早くおかえり
「今晩の夕飯はステーキよ。早くおかえり」
ママが玄関で手を振る。
今晩も、でしょ。
そう思いながら「行ってきます」と手を振り返す。
いくらわたしが肉好きだと言っても、こう毎日じゃ飽きてくる。
評判のシーズニングスパイスで味付けしても、そんなにおいしくないし――
傲慢暴力パパがいなくなってから、ママはウキウキで料理をするようになった。
味付けが不味いだの焼き加減が下手だのと、パパに怒鳴られて殴られなくなった分、料理するのも楽しそうだ。
でもね、ママ。
あんな肉、どう調理やってもおいしくなるはずがないんだよ。
隠蔽するために仕方なく協力してるけど、本当は食べたくないのよね。もうお肉嫌いになっちゃいそう。
でも、「きょう夕食いらないわ」なんて言える予定もないし、ま、仕方ないか。