めて自分のプレートを眺めてみる。
大盛ってレベルじゃないぐらいの、大量のポテトの山。
こんなに食えるかよ。
メインであるハンバーガーが食べることにした。
味の方は……。
「うん。うまいな。なんというか、どこかで食べたことのある家庭的な料理。作り手の優しさを感じるぞ。む、ゴボウが入っている?」
なんて食レポしてみる。
あれ? この食感……どこかで誰かに食べさせてもらったような……。
ふと、ひなたの方を見つめる。
「……」
スプーンを口に咥えたまま、固まっている。
「どうした? ひなた。口に合わないか?」
「……か、からあああい!」
そう叫んだあと、水をガブガブ飲み始めた。
「辛すぎですよ! これぇ!」
「ウソだろ? お子様向けのメニューだぞ?」
「ホントですよ! センパイ、他の人のやつと、間違えて受け取ったんじゃないんですか?」
顔を真っ赤にして怒り出す。
「いや、それはないぞ……じゃあ、口直しにパフェを食べたらどうだ?」
「そ、そうですね……」
気を取り直して、ひなたはひんやりと冷たいパフェを食べることにした。
細長いスプーンで白いホイップクリームをすくってみる。
「おいしそ~♪」
俺もこれなら、辛くはないだろうと安心してその姿を見守る。
口にスプーンを入れた瞬間。
「……」
又もや、固まってしまうひなた。
顔を真っ青にして、額から汗が吹き出す。
「ど、どうした? ひなた?」
「にがあああい! そして、臭い~!」
「ええ……ウソだろ?」
「ホントですよ! そんなに疑うなら、センパイも臭ってみてくださいよ!」
彼女にパフェを差し出されたので、俺は自身の鼻で確認してみる。
「うぉええ!」
あまりの臭さに吐きそうになった。
なんて表現すればいいのだろう?
シンクの三角コーナーに一週間ぐらい溜め込んだ生ゴミみたいな臭いだ。
このレストラン。ヤバくないか。
ふと、背後から視線を感じたので、振り返ると……。
柱の後ろに人影が。
サングラスをかけた先ほどの若い女性店員だ。
「ざまぁ。クソアマ……」
気色悪い女だな。なんだろ、あれ。